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嵐の予感。

久々です。週末前の夜にお送りいたします!



 ぞわぞわと総毛立つ、とは正にこの事か……とフィオーラは自覚した。


 優雅に伸びていた尻尾は根元から逆立ち、針のように強張った。背中からうなじまでうっすらと生えていた体毛まで下着の下でざわつき、不快極まりない。


 「び、ビスケットさん……ヤバいよ……何か来るっ!!」

 「私は感じられません。しかし、この反応は理解できます。【航宙駆逐艦】クラスのエネルギー反応を感知、警戒ランク二段階上昇。臨時戦闘待機開始。」


 フィオーラはビスケットが理解出来ない単語を羅列しながら動きを止めて、僅かに身を震わせて目を閉じた後、ゆっくりと瞼を開くのを見つめていた。


 二人の不穏な空気を感じ取ったのか、コボルトの親子にも緊張が走り、我が子を抱き締めて周囲を伺うと、


 「グラス!!ひとまず戻るぞ!!皆さんも気を付けて!!」

 「ええ、ナノ、カーボン!!私達に掴まって!!」

 「ママッ!!判った!!」

 「お、おねしゃん、きをつけてねっ!!」


 父親にしがみつきながら、小さな女の子ボルトがフィオーラに手を伸ばし、掌をぎゅっ、と握り締めた。


 「うん、ナノちゃんって言うの?あなたも気を付けて帰ってね!!」


 小さな手を握り返しながら、フィオーラが声をかけると両親も軽く会釈を返して、足早にその場を立ち去っていく。周囲の人々も次第に高まる【何か】の襲来に、ざわつきながら立ち去ったり建物へ避難し始めていく。



 「フィオーラさん、反応が地面の下に!!」

 「う、うおおおおおっ!?」


 ガタガタと建物が揺れ始め、波打つ地面がゆっくりと隆起しながら近付き、やがて通り過ぎて行く。


 「な、何だよ脅かした割には大したこと……でも、何なんだよあれ?」

 「……大したことか、は判りませんが、【正体不明(アンクノン)】の行き先にノジャ様とハルカ様の住まいが有ります。それも真っ直ぐ一直線先に」

 「それを早く言ってくれって!!急ごう、何だか嫌な予感しかしない!!」


 ビスケットの手を取り、力を込めて引こうとしたフィオーラだったが、


 「こんな時に大胆ですね。しかし私はガイノイド、フィオーラ様の想いを受け止める事を為せるかやや心配です」

 「ふぁっ!?い、今はそんな事言ってる場合じゃないって!!《跳ぶ》よっ!!」


 場違いな戯言を平気な顔で言うビスケットに辟易しながら、フィオーラは握り締めた手に力を込め、跳躍しようとしたのだが……


 「いぃっ!?お、重いなんてもんじゃないよ!?ビスケットさん、どーなってんの?」

 「……恥ずかしながら、私……軽く80キロは御座います。残念ながら……っ?」

 「あーもー面倒だっ!!ゴメンね!!」


 言うが早いか背中と膝裏に手を回し、ひょいと持ち上げると尻尾全てを拡大膨張させながら、


 「【強化】【軽量化】【跳躍】【飛翔】……お姉ちゃん、手伝って!!」

 《あー、ハイハイ、判ったわよ……みんなもお願いね?》

 《は~い!了解です!》

 《力を貸せばいいんだろ?》

 《フム……やっと出番か》

 《さて、やりますか?》

 《最初から助力を乞えば済むのに……あ、何でもないぞ?》

 《俺、門外漢だけど……力貸すってどーやんの?》

 《……仕方ない》

 《止むを得んな……毎回こうは往かんぞ?》


 フィオーラの声に重ねて幾つもの返事が返ったかと思うや、彼女の全身が金色の光を帯び、九本の尻尾が倍以上に伸びた瞬間、たんっ、と弾かれたように背後の建物の屋根まで一気に跳躍。片足の踵を載せたかと思うや再度跳躍し、大通りを横断しながら反対の屋根まであっという間に到達した。


 「……ビスケットさん、問題ないか?」

 「……惑星降下時よりはソフトなのでしょうが、お姫様抱っこと共に初体験の列挙で感情回路が著しく発熱しています」

 「はぁ、そうなの?まぁ、問題ないならいーけどさぁ!!」


 全身をバネのように使いながら、飛ぶように屋根を伝って次々と跳ね続ける。その姿は長く尾を棚引かせた流星のようだった……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「フィオーラさん、見えてきました。あの石塔がノジャ様とハルカ様の住まいです」

 「えっ?あれって外壁の見張り塔じゃないの!?」


 二人が目指す先には、堅牢そのものな石積みで構成された塔が屹立していた。外観は正に外敵に睨みを効かせる為の施設にしか見えず、女性二人が住むには余りにも場違いな構造物だったのだが。


 「どうやらあの怪異はまだ到着していないようです。お二方は無事いらっしゃると思いますが」

 「そーじゃなきゃ困るって!!……入り口は、これか?」


 ビスケットを降ろしながら、フィオーラは玄関に見える立派な扉の前に立ち、ドアノッカーを掴んだ。


 「のーじゃーさーん!!はるかさーん!!居るのは判っているーっ!!早く出てきなさーいっ!!」


 ガンガンガン!と荒々しく叩きながら、しかしやや間延びした声で呼び掛けると、扉がゆっくりと開き、


 「……何じゃ?朝から騒々しいのぅ……お?ビスケットもか?」

 「御早う御座いますノジャ様。火急にて不躾ながら参上致しました」

 「あ~もう!!変な奴が来てるんだよ!!逃げるなり何なりと準備してくれよ!!」


 片手にトーストを掴んだまま、喧しそうに眼を細目ながら現れたノジャ。そんな彼女に二人がそう告げると、やや緊張した表情をしながら、


 「変な奴……とな?それは妾の朝食を邪魔する程に厄介な者なのか?」

 「残念ながら、直ぐそこまで迫っています。只今、直下に定置致しました」

 「そこまで判んの!?だったらさっさと……!?」


 突如沸き上がる震動に身を強張らせるフィオーラとノジャ、そして三人の背後からメキメキと破砕音が鳴り響き、聞き覚えの有る悲鳴が上がった。


 「な、何これっ!?……ノジャッ!!何なのよこの化け物はっ!?」


 ハルカの声に建物内を急ぐ三人が眼にしたのは、部屋の片隅で驚愕の表情を浮かべたハルカの姿。そして、ぼっかりと開いた床の大穴から身を捩りながら現した、見た事も無い程の触腕を幾本も備えた得体の知れぬ巨体だった。




そろそろ一区切りかな?では次回をお楽しみに!

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