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ボコ殴りされてますが、何か?

二週間も空きましたが、それは全てビッチのせいですご免なさい。



 ツカツカと歩み寄るレミの足音は、一定のリズムを踏みながら徐々にゴルダレオスへと近付いていく。


 「あの、レミさんが…………ひいっ!?」


 背後からレミに近寄られている事に気付かぬまま、フィオーラの艶姿に鼻の下を伸ばすゴルダレオスに、思わず声を掛けようとしたハルカだったが、年端もいかぬ筈のレミが放つ殺気につい言葉を失い、沈黙を余儀無くされる。


 次第に加速し、小走りへと移行したレミが十分な速度を維持しながらゴルダレオスの背後まで接近した瞬間……居合わせた一同は彼女の行動に度肝を抜かれる事となった!!


 「……こぉんのぉ……むっつぅりぃ……スケベの……バカおーさまぁ!!」

 「ごあああああぁっ!!?」


 まるで跳び箱に飛び乗るように両足を綺麗に揃えながら、王様の直前で小さく跳躍し一旦溜めを作って身を縮め、そこから勢い良く宙へと舞い上がり、渾身のダブルドロップキックを敢行!!


 見事にゴルダレオスの背中を捉えたレミの両足が、美しく揃えられたまま真っ直ぐ伸ばされて彼を突き飛ばし、まるでビリヤードの球よろしく弾き飛ばされた王様は衝突事故の犠牲者のように回転しながら……停止した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「…………がっ、く、首が……ガクンってなったぞ?……俺……あれ?」


 しかし、どうやらダメージ自体は然程でも無かったようで、ゴルダレオスは首を振り無事な事を確かめながら手足を衝いて起き上がる為に四つん這いになったのだが、


 「あっれぇ~? こんな所に『おーさま』に良く似た椅子があるなぁ~!」


 ドスン、と勢い良く跨がったレミに乗られ、ぎゅっ、とも……ぎゃっ、ともつかない悲鳴を小さく上げながら、押し潰される。


 「おっかしぃなぁ~、おーさまを探しに来たのに……一体何処にいったのかなぁ~?」


 ドスンドスンと尻スタンプを繰り返し、何故か周囲をきょろきょろと見回すレミ。そして、そんなレミの尻に敷かれたまま、無言で(……俺、どーしたらいーんだろうか?)と考えるゴルダレオスだったが、


 「あれ!! 椅子だと思ったら、おーさまじゃないですか? これは失礼しました~♪」


 どうやら解放してもらえると判り、苦笑いしながら言い訳しようと首を回したその瞬間、悪魔も怖しの冷酷な笑みを浮かべながら……レミは王様の背中に立ち上がり、


 「って、これで終わりな訳あるかいっ!! くぉらぁ!! おーさま!! 何処に行く位書き置きしとかんかいっ!!」


 背中に載ったまま、ゴルダレオスの顔面を足蹴にしつつ、そのまま全体重を彼の頭に預けて踏み締めながら絶叫し、器用に背中へと露骨な足踏みを繰り返す!!


 「がっ!! ごらっ!! がおがらおりりょ!!」

 「うっさいわ!! この浮気モン!! 眼を離せばすーぐエロい顔しながらおっぱいデッカイおネーチャン所にホイホイ行きやがってっ!!」

 「うばぎもんっで、なんでぞーなるんだぼっ!?」


 「……そ、それは……あれ?」


 そこまで激しい暴力の嵐を見舞っていたレミだったが、当然ながらフィオーラを筆頭に周囲の唖然とした視線に気付き、自分の行動を省みた彼女は突然ハッと表情を凍らせてから、


 「あ、あーそっか!! そーね、そだね!! お酒を出すお店なんだもんね!! 駆け付け三杯ってのが必要なんだもんね!!」


 と、予想の斜めを行く発言をしたかと思った瞬間、硬直したままのフィオーラの前に置かれた熱燗を鷲掴みにするや、


 「それじゃ、いただきま~す!!」

 「おいバカお前其れは……あらら……」


 止めようとしたゴルダレオスより早く、こぽぽっ、と小気味良い音と共に飲み干すレミだったが……


 「……っ!! ……ッ!? ぶっ??」


 眼を白黒させながら、フガフゴ言い出し、てっきり吐き出すものかと思われながら、両手を口に当て必死に飲み下し、暫くしてから満面の笑みを浮かべ……何故か両拳を握り締め高々と差し上げながら……ゆっくりと崩れ伏した。(※)


 (※)➡この世界では、明らかな幼児以外は飲酒を禁じられていない。無論過度の飲酒は周囲が止めたりはするが、こうした事故的な飲酒まで罰せられる事は無い。勿論現実世界での飲酒は二十歳から!!



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「やぁ……ううん、エヘヘ♪…………むふ♪」


 短く髪を切り揃え、一見すると男子学生位に見えるレミだったが、それは小性としての地味で控え目な衣装と細身の体型の為であり、


 「……酒臭いなぁ、でも、たまには甘えさせてやるか……」


 コタツに移動させたレミは、何故かゴルダレオスに抱き付きながら満面の笑みを浮かべ、幸せそうに寝入っていた。そんなレミにくっつかれたまま、ゴルダレオスはコタツに足を入れながら、ハルカとフィオーラ相手にお猪口を飲み干していく。


 「……前から気になっていたんですが、聞いてもいいですか?」

 「……コイツと俺の事でしょ? まぁ、普通の感覚なら理解出来ないだろうからね」


 おずおずと切り出すハルカと反対に、サラリと受けるゴルダレオス。どうやら質問される事を半ば想定済みだったらしく、レミの頭を優しく撫でながら答える。


 「……俺、四人居た側室の一番若い人の子供……として、転生したんだよ。まぁ、四歳の時に樹から落っこちた子供の魂と、会社潰し掛けて保険金目当てで焼身自殺した、バカな会社社長の魂を入れ換えたってオチさ……」

 「えっ!! ゴルダレオスさんって……元社長さんッ!?」


 ハルカは西洋風の端正な顔立ちの、しかし……確かに色事が嫌いではなさそうな、憎めない愛嬌のある顔立ちのゴルダレオスが、そんな肩書きを持っていた人物には見えなかったのだ。


 「……俺は、この子の両親を……見殺しにしたようなもんさ。まぁ、良く有る世襲問題が起きて、上の三人の異母兄弟と跡目を巡って戦争をしてね。最後に残った長兄を打ち倒した時……追い腹切った重臣の娘が……レミだって訳……」

 「……それじゃ、仇敵がゴルダレオスさんって事じゃないですか!? そ、そんなの……レミさん、知ってるんですか?」

 「……たぶん、知ってるかもしれないし、もしかしたら、知らないかもしれない……」


 そう答えたゴルダレオスは、ぬるくなった熱燗を飲み、ほぅ……とため息しながら、また語り出す。


 「……この熱燗、灘の酒だよね……甘くて緩やかで……この世界みたいにさ……」


 そう独り呟きながら、ハルカの方へ向き、


 「俺さ、結構デカい会社にまで成長させたんだけどさ……一瞬の不渡りで足を掬われて、ヘマ連発して……仕舞いにゃ部下を過労死寸前まで追い込んで……それで、保険金掛けて焼身自殺さ」

 「そ、そんな事……保険金なんて企業の補填に足りる訳……」

 「そう、結局……俺は逃げたんだ。会社からも……人生からも……ね」


 そう言うゴルダレオスに、ハルカは言葉を選びながら、


 「……私、てっきり向こうでもっと若くて……夢と希望を持ってコッチに来た、みたいな誤解をしてました……」

 「いや、普通ならそーなんじゃない? 俺の場合がやたら事情がややこしいだけだよ、きっとね!!」


 ふはは、と短く笑ってから、傍らのレミの頭をまた撫でてから、


 「……だから、コイツが何時か真実を知って、離れるなら其れもよし、俺を倒すと言うなら……相手になっても……いいさ。まぁ、何一つ戦う力は無いんだけどさ~♪」

 「……うるさぃょ……バカおーさま……」


 言葉が返ってくると思ってなかったゴルダレオスは、ギョッとしてレミを見ると、


 「……もう、そんな事……ずーっと、前に……しってましたよ……」

 「じゃ、お前……普段ヒトに容赦なく暴力を振るうのは代価ってことかよ!?」

 「……だから、バカおーさまなんだよぅ……ほんと……」


 言葉とは裏腹に、ゴルダレオスの肩に顔を押し付けながら、酔った勢いだからこその潔さを見せつつ、


 「……おーさまのこと、すきになったから……いっしょにいるんだから……」

 「……お前の、仇敵だぞ?」

 「……しってるよ……でも、おとーさんのことは、しかたないよ、きっと……でも、それでおーさまとわかれたら……」


 そこまで言い、言葉を区切ったレミの目には涙が滲み、あっという間に溢れ出しゴルダレオスの肩を濡らす。



 「……ほんとうにっ!! ほんとうにひとりぼっちになっちゃうもんっ!! おーさまとわかれたら、またひとりぼっちになっちゃうもん……!!」


 泣きながら叫ぶレミの顔は、もう凄い事になっていたので、ゴルダレオスは苦笑いしながらハルカからティッシュを貰い、


 「あーもー、判った判った!! 美人が台無しっとね!! 鼻かめ! ホラ、ちーんって!!」

 「ぶぅ~っ!! ぶぅ……って、何すんですか一応乙女なんですよ!? ……あ、そのあの……し、失礼……しました……」


 珍しくしおらしくなったレミに、もう一枚のティッシュを差し出しながら、


 「ま、色々思う事はあるだろけどさ、飲み過ぎは駄目だかんな?」

 「……はい、そうします……」


 こちらも珍しくレミに注意しながらも、最後の一口を煽ってから、


 「そんじゃ、帰りますか!! あ、財布無いからレミ払っておいて!」

 「ふえっ!? 何でですか!? って、逃げんなコラッ!!」


 毎度の流れに落ち着いた二人は、慌てながらも律儀に懐の革袋から銀貨を数枚ハルカに手渡してから、勢い良く走り出すレミ。


 「……酔っ払ってる割に元気だなぁ、あの二人……」

 「……そうね、何か……恋愛対象にはならなそうだわ、確かに……」


 フィオーラとハルカは、そんな事を口々に言いながら見送ると、店の片付けを始めましたとさ。




次回も空いちゃうかもしれませんが、御待ちください!!

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