王様降臨と言えば?
裸エプロンの王様に、ジョッキに注がれた生ビールを手渡すと、ふむ……と目を細めて暫し観察し、それからおもむろに口を付けて……
……ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、…………っ、
「……くううううぅ~っ!! ……実に堪らん!!」
……あれ? 何だかすっごく慣れ親しんだ感じがするんだけど……この人、もしかして……?
「……うん? 俺の顔に何か付いてる?」
「いやっ!! 別にそうではなくて……美味しそうに召し上がるなぁ~、って思ったから……」
私が失礼を詫びると、ニッコリと笑いながらジョッキを傾けて飲み干してから、こちらへと差し出して、
「あー、俺の事なら気を遣わなくて構わないよ? 確かに周囲から王様と扱われてはいるけれど、中身はまぁ……たぶん、君と同じだからさ……」
気さくなヒトだ、とは思っていたけれど、ノジャがニヤニヤしながらコッチを見てるのに気付き、(……さては、コイツ最初からお見通しだったのか?)と理解した。全く……ホント、腹の読めない幼女だこと!
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「さーて!! 随分と客も増えてきたことじゃから、ここは一つ《ゲーム》をやろうではないか!?」
ノジャが手にしていたジョッキをテーブルに置くと、ニコニコしながら各自の顔を眺めて言い放った。
……ゲーム……ゲーム、ゲーム!? ……ええぇっ!? ……ノジャが……異世界の住人が、ゲームですって!?
……て、言ったらアレしかないじゃん!!
……そう、少し前、開店前にノジャと世間話していた時に、何となく話した事を思い出した……
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「のう、ハルカよ!現世のスナックではどのようにして互いの親睦を深めているのじゃ?」
椅子に腰掛けて、見た目宜しく足をブラブラさせながらノジャが訊いてきた。開店前なのに、既に目の前には茶色い液体を満たしたグラスが置かれ、カリン……と氷が音を立てていた。
「まーた昼間から飲んで……あなたの酒代で夜の売上が……いやそもそもお客様が全然来て居ないし! 開業前から赤字なんて有り得ないわよ!?」
憤慨する私をほったらかしにしたまんま、ノジャはチャーム(席料を払うと出される簡素で時間のかからないつまみ)のミックスナッツをポリポリと食べつつグラスの液体を煽り、はふぅ~♪ と酒ブレスしながら余韻を味わった後、
「心配には及ばん! 今夜辺りにゾロゾロやって来るからのぅ! 妾の集客力を侮るでないぞ? ……で、何をするのじゃ?」
「親睦ねぇ……うーん、簡単なゲームなら【王様ゲーム】とかならルールも簡単だし、誰でも出来るけど……ただし、《お約束》はあるけども……」
「なんじゃそれは? それと《お約束》とは……」
ノジャの疑問に私はキチンと答えてやることにした。こういうことは適当ってのは良くないからね……。
「いい? 王様ゲームっていうのは、この割り箸に番号と赤い目印を付けて、赤い目印を引いた者が王様として二人分の番号を指名して、させてみたいことを命令するゲームなの。……で、《お約束》ってのは、余りにも理不尽だったり無理難題だったりする命令は、しちゃいけないってこと……」
私の説明を聞いていたノジャは序盤は興味津々、中盤は目付き爛々、そして終盤は……何故かションボリしてる。ノジャ……ホントあんたって奴は……!
「……なんじゃ……【妾の下僕として一生仕えよ!】とか【妾の為に命を賭けよ!】とか命令出来んのか……残念至極じゃわい……」
「どーせそんなことだと思ったわよ……お互いの親睦を深める為に行う遊戯なのよ? いきなり騎士の誓いみたいなこと言わせてどーすんのよ!」
まぁ、そんな他愛の無いやり取りがあっただけなんだけど……まさか、いやしかしノジャが他のゲームなんか知ってる筈もないし……
「よいか! 妾が異世界から手繰り寄せた情報を精査し検討した結果……もっとも楽しめそうな遊戯をしようではないか!! ……それは……これじゃっ!!」
……テーブルの端に手を衝き、居並ぶ面々の顔を見回して……ノジャは高らかに宣言した!!
「……おーさまゲームじゃっ!!」
……手に握り締めた割り箸を突き上げながら……神々しい程の光り輝く笑顔で……仁王立ちしてるわ。
……あ、そー言えば、
「……あの、俺……一応王様なんですけど……!?」
一人、王様居たねぇ……本物が。
次回は王様ゲームです。ブクマ&評価していただけますと王様ゲームの結果が変わります(ウソ)