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夜の徘徊者達。

お早う御座います、誕生日。そして更新です。



 人の姿も疎らな夜のお城の中、闇に紛れて壁際の柱から柱へ……怪しい人影が進んでいく。


 城内の灯りを避けるように進むと、前方から手にランタンを掲げた二人の衛兵が曲がり角から姿を見せて、その姿を確認した人影は……隠れていた柱の陰から姿を現し、二人に手を振りながら近付いて行く。


 だが、二人は誰何(すいか)する事もなく、同様に手を振りながら擦れ違い、やがて離れていった。



 人影はホッと一息ついた後、気を取り直しながらまた壁際を進み……やがて目的の扉を見つけて静かに開き、中に人が居ない事を確認し、滑り込むように中へと姿を消した……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「おうさま~!! ちゃ~んと今夜の分は終わってますかぁ~ッ?」


 バーン!! と扉を勢い良く開けて、レミは何時ものように執務室の中へと進み、どしどしと執務用の机の前に立つと、腕組みしながら目の前に立った。


 起伏の乏しい体型ながら、最近はゴルダレオス曰く「妙に女の子らしくなってきやがって紛らわしい」スレンダーな身体を緑色のチョッキと白基調の侍従服で包み、見るものによっては美少女……に見えなくもない。


 短めの髪型は明るいブラウンと相まって、典型的快活タイプの彼女は城内の……いや、ゴルダレオス公国内でもかなり目立った存在なのだが、やはり14才という若さが常に先に立ち、王に関わりを持った者から見れば王付きの小姓と言うよりも、ゴルダレオス王の《マスコット的な存在》なのである。


 そのマスコットが今夜もいつも通りの【王の執務の進捗状況】を確認しに現れた訳なのだが、これには訳がある。


 ゴルダレオス王は常に城内はおろか、国内の多種多様な管理関係の仕事を他人の手を借りずに、一手に引き受けて行っているのだが、それは常人から見れば異常な仕事量なのである。公金の出入帳計算、経費の算出、及び国外への国費捻出から城内への物資搬入手続きそして許認可……更には新規の永住許可から出生登録まで……つまり、ゴルダレオス公国の全てを文字通り一人で管理しているのである。


 残念ながら、この世界にはパソコンも電卓も無く、あるのは紙とペン、そして膨大な資料と書類だけ。これらを一人で処理すれば……彼の睡眠時間は平均五時間以下、それでも朝から晩まで執務室から殆んど出ないで過ごしてやっと終わる量をこなしているので、時折彼女が様子を見に来ないと倒れていても気が付かない事も有り得るのだ。実際に時々倒れるように伏したまま寝ている事もしばしば見受けられるから、レミが食事の時間等には必ず訪れて促し、確認しているのだ。


 「おうさま! そろそろ纏めてくださいね! じゃないと日付が変わって……って?」


 レミは机の上に伏したまま動かないゴルダレオスの頭部を眺めながら、言葉に詰まってしまう。両手を脇に垂らしたまま、顔を書類の束の上に載せたまま微動だにしない事は時々あるのだが、それにしても全く動きが無いのは妙である。


 いや……それよりも……いやっ!! 良く見たら頭だと思っていたが、これはどう見ても《ホウキ》じゃないか!!


 ダッと走り出し近寄ると、机の上に載っているのが彼女が執務室を掃除する為、部屋の脇の納戸に入れてあるホウキに上着を被せただけの幼稚な移せ身だと判り、レミは頭に血が昇るのを意識したのだが、更にそれに追い討ちをかけたのが書類の束の上に載せられた一枚のメモだった、



 【執務は終わったよ~だ!! 息抜きの無い人生はレミの胸である!!】


 「あんのムッツリスケベめぇ~ッ!! 見つけたらボコ殴りにしてやるんだッ!!」


 レミはホウキを掴むと握り締めたまま、彼が向かいそうな場所を思い付き、執務室から飛び出すと全速力で王専用の浴室へと走り始めた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「ねぇ、ゴルおさん? 何でわざわざ判るような悪戯して逃げ出して来たの?」


 ハルカはコタツに足を入れたまま、目の前に座るフィオーラと熱燗を酌み交わしているゴルダレオスに尋ねると、


 「おとととととっ!! や、どうも……いや、それはね…………、……っくううぅ~♪ 染みるねぇ~!! ……まぁ、何と言うか、追われると判っているからこそ、逃げたくなる、って感じが有っての……あ、ご返盃ね?」

 「ほいほ~い! ……くううぅ~♪ 旨いねぇ染みるねぇ~♪やっぱ寒い夜はアツカンだねぇ~!!」


 居候のフィオーラはと言えば、そんな身の上には全く頓着する様子も無く、ゴルダレオスが持つお銚子から注がれるやや黄みかかった熱燗をお猪口で受けると、旨そうに飲み干しながらコタツの天板をペシペシと掌で叩き、山田錦を使った吟醸酒特有の強い旨味を堪能していた。


 彼女の格好は相変わらずハルカに借りた真っ赤なジャージの上下で、上着のファスナーを開けて推定Jカップは有りそうな爆発的に発育した箇所を惜し気も無く露出させていた。勿論Tシャツは着ているのだが、その白いシャツには毛筆で書いたようなレタリングで「一触即発!!」と書いてあるが、その字は横にビニョ~ンと伸びていた。


 「……まぁ、それもあるけど……毎日レミの平坦で牧歌的な親しみ深い丘陵地帯を眺めてると……無性に雪を冠した絶峰の頂きを見たくなる……って感じ?」

 「ウフフ♪ そ~んな事言っちゃうと……玉の輿に乗りたくなっちゃうじゃなぁな~い? 一応、【傾国の妖狐】なんて渾名が付いちゃう魔物って事なんだしぃ~、機会があったら……ねぇ?」


 フィオーラはそう言って、目の前に並んだ空のお銚子を人差し指と親指で輪を作るようにして摘まむと、妖しく眼を光らせながら……意味深げに持ち上げてから、ゆっくりと舌先を出し、滴る酒をチロチロと舐め取りつつ……ゴルダレオスを見詰めた。



 「……うわぁ、何かもう……我慢するのが我慢出来ないんですけどぉっ!?」


 ガバッと立ち上がったゴルダレオスがフィオーラの妖しく光る瞳に囚われたその時、呆れながら眺めていたハルカの耳に、来店を知らせるベルの音が聞こえたのだけど……興奮の極みに達したゴルダレオスの耳には届いていなかったようで……。




 「……やっぱり……ここにいたのね……ムッツリスケベぇ!!」


 それは、果たして嵐の予兆か……新しい創造の前の破壊の序章か……?



 レミのゆっくりとした歩みは、次第に加速し……着実にゴルダレオスの方へと近付いていたのだが、彼はまだ、それに気付いてはいなかった。



ちょっと吹っ切れてきた(笑)どんとこい!あっちいけ様の焦らしプレイにめげずにいくぞぇ!!

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