表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『秋田くん』

作者: かげる

 なにをするにも根気は必要だ(そうか?)。続けようとする気持ち、それが根気だ。それがどれだけ持続できるかで、その人が飽き性かどうかがわかる。


 私はどうだろう。ひとつのことを続けることができているだろうか。こういうのって、人と比べたところであまり意味がなさそうだけれど、やっぱり比べてみたくなるじゃないか。


 同級生の秋田くん。彼は、明らかなまでに飽き性だった。内気で根暗な私は、あまり話したことのない男子に声をかけるのは気がひけるのだけど、頑張って話しかけてみよう。うじうじ。


「おっはー! 今日はいい小春日和だね!」

「……バカっぽい挨拶。えと、おはようございます」


 なんだ、いったいこれのどこがバカっぽいと言うのか。どうやら、私は、今の時代についていけてないようだ。最近の若者は朝にどんな挨拶をしているのだ。根暗で、対人コミュニケーション能力が欠けている私には、想像が難しかった。同じ学生なのに、格差が。


「今日も元気ですねえ……」


 彼は鬱陶しい蝿を見るような目で私を見た。ひでえ。ぶっ殺してやろうか。なんて、そんな物騒なことは言わない。私は、殺意を胸の奥底に押しとどめた。


「あのさあ、秋田くん、最近ハマってることある?」

「なんですか唐突に? ちょっと待ってください。いま、考えてるので、飽きた……」


 彼は脱力して、呆けたように天を見上げた。いったいなにを飽きたんだ。……考えることに飽きたのか秋田くん。死ねな! 仕方ないもう一度だ!


「趣味とか、なんかないの?」

「趣きがあって味のあること、ですか……。うーん、特にないですね。ぼく、生きてることが趣味みたいなものなんで、ぼーと、空を見上げているだけで幸せなんです。綿飴みたいなふわふわの白い雲を見てる毎日です、そんな毎日にもう飽きましたけど」

「けど、まだ続けてるんでしょ?」

「なにを言ってるんですか。見ればわかるでしょう」


 続けてるのか。


「今空を見上げても、天井しかありません」

「続けてない!?」


 そういう意味で言った『続けてる』ではないのだけれど。まあ、言葉の意味や定義は人それぞれだから、意思の疎通は諦めよう。諦める? ああそうか。私が訊きたかったのはそれだ。私は、飽きてるのだ。


 生きることに。


「秋田くん!」

「なんですか。◯◯さんはほんと元気がいいですねえ。鬱陶しい」


 ……こいつ普通に嫌味を言いやがった。それはともかく、私は、前のめりになって彼の目を覗き込んだ。


「秋田くん! 君は、飽きてもなお、諦める気はないのかな? 全てを、人生を、続けていく根気は、あるのかな?」


 その目は全く泳いでいなかった。


「はなから、続ける気なんてないですよ。続ける気がなくたって、気がついた時には、続いているんです」

「そういうものなのかな」

「そういうものなんです。もういいですか?」

「なにが?」

「◯◯さんの質問に答えるのに、飽きました。いい加減にしてください。鬱陶しいです」


 死ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ