第11話 ドワーフの国・晩餐会
城に着くと、声を掛けてきた兵士が出迎えてくれた。
この兵士、ドワーフ王直轄部隊の隊長だそうだ。
兵士に案内され入った部屋に王が待っていた。
初代国王 パーシス・カタフィギス
休暇はマリンスポーツを楽しんでます!
そう言われても、全く違和感のないナイスガイだ。
«ようこそ、カタフィギス国王、パーシス・カタフィギスだ。今日は突然の招待だったが受けてくれた事、礼を言うぞ»
「こちらこそ、此の度は招待して頂き光栄です。どうぞよしなによろしくお願いします」
«……………»
(ん?)
«早速会場に移るとしよう!»
豪華な装飾を施された大き目の部屋に移動し晩餐会が始まった。
俺が呼ばれた理由はヴィエン王国に向かう商隊をゴブリンの襲撃から救った件のお礼だそうだ。
なんでも貴重な鉱石が積まれていたらしい。
(そう言えば名乗ったな…)
«本日の晩餐は非公式なもの、寛いで食事を楽しんでくれ»
宝石の様な美しい料理が運ばれてくる。フランス料理の三ツ星レストランのようだ。
『グルナ!凄いな!こんな綺麗な料理は見た事ないぞ!』
ディーテに良い経験をさせる事が出来て何よりだ。
会話も弾み、あっという間に晩餐会は終了した。
«グルナよ、2人で少し話をしよう。姫達は城の中を見学するといい、面白い部屋がいっぱいあるぞ»
別室に移動しドワーフ王が口を開いた。
«率直に聞こう。グルナ、お前は日本人か?»
「……!?……元日本人かな?」
«わははは!だと思ったぞ!よしなになんて日本固有の言葉だからな!こっちの世界では使わん!あ、俺のことはパーシスと呼んでいいぞ!堅苦しいのは家臣の前だけでいい»
「パーシスも元は日本人って事か?」
«そうだ。俺がこの世界に来たのは2015年に交通事故で死んだ後、それから500年この世界で暮らしてるんだ»
「おいおい、おかしくないか?俺は2017年に過労死して、この世界に来たけどまだ1年も経ってないぞ?」
«この世界のどの年代に飛ばされるかのルールは無い様だな。まぁ何かしらその時代でするべき”役目”あったのかもな»
パーシスは事故死した後、ドワーフ族の族長の子供となっていたそうだ。
その当時、亜人は今のように受け入れられていた訳ではなく魔物の様に人間から迫害を受けていたらしい。
人間の国にドワーフの集落はあり、虐げられる辛い日々を送っていたそうだ。
今から400年前、パーシスは独立を宣言。
この時パーシスに魔王の種が宿ったそうだ。
一族を率いて人間の国と戦うのだが、周辺国から見れば完全に負け戦だったそうだ。
しかし、前世の記憶由来のイノベーションは凄まじく、数の面で圧倒的に不利だったドワーフ族は、これを撃破する事に成功。
そのタイミングで魔王の種も芽吹き
晴れて魔王になったパーシスは永世中立国カタフィギスを建国、亜人の地位向上に尽力し今に至るらしい。
「!?おい!パーシス?今サラッと魔王になったって言ったか!?」
«なんだ?知らなかったのか!?»
そうか、パーシスの場合は魔王というより英雄王としてのイメージ強い。
亜人や一部の魔物からは慕われている存在だ、周辺国も問題視していないのだろう。
「んー、実はな…」
俺がこの世界に来てからの出来事やディーテの事について一通り話した。
«ふむ、最近討たれた魔王の土地は人間の国に編入されてる…森は何処の国の領土でもないし町を発展させて国を興してもいいんじゃないか?少なくとも俺は文句は言わんぞ!わははは!»
「…他所の国はそういう訳にはいかないだろ?」
「だが、ドワーフ国に来たのは町を発展させる為でもあるんだ。今のところ、ほとんどを森の恵みに頼ってる。
豊かな森だが有限だ。備蓄出来る保存食も必要だし、外貨が稼げる目処が立たない今、自衛の為の武具も自前で作らないといけない。
その為の技術者をスカウトする為にドワーフ国に滞在してるんだ。まぁ報酬をどうするかっていう問題はあるけどな」
«…派遣してやってもいいぞ?»
「ホントかよ!あ、でも今は給料がはらえないな…」
«人間と敵対しないと宣言している魔王候補と元日本人の腹心。
それに配下の魔物は主に背く事はしない。
それはこの世界の常識よ。技師を送り込んでも問題無かろう。給料は俺のポケットマネーから出しておく、心配するな»
«だが、その前に町を視察させてくれ»
「勿論だ。身の安全は保証出来ると断言するが、直接現地で見極めてくれ」
«この国には、まだ滞在する予定か?»
「後2日程滞在する予定だけど?」
«出国する前に城に寄るがいい»ニコッ
ディーテ達は見学を終え、紅茶の様なお茶を楽しんでいた。
『グルナ!まるで迷路だったぞ!』
大はしゃぎだったみたいだな!待ちくたびれてなくて良かった。
«では出国前に必ず寄るのだぞ?»
「はい、では2日後また伺います」
こうしてドワーフ王との有意義な晩餐会は幕を閉じた。
『そうなのか!派遣してくれるなんてドワーフ王は太っ腹だな!町のみんなもよろこぶぞー!』
《流石グルナ様ですわ!我々が城を見学している間にドワーフ王から好条件で技術者を派遣してくれる約束を取り付けるなんて》
いや、交渉したんじゃないよ?
王様から有難い申し出が有っただけだよ?
要するに甘えただけなのだ。
そんな話をしながら宿に戻る道中、入国する前に絡んで来た冒険者達に遭遇した。
«なぁ、もう少し負けろっつーの!そしたら人数分買ってやるからよぉ»
ドワーフの商人?を捕まえて値引き交渉中、もとい恐喝しているようだ。
「おい、お前ら汚れたパンツは洗濯したか?」
《痴れ者共め…目障りな…》
《刹那!弱い者虐めはダメですわよ》
『刹那、こいつらホントは虐めて欲しいんじゃないのか?』
«…あ?…ウワッ!!»
刹那さんの威圧は凄まじいのだ。
冒険者達は一目散に逃げてしまったが、それでいい。
無駄な抵抗は残酷物語という結末しか生まないのだ。
その後、問題の片付いた俺達は数日滞在しドワーフの国を満喫したのだった。