10.5 救いたいもの※ローファス視点(3)
夕飯の後、ローファスに呼ばれ執務室へ集まった。
「夜遅くにすみません。集まって貰ったのは他でもありません。新しい家族のことです」
「どういうことですか?」
「誤解はしないで下さい。私が愛しているのはアデルだけですよ」
アデルは新しい家族と聞いて不安になったが、すぐに自分のことを愛していると言ってくれて顔が赤くなった。
「今からその子について説明しますね」
少女について話せないことは多かったが出来る限り話した。奴隷だったこと強い魔力があること自分が愛されたことが無いこと、人を怖がってしまうこと身寄りが無いことなどを話した。
「強制はしません。嫌でしたら言って下さい」
ローファスは心配になりながらそう言った。少女は保護したいが家族が第一な為嫌だと言われれば断るしかなかった。
「困りましたね……」
「やはり駄目ですか……」
「違いますよ!我が家には女の子のものが無いじゃないですか!アリスはまだ赤ん坊ですし、遊ぶものや服に家具が無いじゃないですか!女の子には女の子に必要なものが沢山あるんですよ!これから忙しくなりますよ」
「妹が出来るのですね楽しみです」
「とうさま!ねえさまはいつくるの?」
「提案をしてみてあれですが良いのですか?受け入れてくれて嬉しいのですが……」
自分の我儘で迷惑をかけるつもりはなかった。自分に合わせているだけなら止めても良いと思っていたがそうではなかったらしい。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。エディもアランも、もちろん私も自分の意見を持っていますよ。ローファス様の考えに私も賛成です。いつお迎えするのか決まっているのですか?早く準備しないといけませんね。早速明日から準備をしましょう」
アデルの言葉に嬉しさが込み上がった。やはり自分の家族は素晴らしいと改めて思った。
家族を第一に考えているローファスは愛妻家でも知られている。貴族の間では彼の前で家族のことや、身内のことに対して悪いことを言うと貴族生命が失われるとまで言われていた。
温かい目で使用人たちに見つめられながら、ローファスは話を続けた。
「目覚めたばかりで体調が万全では無いのでいつになるかは分かりません。今は老師の下で医療中です」
「老師が治療にあたっているのであれば安心ですね」
「老師とは誰ですか?母上」
「今は現役を引退してらっしゃるのだけど、とても偉大な方よ。だからみんな敬意を表して老師と呼んでいるの。名前はアトス・サーヴァン様よ。これから授業で習うと思うからしっかり覚えておきなさい」
「はい!」
話はまとまりアデルか中心となって準備をすることになった。メイドたちも誰が専属になるか競い合っていた。
「では一番若いエリーが専属で良いわね」
「仕方ないわね……」
「そうね残念だけど……」
「エリーがちゃんとやるのよ?」
「任せて下さい!セリカ様!健やかに過ごせるようにしますわ」
部屋の内装から家具までみんなこぞって案を出した。色は女の子らしくピンクが良いと言う者、いや落ち着いた水色のほうが良いと言う者など様々な意見が出て滞りなく準備が進められた。
◇ ◇ ◇
一か月後ようやく少女が回復し邸に連れて行けることになった。少女の名がセラというのも最近知ったばかりだった。そしてセラの意思を確認する為一度会うことになった。
「老師、セラの様子はどうですか?」
「まだ完全に回復はしとらんがな、まぁ邸で生活する分には少し気を付ければ大丈夫じゃな」
「そうですか……首輪はどうなりましたか?」
「解呪はまだ出来んな……魔力回路は回復して入っているが、まだ万全じゃないからの。もうしばらくかかるの。週に一度検査するから邸に連れて行くなら見せに来いの」
「分かりました」
老師と話をしているうちにセラがいる病室の前にやって来た。病室に入るとセラは驚いて座って居た椅子から飛び降りて、老師の助手であるジェシカの後ろへ隠れてしまった。こちらを窺うようにそっと見つめている顔は初めて報告を受けたよりも顔色は良いように見えた。
「驚かせてすまんのセラ。この方はな、この国の宰相を務めておられるローファス・ノルディス様じゃ。若いがとても優秀でな、陛下の右腕として活躍しておるよ。それでこう呼ばれとる。れい……」
「それは良いでしょう。その名は好きませんし、何より何勝手に言おうとしているんですか。はぁ……君がセラですね。初めまして。ローファスと言います。君にある提案を持ってきたのですが聞いて貰えますか?」
老師が余計なことまで言いそうになったので途中で口を挟んで止めた。勝手に他の者たちが付けた異名などセラには教えたくなかった。すると不安そうにセラが言った。
「てい……あん?」




