12話 VSサーナル
次の日、リュウクはララに徹底的にしごかれていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ラ、ララさん……流石にそろそろ休憩しね?俺、死にそうなんだけど。」
「なぜ、休憩するの?まだウォーミングアップも終わってないじゃない。」
「もうかれこれ6時間特訓してるよ?!?!」
「ロクジカン……?ロクジカンって言うのはよくわからないけどくだらないものだということは分かったわ。」
「時間の単位が馬鹿にされた?!?!」
この世界の時間は時間という単位ではないらしい。
まぁそんなことはどうでもいいとして。
「とにかく、この短時間で3つも【戦技】叩き込まれたんだからもうそろ休憩しようぜ……」
「仕方ないわね。だらしないリュウクをその顔に免じて休ませてあげるわ。」
「その顔に免じて……?」
「あなたそこそこイケメンだからよ?」
「え?……え?!?!」
元の世界じゃ、彼女も女友達ですらも出来なかった俺がイケメン?
何か悪い夢でも見てるのか……?
「リュウクは平均よりは相当いい顔してると思うのだけど。たくさんの女に言い寄られて来なかった?」
「1人も来てない……俺、この世界じゃイケメンなのか……?」
これは、俺の異世界ライフにも希望がぁぁぁ!!!
「王都にでて、可愛い子片っ端から声掛けて捕まった子とデートして、それでそうしてあーして……」
「欲望が口から漏れだしてるわよ。口を慎め。」
「……はっ!?申しわけございません……」
よし、話を戻す。
俺はレレに強めの【戦技】を3つ教わった。
【戦技 突刃】
【戦技 上昇斬り】
【戦技 瞬時風撃】
の3つだ。
【戦技 突刃】は真っ直ぐ一直線にしか進めないけど威力が高めらしい。上に向かって放てば相当な距離飛べるらしいけど、降りた時に無事かは保証されてない。
【戦技 上昇斬り】は文字通り上に向かって斬りあげる技だ。これは、ただただ威力が高いのと次の攻撃がしやすいから覚えさせられた。例えば【戦技 上昇斬り】の後に【戦技 突刃】なら、敵は空中にいるのだから【戦技 突刃】をかわしにくくなる。
【戦技 瞬時風撃】はリュウクが暗殺者だからと言う事でレレが気を使って覚えさせてくれた技だ。一瞬で発動できる【戦技】のひとつらしい。一瞬で対象者を殺さなきゃいけない暗殺者にとっては意外に大事かも知れない。
「俺さ、王都に行きたい。」
「チヤホヤされに?」
「ち、違うわ!!ギルドで支給して貰った武器って短剣2本とベルトだけなんだわ。だから、武器と防具を買い揃えたいなって。」
「なるほど……分かったわ。ついでにギルドに寄ってひとつ簡単な依頼を受けてみてもいいかもね。頑張ってー。」
「あれ?ララは来ないのか?」
「なんでリュウクの買い物にララがついて行かなきゃ行けないの?」
「……た、確かに。レレがいっつも一緒に来てくれるからてっきり……」
「早く行きなさい。日が暮れるわよ。」
「わ、わかっよぉ……」
初めておつかいを任された子供のような気持ちでリュウクは1人で王都に向かっていた。
「しっかし、国王頭のネジ飛んでるよなぁ。自分の可愛い可愛い娘達を殺し合いに出したりして……」
屋敷から王都までの距離が少し遠い事に不満を感じながら、何も無い林道を真っ直ぐ進んで行った。
しばらくして。
「やっと着いたぁ。よくよく考えたらさ、異世界ものの主人公って、大体引きこもりニートか、三十路の冴えないサラリーマンじゃん?俺帰宅部だったけど学校皆勤賞貰うぐらい行ってるよ?なんで異世界転移したの?」
なぜ、今!?と思える疑問を口に出しながらリュウクはレレに貰った地図に書いてある武器屋を目指す。
「あ、あれじゃね?」
それらしき看板を見つけリュウクは確信した。
剣をクロスした絵が看板に堂々と描かれている。
文字も書いてあるがこちらは読めない。
リュウクは勉強しなきゃなぁ~と思いながら武器屋へ向かった。
入口に立ちドアを開けようとした瞬間、
「おい、しっかり持てや!!また罰ゲームしたいのか?」
「ご、ごめんなさい……」
大柄な男と小柄な少女が揃って出てきた。
少女は体格に見合わない大きな銃を二本も抱えていた。
普通逆じゃね?と思ったが、まぁ俺があれこれ言うべきことじゃないだろうと思い武器屋に入った。
「たのもぉー!!長剣と銃って売ってるー?」
中からおっさんが出てきた。
「へい、いらっしゃい。長剣も銃も沢山売っとるでー。」
そういうってそのコーナーまで案内してくれた。
「この真ん中にある透明の石はなんだ?」
「そいつは魔法石だ。無属性でも使えるように万能魔法石使ってんのよ。」
つまり俺でも使えるのか……。
デザインかっこいいし、買ってくか。
そこそこ値は張ったがいくらでもいいよとレミアから大金を貰っていたので惜しまず買った。
ついでに同じデザインの短剣も買った。
初期装備使ってる人ってダサい気がして……
次は銃だ。
暗殺者はそんなに銃を使う『技』がないらしい。
だが、何かあった時のために買っておいた方がいいだろう。
こちらは普通の片手銃を買った。
あんま使わないんじゃ意味ないし。
ということで30分くらい悩んだ後、以上のものを買い占め、武器屋をあとにした。
店を出ると何やら大通りの方が騒がしかった。
何事かなと興味本位で覗いてみると、
「エルフと人間のハーフが車を破壊したぞー!!」
「やっぱり、エルフはクソだ!!」
「死ねや!エルフ!!」
何やら、ハーフエルフの子が車を壊してしまったらしい。
リュウクには関係の無い事なのでその場を去ろうとした。が、
「あの子ってさっきの……」
先程、武器屋の前ですれ違った少女であった。
綺麗な銀髪にオレンジ色の覇気のない目。
特徴的なその顔はしっかり覚えていた。
きっと、笑ったら凄く可愛いだろうと予想がつく。
リュウクは何か良心に突き動かされ、飛び出した。
「落ち着いてください、皆さん、この子が何をしたと言うんですか?」
「お前誰だ?よそ者が入るんじゃねぇ!」
「そうだ、そうだ!こいつは車を破壊したんだ。」
「ち、違う、のです……私は何も壊してなんか……」
なるほど、状況は読めた。
この流れ、恐らくエルフは嫌われていて誰かがエルフを陥れようとしているな……。
リュウクは先程レレから教わったばかりの[鑑定眼]を使う事にした。
[鑑定眼]は誰がどのような人なのか、何があったのかなどの事が何となく大まかにわかる[スキル]た。
「[鑑定眼]!!」
見えた。
通路の端で楽しそうにこの状況を見ている男が元凶だ。
そして[鑑定眼]で見ている内容の中に気になる記述が。
「この世界って奴隷制度認められてるのか……?」
銀髪の少女は奴隷らしかった。
主人は元凶。
ここまで推測が着いたところで。
さっきの男が道の真ん中に出てきた。
「あ、あぁ……!!俺の車が壊されてる……?!誰か、誰か助けてくれーー!!お金を恵んでくれーー!」
なるほど、これが狙いだったのか……。
「マジか!!少しなら出してやるぜ!ほらよ!」
「私も少しならあげるわよ。困った時はみんなお互い様ですものね。」
沢山の方から同情の声が上がり、お金を男に渡していく。
そして。
「テメェのせいで困った人が出てんだよ!死ねぇ!!」
「ほんと最悪ね、死ねばいいのに。」
少女は周りからの罵倒が酷くなり目をうるうるさせた。
ここであの少女を見捨てるほどリュウクは腐ってない。
「皆の者よく聞け!!貴方達は騙されている!!」
リュウクはおおきな声でそう言った。
「何言ってんだこいつ。」
「頭おかしいヤツ来たな。」
ブーイングが上がるが気にしない。
「この男は貴方達を騙している!!」
そしてリュウクは、金を皆からむしり取った男をビシッと指さした。
「は、はぁ?何言ってんだ?俺はあいつに車を壊された。それでなんで俺がみんなを騙している事になる?」
「なりますよ?」
「何言ってんだこいつ。頭おかしいな。」
男が怒声を上げた。
「証拠があるんだな、これが。まずこの車は土属性の魔法で壊されてる。でも、この子が使えるのは火属性のみ。この点でまず、彼女が犯人ではない事は確定だ。」
さっき、[鑑定眼]で見たので、間違いない。
「そ、そんなことは……た、たまたま土が着いただけかも知れないぞ?」
「苦しい言い訳をするな。残念ながら焦げた匂いが全くしないのに火属性魔法を使うことは無理じゃないかな?」
「ぐ、………ぐぅむっ……」
「反論も出来ないか。では彼女の疑いが晴れたところで、犯人を発表しようと思いまぁーす。」
周りがざわざわし出す。
「犯人は……」
シーン……
周りが一気に静かになる。
「お前だ!!」
そう高らかに告げた。
指の先は詐欺主人を指している。
「はぁ?何言ってんだ、俺が、俺の車を壊しただ?馬鹿にも程がある!!」
「理由は一つ。この場にいる土属性のやつはお前しかいない!!」
「……色々とツッコミどころ満載の推理だが、まぁここは大人しく下がっておいてやろう。……ほれ、行くぞ。72号。」
そう言って詐欺男はこの場を離れようとする。
周りも呆気にとられている感じだ。
本当はこのまま去ってしまうべきなのだと思う。
でも、それでも、リュウクは72号と呼ばれた少女の縋るような目を振り払う事ができなかった。
「ちょっといいですかな、ご主人。」
「あぁ?……またお前か。なんだ、わざわざ殺されに来たのか?」
「その少女、解放してやってくれないか?」
「は?解放してどうする?そもそも、俺が金出して買ったものだし、解放した所で主人が3日間見つからければ生きる価値もない奴隷と判断されて首輪が締まって死ぬぞ?」
なんと、そんな酷い仕打ちが仕掛けられていたとは。
たしかに少女の首には首輪が付いていた。
「ほほう。では、私が買い取りましょう。いくらで売っていただけますか?」
「さっき、金儲けの邪魔してきた野郎に売るものがあると思ってんのか?」
「少々値を張っても大丈夫ですよ?」
幸いレミアから多めにお金は貰っているし、防具もまだ買っていない。
「……いいや、お前には絶対売らん。気に食わんのでな。諦めよ。」
「そこをなんとか出来ませんか?」
「しつこい野郎だなぁ!!俺を殺せたらくれてやるよ!!!」
そう言って男はこちらに向かって手を伸ばした。
《ランド・ボール》
土の玉がリュウクめがけて大量に発射される。
リュウクはそれに怯むことなく、
【戦技 突刃】!!
斜め上方向に飛び進んだ。
そして体を逆さにし、
【戦技 上昇斬り】
逆さで【戦技 上昇斬り】という斬新な手に出る。
リュウクの長剣は相手の脳天目がけてすごい速度で、落ちていった。
「何がしたいんだ?」
相手は不愉快な声を出しながら素手でリュウクの剣を右へ弾いた。
リュウクはそのまま地面をすごい勢いで転がって行く。
「貴様、なんのつもりだ?さっきから魔法も使わず、【戦技】のみで攻撃しやがって。しかも剣に魔力を流してさえいないとはほんとに戦う気があるのか?」
そう言いながら不信感しかないという目でリュウクを見つめ、
「その剣……属性規制のない高いやつだな。お前……無属性だろ。無属性専用の剣買うとなめられるからやめたんだろ。どうだ?」
ここまで黙って聞いていたリュウクは……笑を浮かべていた。
「悪ぃ、悪ぃ、俺戦った事ないからさ、この剣の使い方よく分かってなくて。後、俺確かに無属性だけどなめない方が身のためだよ?」
「……クックック…はっはっはっはっはぁ!!!面白い。なにが『舐めない方が身のため』だ。貴様は爆笑案件だ。父上に話して聞かせてあげるとしよう。」
そう言いながら相手の男は杖を取り出した。
《ソイル・メイク・ゴーレム》
そう言った直後。
男の目の前から一体の大きな土の人形が現れた。
なかなかでかい。
恐らく2mは軽くあるだろう。
「無属性のお前でこのゴーレムを殺す事が出来るかな?無理だよなぁ!無属性せいだもんなぁ!!」
大笑いしながら男が挑発してくる。
その笑い声を指示と受け取ったのか、ゴーレムがこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。
超太い腕の超デカイ拳のパンチだ。
恐らく喰らえば身体中の骨が複雑骨折するだろう。
だが、そんなことはなかった。
《時間よ、止まれ!!!》
バリバリ日本語で叫んだ詠唱。
だが、何か被って聞こえた声があった。
《タイム・ストップ》と。
詠唱が終わると同時にリュウクから青白い空間が広がって行く。
あの時と同じだ。
以前、それとなく魔法の使い方をレレに聞いた事があった。
詳しくは教えても意味ないからと簡単にしか教えてもらえなかったが。
レレによると、魔法は詠唱とイメージが大事らしい。
今は時間が止まるイメージをひたすらしている。
目の前のゴーレムは拳をこちらに向けたまま、動かない。
そのゴーレムを、横に素通りし、男の前に立った。
短剣を首筋に押さえつけ、詠唱した。
《解除》
青白い空間はリュウクに吸い込まれるように消えていった。
その直後。
「な、な、何が起こっている?!?!き、貴様、何をした?!」
男は首に血を滲ませ叫んでいる。
男にリュウクはこう告げた。
「方法については、企業秘密と言う事で。それで、このまま文字通り首を跳ねられるか、この子を俺に売るか、どうする?」
「……分かった。降参だ。」
そう言って男は杖を落とし、両手を上げた。
そして、
「72号、お前に俺からの最後の命令だ。」
今まで成り行きを見守ってきた少女はビクリと肩を震わせた。
「この男を……殺せ!!!!」
「!?!?!?」
少女はびっくりして目を見開いた。
顔が青くなり、震えている。
「どういう事かな?死にたいのか?」
「どうした、72号。はやく殺らんか!!」
少女はさらに大きく震えだした。
だが、やがて決心したような顔で、消え入りそうな声で言った。
「それは……で、でき……できない……です……」
「!!ほう、そうか。ならば契約に反したとしてこの者に死を!!」
「何言ってんだ、お前!!」
そう言い終えた瞬間、少女の首輪がすごい速度で締まりだした。
「ん……くっ……くる、し……い……!!」
少女は苦しみに満ちた顔でこちらに助けを求めるような素振りを見せた。
見知らぬ少女を救うのに、これ以上の理由がいるだろうか。
リュウクは躊躇う事無く叫んだ。
【戦技 瞬時風撃】
男の顔が跳んだ。
倒れた男の首から噴水のように血しぶきが上がり、跳んだ顔は魂の抜け切った顔をしている。
男の生命活動は完全に途絶えた。
リュウクは我に返り、なんて事をしてしまったんだと真っ青になっていると、
「無礼をお許しください!!」
そう言って、少女は俺の手をとり、雑木林が生い茂る方へ走っていった。
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「先程の無礼、お許しください。」
少女は凄く申し訳なさそうな顔で謝った。
「何も無礼な事はないよ。王都の中だと殺人がバレちゃうからだよね?」
「い、いえ……きっと、周りの人は私が主人を……いや、元主人を殺したって言うから……です。」
「……辛かったね。」
ただ一言、それだけ言った。
そんな誰でも言えるような一言だったが、少女は泣き出してしまった。
「い、今まで……今まで誰も、……うっ…私をいたわるような言葉をかけてくれた人……うぅ……い、いなかったから……」
少女は目元を押さえつけながらひたすら泣いた。
しばらくして落ち着いてから少女と少し軽い会話をした。
さっきの男はサーナルという男で、大商人の息子らしい。
そして、話は奴隷制度の話に。
「私は生まれながらに奴隷の一家で、ハーフエルフです。エルフは人間に嫌われていて、人間に捕まったエルフは首輪を付けられて一生奴隷として生きなければならない、です。」
「それはひどい話だな……君、本当の名前はなんて言うの?」
話が重くなってきたので、雑談に移行する。
あの男には、「72号」と呼ばれていたがまさかそれが本名では無いだろう。
「私には名前がない、です。元主人には72番目の奴隷と言う事で、72号と呼ばれていたです。」
まじかよ……。
リュウクは少女が気の毒で仕方なかった。
「今は俺が主人でいいんだよな?」
「え、ええっと……まだ首輪に触れてもらってないので正式には……」
「あ、触れればOKなんだ。」
奴隷を持つのは気が引けるが主人が3日間いないと強制的に首輪が閉まるらしいので、仕方がない。
少女の首輪に手を当て、正式に主人になった所で。
「よし、これで俺の言う事を聞くようになるんだよな?」
「は、はい……な、何をするつもりで……」
「君は今日から奴隷じゃない!奴隷から解放する!」
リュウクは中々の名案だと思った。
そうすれば彼女の首輪も取れるのではないかとも思った。だが、
「私ができる範囲の命令しか出来ない、です
。奴隷解放には王国の許可が必要で今まで許可が出たことは1度もない…です。」
「まじかぁ……」
とりあえず、彼女を屋敷で住まわせるしかないと思い、少女と共に屋敷を目指した。
時刻はもう、夕暮れ時。
「なんか呼んでほしい名前とかある?」
「ご、ご主人様に付けて頂きたい、です。」
可愛い事言ってくれるじゃん。
「名前付けんの得意じゃないんだけどねぇ……うーん、「ちい」なんでどうかな?」
確か昔読んだ作品に出てきたキャラにこの子みたいな子がいて、確か「ちい」って名前じゃなかったかな……?
我ながら最悪過ぎる名付け方だと思う。
だが、
「「ちい」……ありがとう、です!!今日からちいと名乗らせて頂く、です!」
ちいは凄く嬉しそうだ。
なら、まぁいっか。
「ちい、着いたぞ。ここが今日からしばらくちいの家だ。」
「お、おっきい……」
王女の屋敷に圧倒されたちいであった。