5 目覚め
気づくと真っ白な空間に居た。周りを見渡しても何も無く、ただ真っ白な空間が広がっているだけだった。
「どこ?ここ……わたし、しんだの……?」
何かないかときょろきょろとしていると声が聞こえてきた。
『死んでないよ~』
『ないよ~』
「!」
声が聞こえてきたほうを見ると人間よりずっと小さい羽が生えた者がそこに居た。
「だれ?」
『内緒~』
『内緒~』
『でも~僕たちは~』
『君を守る者~』
『なの~』
「まもる……もの?」
可愛らしいそれらは楽しそうにセラの周りを飛び回った。
『そうだよ~僕たちは君が好きなの~だから守るの~』
『そろそろ目を覚める頃だね~』
『私たちはずっと一緒に居るからね~』
小さい羽が生えた者たちがそう言うと、突然眠気が襲ってきた。目を擦り眠気を覚まそうとしたが、それに反してどんどん瞼か重くなる。やがて完全に瞼が閉じると、そのまま眠ってしまった。
コツ……コツ……コツ……
セラが眠ってしまった後、優雅に靴音を響かせながら近づく者がいた。地面に膝をつき、彼女の前髪を優しく掻き分けた。
『大丈夫よ……』
優しく微笑みながらそう言うと静かにその場から消えていった。
◇ ◇ ◇
チチチチチッ……チチチッ
「う……うん……」
鳥の囀りと窓から差し込む光で目が覚めた。暫く呆けていたが、だんだんと意識が覚醒していった。目の前には真っ白な天井があり部屋全体が日の光でキラキラしていた。自分はというとふかふかのベッドで寝かされていたようだった。
「ここ……どこ……?」
疑問を浮かべながら起き上がろうとしたが、全く身体が動かなかった。首だけは動くようだったので周りを見渡すと、枕元近くの台に照明灯があり近くにはテーブルや椅子も置いてあった。窓の外を見ると鳥たちが元気よく飛び回っていた。
「いいな……」
自由に飛んでいる鳥たちを見て思った。自分は自由になんかなれない。自由になっちゃいけない。それだけの重い罪を重ねてきて、自由になれるはずがないと思った。
いつまでここに居られるだろう。と思っていると扉がゆっくりと開いた。
ガチャ
「おや?起きておったのか。気分はどうじゃ?」
身体が動かないので首を動かして扉のほうを見ると、髪は無いが立派な髭を生やし金色の瞳でこちらを見ている老人が居た。
「お前さん名前は?」
「セラ……です……」
「ほほ、セラというのか。良い名前じゃな。儂はアトスというんじゃ。ここでは皆から老師と呼ばれとるな。どれ、ちょっと身体診せて貰うぞ」
近くにある椅子を持ちながらベッドまで近づいて来た。椅子に座るとセラの頭に手をかざした。ぽかぽかと温かさを感じ、うとうとし始めえたが、かざされた手が遠くに行くのを感じ寂しくなった。
「ふむ。こりゃひどいな……魔力回路がボロボロじゃ……こりゃ、ある程度治らんと解呪なんて出来やしないの……」
ぼそぼそと何かを呟くアトスを不思議に思いながら見ていたが、ある疑問が生じ口を開いた。
「なんで……たすけてくれたのですか?ざいにんなのに……」
名前以外ずっと話さずにこちらを見ていたセラが、突然話したことにアトスは驚いた顔をしたが、すぐに切り替えて笑顔になり答えた。
「お前さんは罪など犯してはおらんよ」
「そんな……わけ……ない……です」
「本当じゃよ……罪に問われることは絶対にありゃせんから、安心しなさい」
「だっ……だって……」
「うん?」
「わ、わたし……いほうにじゅぐをつくっていました……」
「うむ」
「そ、れにつみをかくしたり……」
「ほほ」
「あ……あんさつだって……して……ました」
罪を告白しているのにアトスは優しく微笑んだままだった。
「じゃが、それを全て儂らに教えてくれたのは、他ならぬお前さんじゃろう?」
「お主が儂らに伝えてくれたことで奴らを一網打尽に出来たんじゃ。感謝こそすれ、罪に問うことなんてありゃせんよ」
「でも……」
「大丈夫じゃ……大丈夫……」
落ち着かせるようにセラの頭を撫でた。いつも暴言を吐かれ殴られ蹴られていたのに、優しく撫でられたことに対してとても戸惑った。それと同時に嬉しさが込み上がった。
「ふっ……ふぇ……ふっふっふっ……うぇ……うっ……」
「フォッフォッフォッ!そんな声を抑えて泣かんでも。ほれほれ大声出しても良いんじゃ。ここには儂しか居らんからの」
「うえーん……うっうっ……ごめ……ごめんなさい……ぐう……」
今まで溜め込んでいたものが吐き出された感じだった。泣き疲れて眠るまでアトスはセラの頭を撫でて傍に居続けた。




