ショートコメディ『秋田くん』
なにをするにも根気は必要だ(そうか?)。続けようとする気持ち、それが根気だ。それがどれだけ持続できるかで、その人が飽き性かどうかがわかる。
私はどうだろう。ひとつのことを続けることができているだろうか。こういうのって、人と比べたところであまり意味がなさそうだけれど、やっぱり比べてみたくなるじゃないか。
同級生の秋田くん。彼は、明らかなまでに飽き性だった。内気で根暗な私は、あまり話したことのない男子に声をかけるのは気がひけるのだけど、頑張って話しかけてみよう。うじうじ。
「おっはー! 今日はいい小春日和だね!」
「……バカっぽい挨拶。えと、おはようございます」
なんだ、いったいこれのどこがバカっぽいと言うのか。どうやら、私は、今の時代についていけてないようだ。最近の若者は朝にどんな挨拶をしているのだ。根暗で、対人コミュニケーション能力が欠けている私には、想像が難しかった。同じ学生なのに、格差が。
「今日も元気ですねえ……」
彼は鬱陶しい蝿を見るような目で私を見た。ひでえ。ぶっ殺してやろうか。なんて、そんな物騒なことは言わない。私は、殺意を胸の奥底に押しとどめた。
「あのさあ、秋田くん、最近ハマってることある?」
「なんですか唐突に? ちょっと待ってください。いま、考えてるので、飽きた……」
彼は脱力して、呆けたように天を見上げた。いったいなにを飽きたんだ。……考えることに飽きたのか秋田くん。死ねな! 仕方ないもう一度だ!
「趣味とか、なんかないの?」
「趣きがあって味のあること、ですか……。うーん、特にないですね。ぼく、生きてることが趣味みたいなものなんで、ぼーと、空を見上げているだけで幸せなんです。綿飴みたいなふわふわの白い雲を見てる毎日です、そんな毎日にもう飽きましたけど」
「けど、まだ続けてるんでしょ?」
「なにを言ってるんですか。見ればわかるでしょう」
続けてるのか。
「今空を見上げても、天井しかありません」
「続けてない!?」
そういう意味で言った『続けてる』ではないのだけれど。まあ、言葉の意味や定義は人それぞれだから、意思の疎通は諦めよう。諦める? ああそうか。私が訊きたかったのはそれだ。私は、飽きてるのだ。
生きることに。
「秋田くん!」
「なんですか。◯◯さんはほんと元気がいいですねえ。鬱陶しい」
……こいつ普通に嫌味を言いやがった。それはともかく、私は、前のめりになって彼の目を覗き込んだ。
「秋田くん! 君は、飽きてもなお、諦める気はないのかな? 全てを、人生を、続けていく根気は、あるのかな?」
その目は全く泳いでいなかった。
「はなから、続ける気なんてないですよ。続ける気がなくたって、気がついた時には、続いているんです」
「そういうものなのかな」
「そういうものなんです。もういいですか?」
「なにが?」
「◯◯さんの質問に答えるのに、飽きました。いい加減にしてください。鬱陶しいです」
死ね。