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複雑な再会。

遅れましたが更新します



 (それにしても、範囲を限定して焼き払うつもりでしたが……こうなったら()()()()()()()()()()()()())


 ビスケットは吸盤だらけの触腕を眺めながら、対抗手段を練り直していた。


 ……が、瞬速の思考回路を持つ【独立思考体】である彼女は、即座に答えを導き出し、突然走り出したかと思うと、玄関に置いてあった傘立てから目的のモノを手に掴み、戻って来た。


 「び、ビスケットったら!何で()()()()()()()()()()()()!?」


 驚くハルカの声を背に、ビスケットが右手に持ったそれには……くっきりとこう記されていた。


   【オリローバッティングセンター○川店・持ち出し禁止!!】


 「……それ、あのバッティングセンターのよね!?」

 「……いえ、葬らん合戦の際に戦利品として何となく持ち帰りましたが……」


 とぼけた様子で答えるビスケットに、頭を抱えながら膝をつき呆れ果てるハルカは、ブンブンと素振りを始めたビスケットへと我知らず叫んでいた。


 「それダメだからッ!! 絶対やっちゃダメだからッ!!」

 「……ウチュウニソンナホウリツナイヨー?」

 「嘘つけっ!!」


 おとぼけガイノイドを演じるビスケットは、しかし真面目な表情で握り締めた右手に左手を添える構えを維持したまま、触腕を見つめて口を開いた。


 「……ハルカ様、ビスケットはあの吸盤の付いた触腕が、どうしても蛸の足に見えてしまうのです。つまり、蛸の足を美味しく煮る為ハルカ様に教わった【硬い瓶や大根等で良く叩くと柔らかくなる】手段としての、この鈍器なのです」


 手にした金属バットの先端は、ハルカとキタカワの前でユラユラと揺れる触腕の動きに合わせて揺れていたのだが、


 「……宇宙に脈々と伝えられてきた究極の【べぇすぼおる】流奥義……偉大なるイチロォ大師匠の編み出したこの構えを用いて……淫猥下劣な異界触手を薙ぎ倒して参ります!! ……の前に、お二方は此方へお戻りしていただきます」


 そう宣言したビスケットは、一跳びでハルカとキタカワの元へとやって来て、ハルカにバットを握らせて二人の腰に手を回し、スッと軽やかに宙に舞い、一度の跳躍で戻ってきた。


 「なぁ~ビスちゃん! 本当は一人でここまで楽に来れたんじゃないの?」

 「……そんな事は御座いませんよ? ……気のせいでは?」


 ほぼ確信犯のビスケットに、フィオーラはじっとりとした眼差しを向けたものの、それ以上は何も言わなかった。そしてビスケットは答える代わりに、ハルカから受け取った金属バットをしっかりと握り直して、


 「……では、改めて参りましょう。イチロォ大師匠の編み出した【べぇすぼおる】流究極奥義……で(なぐ)ります」

 「ビスケットさんって、なんでそんなに時期限定で日本の野球に詳しいの?」

 「……大いなる宇宙の意思に因ってそう導かれているのです……たぶん」


 キタカワとそんなやり取りをしていたビスケットは、その後金属バットがへし折れるまで触腕を叩きまくった訳で……結果は壁際に転がる幾本もの触腕が、ぐんにゃりしたままで転がっているのを見れば、判るというもの。


 「……何でバットで蛸の足を引き千切れるのよ……相変わらず無茶苦茶ね……」

 「……で、いつまでそう為さっているおつもりなんですか?」


 まだ互いに寄り添っていた、ハルカとキタカワに向かってやや冷たい口調で切り出したビスケットに、


 「やっ!? いや、私は別に……あの、だいじょぶですっ!!」

 「……心配要らないよ、()()()()()()()()()()()直ぐに離れるから……」


 油断無くハルカの前に出て、のたうつ触腕から彼女を遠ざけるキタカワ。


 そんな二人の前に空いた大穴の縁へ、小さな掌がペタリと飛び出す。それは直ぐに一組になり……続けて縁へと整った顔立ちがせり上がってきた。



 「いやぁ~!! 参った! 参ったね……捕り逃したオジサンがまた出てくるし、得体の知れない変な奴も居るし……それに僕はただ【℘₷йщ・₪₭₹₴₷】に会いに……!?」


 パンパンと服の裾を叩きながら埃を払う男児が、そう言いながらノジャの方を見たのだが、肝心のノジャはむっつりと押し黙ったまま、ツカツカと歩み寄り……



 「……こんのぉ、とおへんぼくぅ~ッ!! 帰るのが遅過ぎるのじゃ~ッ!!」

 「へぼらぁっ!?」


 ……一体何処で覚えたのか、握り締めた拳を斜め下から相手の顎目掛け、掬い上げるように捻り込み、叩き上げた!! つまりアッパーカット!!


 軽く浮き上がってから穴の奥へと落ちていく男児、そしてハァハァと肩で息をしつつ、赤く腫れた右手を痛そうに振りながら、ノジャは彼が這い上がって来るまで待ってから、


 「……ケビン!! 妾はもうその名前は捨てたのじゃ!! 今は……ノジャと名乗っておる! 忘れるでない!!」

 「……ノジャ、ねぇ……また随分と軽い名前に変えたもんだね……」

 「う、(うるさ)いのじゃ! ケビンこそ五百年も何処をほっつき歩いておったんじゃ!? 無事なら無事、と報せるのが……筋じゃろうて……っ!」


 そう言い合う二人だったが、最後の言葉を発しながら、ノジャはケビンと呼んだ男児にしっかりと抱き付き、それきり離れようとはしなかった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……半睡半覚? …………まさか、本当にそんな目に遭ってるのが居るなんて……にわかには信じられないけど……」


 すっかりちらかって、何も出来ない状態の住まいから、結局【まほろば】へと移動したハルカ達だったけれど、彼等の視線は一組の男女に釘付けだった。


 「……だから、僕はず~っと【降魔の迷宮】に捕まってて……」

 「それは判っておる! じゃが、ならば何故今頃ノコノコと……」


 そう、ノジャとケビンの二人はずーっとこの調子で、詰め寄るノジャに困り顔で返すケビンだったのだけど……居並ぶ一同の心中は概ねこうだった。



 『……髪型と色以外、全く同じように見えて双子の兄妹みたい!!』


 その姿はブロンドショートのケビンと、黒髪ロングのノジャ。各々違うのはそこだけ。それ以外は顔立ちも身長体型も全く同じだった。


 「こうやって見ると、双子の姉弟にしか見えないのよね……ホント!」


 溜め息混じりで評したハルカだったが、それを聞いたノジャは一瞬だけ固まった後、


 「……何を言うておるのじゃ? 妾とケビンは同じ親から産み落とされた者同士……つまりは血縁者なのじゃぞ? 似て当然じゃぞ!」

 「……の、ノジャったらそんな冗談を……って、マジでっ!?」


 一拍置いてからやや仰け反りつつ、ハルカは絶叫し二人の顔を交互に眺めて、そのまま絶句した。


 二人の姿は鏡写しのように良く似ていたが、まさか本当の兄妹だったとは……ハルカの中でその事実はグルグルと回り、しかし……待てよ?と考え直してみる。


 (……そう言えば、途切れ途切れの記憶の中で【見た目に騙されてはいけない】って、あったような気がするぞ? ……まさか、それってこの事だったんじゃないの?)


 そういぶかしむハルカだったが、何よりも気になるのは……所謂(いわゆる)近親婚姻の弊害だ。従兄弟等なら兎も角、同じ親から産まれた、とハッキリと断言されているし、いくら異世界だろうと……と、思いながら周囲を見回しても……



 ビスケット (アンドロイド娘)

 フィオーラ (白面九尾の妖狐)

 ノジャ (酒飲み妖怪)

 ケビン (ノジャの兄)



 (……ま、まともな人間なんて私達二人しか居ないじゃん!!)


 ……と、結論し、ひとまずその辺の事は流す事にした。いずれゴルダレオス王やアミラリアさんにも聞いてみるしかないか……そう考えながら、ハルカは早めの昼食を準備する事にした。





それでは次回も宜しくお願いします!

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