10.5 救いたいもの※ローファス視点
お待たせしました。
連載再開します。
セラのことを知ったのはセラが城に来てすぐのことだった。目の前に居るのはセラを保護した第一魔法騎士団団長のアラン。青髪青緑色の瞳をしている長身の男だ。マカロフを捕らえに行っていたアランから報告を受けていた。
報告からはひどい状態だった。王太子に呪術をかけたのが年端もいかない少女だったこと、それに加えて呪術返しもこの少女がおこなったことに驚きを隠せなかった。呪術返しの影響で身体はボロボロだった。老師が治療にあたっているということなので助かるとは思うがそれでも心配ではあった。
「そうですか……分かりました。アランすぐに彼女の警護にあたって下さい。何かあるか分かりませんからね。陛下には私から伝えておきます」
「分かりました。すぐに警備体制を整えます」
「何かあればすぐに伝えて下さい」
アランは一礼すると出て行った。直後バタバタと駆けてく音がした。私は溜息を吐きながらこれからのことを考えていた。
――問題が山積みですね……あのクソ男の処分も考えないといけませんし、全くこの忙しいときにやってくれますね
再度溜息をついたローファスは陛下の下へ行く為に重い腰を上げた。
◇ ◇ ◇
トントン
「失礼します。ローファスです」
「ローファスか?入れ」
「失礼します」
部屋に入ると中央には金髪金色の瞳をもった男性が座って居た。その男性こそ、ヒュードレイン国国王アーレン・ライト・ヒュードレインその人だ。厳しい顔つきで書類に目を通している。
「どうした?あの馬鹿者は捕まえたのだろう?何か問題があったか?」
「ありすぎですね……密輸に賄賂に脱税……さらには奴隷を買っていましたね……」
「奴隷だと!奴隷制度はもう何百年前も前に廃止されたはずだ!」
「その通りです。今回保護した少女以外にも居たらしいのですが……もう何年も前に亡くなっているということです。まだ調査段階ですが……」
少女を保護した後すぐにアランは邸に戻っていた。邸の隅々まで調べたところ子供のもと思われる白骨したものが多く少女が居た地下とは別の地下に見つかった。少なくとも五十人は超えているという。
「そうか……分かった。その者たちは丁重に供養しよう。してその少女は大丈夫なのか?」
「今老師が治療にあたっています。一つ問題がありまして……殿下を呪っていたのはその少女です。殿下にかけられていた呪いがその少女に返ってきて危険な状態です」
「そうか……その子が……」
陛下は手を顎に付けて唸った。それはそうだろう自分の息子を命の危険に晒されたのだ。奴隷だったとは言え罪は裁かれなければならない。とは言え疑問も残っている。殿下が呪詛をかけられた三日後に突然回復したのだ。我が国屈指の魔法医療団でさえ解決出来なかった。使用されていた呪詛の術式が複雑で安易に手を加えてしまうと悪化する恐れがあった。それが三日で解決したのだ。話によれば呪詛返しが起こったそうだ。だが医療団も騎士団も誰も呪詛返しをおこなった者はいなかった。老師もずっと殿下に付き添っていたが、解決策を考えている途中であった。
「陛下ですが老師の話を聞いてからでも遅くはないと思われます」
「そうだな。疑問が残っておるし、何より体調が回復しないことには話にならんからな……老師に任せておけば大丈夫だとは思うが……これからうるさい奴らが出てくるだろうな」
「そうですね……」
二人は頭を抱えながら溜息を吐いた。そこに扉を叩く音が聞こえた。
「陛下いらっしゃいますかな?」
そう言いながら返事も待たずに部屋に入って来たのはちょうど話をしていた老師だった。
「老師……返事を待たずに入って来るのは止めて頂きたい」
「ほほ、まだまだ若造のひよっこが何言っとるんじゃ」
老師にとっては陛下もまだまだ子供。幼い頃から私も陛下も教師として面倒を見て貰っていたので未だに頭が上がらない。
「まぁ良い。もう知っておるだろうが、今日来た子について話をしようかの」
老師が話す内容に驚きを隠せなかった。殿下に呪詛をかけたのは確かにこの少女で間違いはなかったが、問題はそのかけかただった。呪詛の中に呪詛が自分に返ってくるように複雑に分かりづらく組み込まれたものだった。
「加えて時間差で呪詛が返るようにの。多分じゃが、すぐに呪詛が解ければ他のものに同じことをさせると思ったのじゃろうな。時間さえ稼げれば殿下が今も苦しんでいると思われるし死んだと思わせることも可能じゃからの。実際殿下を死んだと思わせることで、あ奴を捕まえることが出来たしの。まだ幼い子なのにのう……」
幼い少女が自分の命を顧みず会ったこともない人物を助けたことに驚いた。少女に対する処遇を改めて考えるべきだとローファスは思った。




