10話 巻きもどる時間
帰り道、レレに色々聞くことにした。
「えーと、とりあえずさっき突然出てきた[スキル]について説明してもらっても?」
「はい。[スキル]は『技』とはまた違った職業事に使えるものです。基本的には……」
先生モードに入ったレレは先生気取りで敬語になりリュウクの授業が突然始まった。
いつもの事だが。
「基本的には、それぞれの職業に合った[スキル]を覚えることが出来ます。[スキル]はお助け技みたいなもので例えば、暗殺者だと敵地に潜り込んだ時に見つからないようにする[隠密]とか、暗殺目標がどこにいるのか把握するために[周囲探知]とかを覚えることが出来ますよ。」
それを聞いてリュウクは[スキル]を覚えるのがたのしみになってきた。
「いやしかし、そんだけ聞くと暗殺者強すぎねーか?見つからないし、相手の場所分かるしで。」
「そこは調和がとれるようになってますよ。例えば忍者は暗殺者よりも優れた隠密効果のある[超隠密]が使えますし、スナイパーは[超エリア感知]が使えるんですよ。」
「色々あんだなぁ……」
沢山ある職業、沢山ある『技』、沢山ある[スキル]を前にリュウクは少なからず興奮していた。
これからどれくらい強くなれるんだろう、と心を踊らせた。
「着きましたよ。」
「もうすっかり暗くなっちゃってたな。」
ギルドから出た時は夕方出会ったというのに今ではすっかり夜である。
そういえば時計とかはあるのだろうか。
一日が早い気がするのだ。
そうして今はまだ壊れている屋敷の門を跨いだ。
「───あ?」
リュウクが立っている所には足場が無かった。
屋敷の門を超えた瞬間足場が消えたのだ。
「ああああああああああああぁぁぁ!!!!!!」
「リュウクくん!!!」
俺の名を叫ぶ彼女もリュウクの隣を歩いていたために一緒に見えない闇の中へ落ちていく。
だがいくらか彼女は冷静だ。
「リュウクくん、落ち着いて!落ちても死ぬことはありません!」
「あああああぁぁぁ……あ?あ、お、おう……」
「そう。落ち着いて。ゆっくり息を吸って吐いて。」
「……すぅーーはーー。よし落ち着いた。でもよこんなスピードで下も見えねぇ所に落ちたら間違いたく死ぬぞ?なんでレレは平然としてるんだ?」
普通なら落ちながら冷静になることなどとてもじゃないが無理だ。
例えば、ビルの上から落ちている時に安心して話す事が出来るだろうか?絶対に無理だ。
今落ち着いていられるのはレレがすごく冷静に俺を落ち着かせてくれたからだ。
「そう。落ち着いて。リュウクくんが地面に叩きつけられる直前で水魔法を放って衝撃を和らげるので安心してね?」
「うん、ほんとに大丈夫かな……」
「信用してないね……」
次の瞬間リュウクのお尻に少なくない衝撃が走った。
底に着いたのだ。
「ほら!やっぱ無理だったやん!」
「……すみません。レレの力不足でした……」
でも、ここで自分を守れなかったことを責めるのは違うと思った。
元を言えば混乱していた俺を落ち着けるためにそう言ってくれたわけだし、レレがいなきゃ落ち着きを取り戻すことも出来なかった。
そしてもっと元をたどれば自分を守る術のないリュウクが悪いのだ。
「ごめん、レレ。落ち着かせてくれてありがとう。」
「……!!レレもリュウクくんをもっとしっかり守れるように頑張るね!」
こうしてレレと仲直り?していると声が聞こえてきた。
「お前が《テレポート》もどきを扱うもの?」
「は?俺は《テレポート》どころか魔法も使えねぇよ。どこ情報だよ。人違いもいい所だな。」
「リュウクくん、警戒して。こいつ、ただものじゃない。」
真っ暗で何も見えない所から聞こえた声に答えてやると、レレが緊張した声でそう言った。
しばらくすると、
「そんなに警戒しなくていい。痛みなんて与えず終わらせるから。」
感情を一切感じさせない声でそう言った。
その女性の声は可愛らしかった。が、その声が恐ろしい声に聞こえるほどの寒気を感じた。
そして、次の瞬間レレの後ろが一瞬光った。
「お、おい、レレ後ろ!!!」
そう叫んだのと同時にレレの腹から銀色の刃が生えた。
「────っ!?!?ゴホッ、ゴホッ、な、なに…が……あっ…た、の……?」
血を吐きながら状況が分からず地面に倒れたレレはか細い声を漏らした。
「レレーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
リュウクは状況が分からず混乱してしまい取り乱した。
「レレ!!レレ!!!レレーーーーー!!!!」
何度も彼女の名前を呼ぶ。
だが、彼女は今にも切れそうな細く弱い呼吸を続けるのみ。
「彼女は死ぬ。このままほおっておけばすぐさま死ぬ。そしてお前もすぐ彼女の元に送ってあげる。」
「ふざけんな!!!」
未だに姿をくらます女性に苛立ちを感じ、怒声をあげた。
その次の瞬間、
「あ……?あ、ああぁぁ……?」
俺の腹からも刃が生えた。
「ああああああああああああぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
俺は腹の痛みに耐えれず叫んだ。
熱い、熱い、熱い、熱い。
痛い熱い痛熱痛熱痛熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱
「君が悪いの。そんな力、神でもないのに。」
痛くて熱いことでいっぱいだったリュウクは一瞬痛みを忘れた。
リュウクは言われた意味が分からなかった。
……いや、本当は少し分かっていたかもしれなかった。
あの時。無数の矢がリュウクに向かって命を奪いに来た時。あの時に、俺は少し感じたのだ────全てが止まっている、と───
「お、俺は……お、れの……ま…魔法の、なに……が、悪い……って、い、言う……ん、だ……」
「お前の魔法は本来神のみぞ持つ類のもの。それをお前は人間のくせに受け持った。だから、死ぬ。殺さなきゃいけない。」
リュウクは今の言葉に違和感を覚えた。
殺さなきゃいけない。
殺す、じゃなくて、殺さなきゃいけない。
何か意味があるのだろうか。
「まぁ、このままほおっておいても死ぬと思うけど、待ってるだけ無駄だしトドメ刺しとく。」
顔も見えない殺人者の女性らしい可愛らしい声を聞きながら、リュウクは強く思った。
─────時間が戻れば。
───────時間が巻き戻せたら。
そう、強く思った。
その次の瞬間、一瞬にして景色が変わった。
赤白い神秘的な光に世界が包まれた。
そして、自分の中の何かが逆向きに動き出した気がした。
簡単に言えば時計が反対方向に動き出した感じだ。
それと同時に、「時間」が動いた。
目の前の景色がどんどんさっきまで見ていた景色を巻き戻っていく。
その後、不意にそれが止まった。
それを合図にしたかのように、赤白かった光がリュウクに吸い込まれるように戻った。
そして、突然声をかけられた。
「リュウクくん……大丈夫?お尻、痛くない?」
「へ?」
レレが申し訳なさそうな顔をして隣に立っていた。
リュウクは尻もちをついた形だ。
言われてみればヒリヒリするかも知れない。
そして腹が貫通していた事を思い出した。
「は、腹っ!!!!」
「お腹?どうかしたの?」
「あれ?正常だ……痛くも、ない…」
腹を突き抜けていた刃はなく、血もでてない。
あまりの驚きに動けずにいると、
「お前が、《テレポート》もどきを扱うもの?」
「───っ!!!!」
さっき自分の腹を貫き、半殺しにした女の声がした。
そしてレレの背に光るものが─────
【戦技 刀斬】
声が聞こえた瞬間、予測していたリュウクは覚えたばかりの【戦技 刀斬】をレレの背後の見えない敵へ放った。
するとレレの後ろにあった剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。
「いい加減出てこいよ、クソ女。」
「私をクソ女とはいい度胸してんな。」
そう言ってレレの後ろから出てきたのは、小さな女の子だった。
俺は思わず目を見開き、
「お、お前がレレを後ろから……俺たちを後ろから突き刺した人物か?」
「お前を突き刺していないし、彼女も突き刺そうとしたけど突き刺せてない。だから人違い。」
「いや、違わねぇよ!!!!!バリバリお前だよ!!!むしろお前以外誰だって言うんだよ!!!!」
責任を逃れようとする少女に思っきりツッコミを入れた所で、
「お前は、なんで俺たち……いや、レレを刺そうとしたんだ?」
恐らく時間が巻き戻った事を理解したリュウクはまだ起こっていない出来事を言うのを辞めた。
もしかすると不審に思われるかもと思ったからだ。
後々、この努力も無駄だと分かるのだが。
「お前を殺す理由はひとつ。神の魔法を使うから。」
「神の魔法……?」
「そう、神の魔法。お前の魔法の名は『時間編集』。本来、消滅したはずの魔法。
その昔、全ての神々の上に立つ神がいた。その神が有していた魔法こそ『時間編集』。ある神がある日過ちを犯した。その結果、多くの神々と多くの生物が死んだ。このままの未来は危ないと頂点に立つ神は時間を巻き戻した。そして、過ちを犯す前にその神を殺した。この行いに他の神々が腹を立て、自らを助けてくれた神を皆で殺した。」
「なんて酷い話……」
「だから、次はそんな魔法が使えるものを出さないように神々は努力した。もう、『時間編集』を使える生き物を出さないように。」
「でも……俺は……」
「そう。お前は『時間編集』を使う。いわゆる……」
そこで言葉をきり、しっかり息を吸い直して言った。
「─────神々の失敗作」