43 白い結晶
白い水晶を持ち帰ったセラはネーヴェの涎まみれになっている水晶を丁寧に拭いていた。机の上に一旦置いて引き出しから魔針金を取り出した。魔針金とは魔術を組み込む事が出来る針金で自分で物作りをする時に良く使われる。この間街に出かけた時に雑貨屋で買った物だ。その魔針金を小さいペンチを使ってある物を作っていた。
「セラ何しているの?」
部屋で本を読んでいたエーゼルがセラが何か作っているのに気づき声を掛けた。
「ネーヴェが拾って来た水晶でネックレスを作っているんです」
「へぇ、セラって手先が器用ね。凄く上手!」
「出来た。どうですか?」
「わぁ、とても似合ってるわよ」
水晶に魔針金を絡ませそこに綺麗な糸を紡いでチェーンと絡ませてそこに水晶を引っ掛けてネックレス状にした。首から下げるときらきらと輝いている様に見えた。
「エーゼルにはこれをあげますね」
「えっ!」
「残った糸を編んでブレスレットにしたんです。色違いのお揃いを作ったんです。あっ……迷惑でしたか?」
「そんな事無い!嬉しいありがとう!大切にするね!」
エーゼルは嬉しそうにブレスレットを受け取り手に付けた。セラも同じく付けてお互いに見せ合った。
「本当に上手~」
「ふふ」
「そうだ!今度作り方教えて!」
「勿論!」
セラが自分で作ったネックレスとブレスレットは常日頃から身に着ける様になった。セラが身に着けているアクセサリーを見て羨ましく思った女子たちはセラに詰め寄った。
「セラ様それどちらで買ったの?」
「あなたには相応しく無いわねぇ」
「私たちが貰ってあげるわ」
「これ買った物では無いんです。だからあげられないんです」
悲しそうな顔をするセラを令嬢たちは見ていたがそれでもアクセサリーを奪おうとした。
「へぇそんなに大事な物は殿方にでも貰ったのかしら?」
「なら尚更あなたに相応しくないわねぇ」
「そうよ!それを寄越しなさい!」
令嬢が無理にアクセサリーを奪おうとするとセラはネックレスを握って奪われそうになるのを防いだ。そんなやり取りをしていると向こうから人が来た。
「何をしている」
聞き覚えのある声に皆後ろを振り向いた。するとそこに居たのはオルフェだった。しかしいつものオルフェの声とは違い低く地を這うような声だった。明らかに怒っている声だった。
「殿下!」
「何をしていると言っているんだ」
「こっこの者が身分に合わない物を身に着けていたので注意を……」
「身分?」
「そうですわ!身分に相応しい物を身に着けるべきだと教えて差し上げていたのですわ!」
「黙れ……」
「えっ?」
「黙れと言っている」
オルフェは先程よりも拳を握り締め怒りを抑えていた。
「先程からふざけた事を!身分ならセラは公爵令嬢だ!貴様たちよりも身分が高い。それにそれはセラが自分で作ったものだ!人が身に着けている物を奪おうとするとはどういう事だ!お前たちが他人を教育する?ふざけるなっ!そんな資格はお前たちには無い!恥を知れ!この国は平民が居るからこそ成り立っている。だからこそその分私たち貴族が責任を持って行動しているんだ!人を貶める為の身分では無いぞ!」
そう言われた令嬢たちは顔を青ざめてその場から立ち去った。残されたセラはこの後どうするか考えていた。
「オルフェ様……あの助けて頂きありがとうございます。おかげで助かりました」
「大した事してないよ。それより怪我はしていない?」
「はい、大丈夫です」
「良かった、セラに何かあったらどうしようかと思った。それに助けるのは当たり前だよ。物取りなんて人としてするべき事じゃないからね」
先程と打って変わってオルフェの雰囲気が柔らかくなった。その後心配したオルフェがセラを教室まで送っていった。突然来たオルフェに皆びっくりしたが傍にセラが居た事で「何だセラ嬢と一緒だからか」と皆温かく見守った。
そしてまた季節は巡ってくる。




