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魔導士降臨!!



 チリリリリン……♪ と鳴った鈴の音に誘われて入り口を見ると、バタバタと走り寄るノジャの後ろ姿が見える。走ると転ぶんじゃないか? と思ったらやっぱり転んだ。酔ってるのに走るとかどうかしてるんじゃない? ……してるか。


 「痛いのじゃ!! しかし酔ってるから其れ程でも無いんじゃ!」


 ノジャがシュタッ! と素早く立ち上がり、両手を左右に広げて直立して直ぐに、新しいお客へと向き合い口を開こうとしたけれども、相手の女性が先を制して喋り出した。



 「……何なんですか……ここは」


 ……あらら、不機嫌そう。おまけにノジャのこと全く見てないし……意識して無視してるの?


 当然ながら無視されて嬉しい訳もなく、手を振りながらジャンプしたりくるくる回ったりと暫くアピールに励んでいたノジャだったけど、あっさり面倒くさくなったようで、


 「……えいっ! なのじゃ!」

 「痛っ!? えええっ!! 何で……あれ? 貴女は誰?」


 軽く横蹴りしたノジャにやっと気付いた女性は分厚いローブみたいなのを着ているから、何となく魔導系の職人なのかなと思うけど、ノジャに気付かなかったのは何でだろう?

 

 「妾はノジャじゃ! お客様のお主は誰じゃ?」





 ……、あれ? また反応が悪いぞ? このヒト、大丈夫?


 「……お、お客様の……? ……あ、ここってお店なの? ……って、えええぇっ!?」


 次々と迫り来る驚愕の事実に慌てる女性は、少しの間キョロキョロと左右を見ていたけれど……どうやら決意を固めたみたいで、両手をしっかりと握り締めて……あれ?……いつの間にか手には杖みたいな物を持ってるぞ。


 「あっ? えっと……こほん、私は王立魔導士団調査班のクュビラレス・アミラリアです。今回は城下に出現した正体不明の【ゲート】の調査にやって来ました……で、お尋ねしますが……」


 ……見ていて思ったけど、名乗りを挙げた女性はノジャがここの主人だと認めたくないみたい……だって私の方と先に来たお客の方を何回も見てるんだもん。まぁ、私は裏方だし説明しようにも……ノジャより詳しく説明出来る自信はないよ?正直言ってさ……。



 「……ここは一体何なんですか? ……それと、【ゲート】を勝手に城内に設置したのはどなたなんですか!?」


……うん、そりゃそーだよね。私も逆の立場ならきっとそう言ってたよ、たぶん。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……私はとても焦っていた。


 一つは研究班内で成果や実績から遠ざかっていることに加えて、親類筋を通して王宮入りを果たしたと思われているやっかみに対して、満足いく反論も出来ていない自分への不甲斐なさ……。


 ……確かに、才気溢れる姪っ子のキュビや努力の積み重ねで魔導士団長になったケビイシお爺ちゃんとは違って、普通の努力と普通の才能だけであっさり魔導士団員になったわよ?でも……その後、伸び悩むとか誰が判るってのよ!?

しかも王宮の魔導士団に入ったはいいけれど……入った部署が研究班(※①)だし、周囲の期待半端ないし……



 ((※①)→研究班=魔導の術式は既存の呪印の組み合わせで成り立つ為、組み合わせさえ解析出来れば複製も応用及び対策も容易である。但し使いこなせるだけの能力さえ有れば、だが。その為に研究と調査をしている組織が研究班である)





 それにもう一つは……私も二十歳過ぎちゃったし! 知り合いみんな身を固めてるってのに……私だけ取り残されちゃってるみたいだし……


 ……何か、聞いた話だと姪っ子のキュビだって、近衛兵団員の副団長と急接近してるみたいだし……私だけ行き遅れとか洒落になんないよ!!



 ……はぁ、私ったら何でこんな時に、こんなことで悩んでるだろ? ……目の前に鎮座してる意味不明で意図不明の【ゲート】を調べなきゃダメなのに。


 「……全く、何でこんな場所に出てきたのよ……よりによって王様用の浴室脇になんて……」


 当然ながら王様用の浴室に窓は無い。暗殺予防の為だけど本人は凄く嫌みたい。個人用のお風呂が有るだけ有り難いに決まってるのに……ってそうじゃないや、この【ゲート】なのよ今は……。


 見てくれは在り来たりなドアなんだけど、色はどぎついピンク色だし看板には【異世界スナック~ま・ほ・ろ・ば・♪~】と書き込まれていて、周りには七色に輝く何かが飾り付けてあるし。ちなみにその看板の一部には【鉱人種(ドワーブ)立ち入り御断り】とか書いてある。……何故、彼等だけ狙い撃ちなの?


 ……あ。足元にドアマットが置かれる。何々? ……「いらっしゃいませ!!」ふむ……これは歓迎の意味を表す呪文……な訳ないか。それにしても鍵穴もないし……ドアノブも……


 一歩踏み出してドアマットを踏み締めた瞬間……私の周囲の光景が突然色褪せて灰色になり、魔導の……発動の徴候……ッ!!?


 ……あ? 何これ……ドアマットに呪印が有ったのっ!? ……いや、もしかしてドアマットが始動鍵になってたの!? ……周囲の魔素がグングンとドアとドアマットに吸い寄せられてる!!


 ……正直言って何か成果が有っても無駄だと思っていたけれど、この連動性は興味深いわ……ただ、私自身が作動の鍵になったことをどうやって()()()()()()()()()かな……?






 ……意識が薄まりながらも何とか現状を把握しつつ、私は【ゲート】の向こう側……変わった形の《次元の門》を潜り抜けて、この場に降り立ったのだが……何だか城下町にありそうな普通の店っぽい。


 と、目の前に小さな子供……いや、幼女らしき【多面体の一部分】が近寄ってきた。……じゃ、本体はどこに? ……直ぐそばに居るのは私と同じように流れ着いた者みたいね……酒飲んで料理食べてるわ。じゃ、其処の切り窓から見え隠れしてる人影が【多面体の一部分】の本体なの?



 ……イテッ!? な、何よコレ……【多面体の一部分】に蹴られた? ……これって目には見えても触れない筈じゃないの!?


 「痛たっ!? えええっ!! 何で……あれ? 貴女は誰?」


 「妾はノジャじゃ! お客様のお主は誰じゃ?」


 思わず問い掛けてしまったけど、律儀に答えてくれた【多面体の一部分】はノジャと言い……ノジャ!?


 ……私の頭は瞬時にクリアになって、その単語を条件反射で受け留めて解析すると共に、思考を巡らせる。



 【ノジャ】→【王立魔導士団唯一の外部顧問。そもそも魔導士ですらなく正体は情報を共有し合える魔物の一種かその類似種又は一部分。その性質及び性格は不明点多し。飲酒している間だけは明確にその地点から動かない】


 我ら魔導士団員はノジャと言うキーワードで、即座に行動を決定するよう反復訓練を……と揶揄されている程、ノジャとは危険で在りながら見返りも多い観察対象。ついでに酔わせればチョロい……らしい。でも、その真偽及び誰がどうやって確かめたかは定かではないけど。


 


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……結局、私はノジャと話しながら椅子に腰掛けて、相席になった女性と現状の情報交換をすることになった。勿論、傍らにはノジャが座っているが、魔導士団の鉄の掟、【ノジャとは距離を置き、だがしかし決して眼を離すな】を実践しながら行動することにした。


 ……ただ、唯一の心残りは、私が名乗ってもノジャは全く反応しなかった事なんだけど……コイツ、私の事判ってるんだろうか?





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