8 外の景色
三日後、アトスと一緒に暮らす最後のチェスを楽しんでいるとローファスが部屋に入って来た。私たちがチェスをしているのに気づくと終わるまで待っていてくれていた。
「またまけた……なんどやってもかてない」
「儂に勝てるのはまだまだ先じゃの。じゃが今日は良い線いっていたぞ。儂も、うかうかしていられんの。いつでも遊びにおいで」
「セラちゃん、老師の言う通り、遠慮しないでいつでもおいで。老師も私もセラちゃんなら歓迎するからね」
「セラ……今日迎えに行くと言いましたが、止めても大丈夫ですよ?」
「だいじょうぶです……いきます……」
ローファスに手を引かれて扉を出た。扉が閉まるまでずっと老師とジェシカは手を振ってくれていた。初めて部屋から出た景色はキラキラと輝いて見えた。
「それでは行きましょうか」
手を引かれて廊下を一緒に歩く。人とすれ違うたびにじろじろと見られ、居心地が悪かった。手を引かれていない反対の手でローファスの裾を握りしめて、体を縮こませた。その様子に気づいたローファスは、何も無い空間から小さなローブを取り出した。
「セラ、これを被りなさい。これなら誰の目からも隠せますよ」
小さなローブをセラに着せ、フードを深く被せた。
「よいしょっと。では行きましょうか」
セラを抱き上げて廊下を進み始めた。ローブを被せて貰ったおかげで、さっきよりはマシになったがそれでも居心地の悪さには変わりなかった。顔をローファスの胸に押し当ててフードを深く被ってその場をやり過ごしていた。
「ローファスじゃないか!こんな所で何してんだ?」
前のほうから男性の声が聞こえてきた。様子を見る為に顔を上げると、そこに居たのは深く渋い赤髪に、暗い赤に紫がかった瞳をした軍服を着た背の高い男性だった。
「チェスター……あなたこそ何しているんですか。今は勤務中だったと思うのですが……」
「アランに用事があって、その帰りだったんだがな。そしたら前からお前が歩いて来るのが見えて珍しいと思って話しかけたんだが……そのフードの子は何だ?」
チェスターと呼ばれた男性がローファスと話していたと思っていたら、いきなり自分のほうに目を向けられ身を縮こませる。
「はぁ……例の子です。見ないで下さい。減るので」
「あぁその子かって、ひどくねーか!見るなって!」
「大きな声を出さないで下さい。セラが怖がっているでしょう。詳しい話は後できちんと話しますので、今は通して下さい」
「おっおう、分かった……」
ローファスの勢いに呑まれたのかチェスターはそのまま引き下がった。
「それではまた。チェスターちゃんと仕事して下さいね」
「分かってるよ、お前も仕事しろよ!嬢ちゃんも悪かったな、またな」
セラに声をかけるとそのまま去って行った。
「セラ待たせましたね。行きましょうか」
「もういいんですか?」
「えぇ。彼は私の友人でして悪い奴ではないんですが、元気がありすぎるのが難点でしてね。あまり悪く思わないで下さい」
歩きながらそう言うと外へと出た。部屋から外を見る景色よりもとても輝いて見えた。
「わぁ……!」
「これから色んな景色が見ることが出来ますよ」
暫く歩くと馬車が見えてきた。
「これに乗りますよ。一旦降ろしますね」
その場で降ろされると先にローファスが乗り込んだ。その後、御者に抱えられて緊張したが、すぐにローファスの元に渡されたので安心した。馬車に乗るとローファスの膝の上に乗せられた。コンコンと御者に合図を送ると直ぐに馬車は動き出した。ガタゴトと音を立てて進む馬車から外を見ると風景がみるみるうちに変化していった。王城から門を抜けると城下町になった。周りは人で溢れていて活気づいていた。
「ひとがいっぱい」
「ここは首都なので人が一番多く集まるんですよ。落ち着いたらこの辺を視て回りましょうか。面白いものや珍しいものが沢山ありますよ」
「ほんと!?」
笑顔で振り向くとローファスは微笑みながら頷いた。
「では、邸までは時間がありますので少しお話をしましょうか」
「おはなし……」
ローファスの真剣な眼差しを見て大事な話だと分かり姿勢を正した。