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幕間「異世界で新年」

本年最後の更新になります!図らずも異世界の住人としての第一歩を歩み始めたキタカワと、先立って住人として異世界スナックに関わってきたハルカ。そんな二人が何か話しているようです。



 ……ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……


 寒くとも朝の穏やかな日差しが照る中、ハルカとキタカワは並んで歩いていた。


 「……わざわざ申し訳ありませんね、まだ街を歩くにも不案内なもので……」

 「いーんですよ!ノジャの顔ばかり見てても飽きますから!」


 珍しく寒い朝を迎えたと思ったら、外は深夜に降り積もったのか雪化粧でまばゆく光り輝いていた。


 「結構積もりましたね!これだけ降ったら東京なら大混乱ですよ!?」

 「そうだね……俺がまだ日本に居た時も雪の度に電車が停まったからなぁ」


 そう言い合いながら、足を滑らせぬように一歩一歩慎重に歩くハルカに対して、彼女を気遣いながらキタカワは歩調を合わせて歩いていた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 クリスマスパーティーがお開きになった後、当座の生計をどう立てていこうかと思案に暮れて居たキタカワにノジャが、


 「そんな単純な事で悩んでおったのか?全く余計な事を考えずに【こちらの世界】に早よう馴染め!!」


 ……と、相変わらず見た目に準じぬ漢前発言(?)をしながら、懐から重みのありそうな革袋を取り出し、


 「……これは()()()()()()()だと思うて、ひとまず納めておくのじゃ!」


 ……と言いながら、小さな掌に載せてグイグイと押し付けてくるので、


 「そ、それじゃ……一先ず借りておきます。……あの、ハルカさん……」

 「……どうかしたんですか?」

 

 手にした革袋の意外な重みに一瞬たじろきつつ、ノジャから少し離れた所にハルカを呼び出しながら、


 「……ノジャちゃんって、一体何者なんだい?普通にお酒飲んでるし、簡単にその……大金を出したり……」

 「う~ん……ハハハ……見た目はあんなんですけど、中身は海千山千の妖怪だと思ってください!……だって、【まほろば】のオーナーなんですから……」


 キタカワはハルカの言葉を聞いて、当然ながら驚きを隠せなかったが、掌に残る革袋のずっしりとした重みは嘘偽りの無い真実であり、次第に疑う事が馬鹿馬鹿しくなってきた。


 「……本当に所有者なのかぁ……う~ん、まぁ、それならいいんだが……まさか、《人間》じゃないとか?」

 「うぅ~ん、たぶんそうだと思いますよ?なにせ、自称八百歳超えだそうですから」


 ハルカの答えを聞きながら、キタカワは(そうなのか……しかし八百歳かぁ……)と納得しながらも思わずノジャの姿をまじまじと見てしまう。


 椅子に座りながら足をブラブラと揺らしつつ、手にした熱燗をお猪口でチビチビと飲む姿は、濡羽色の黒い髪を赤いカチューシャで留め、長い睫毛と細くキリッとした形良い眉毛……そして美しくバランスの取れた目許をほんのりと紅く染めた美少女然としながらも……やっぱり【酒を飲むオッサン】そっくりだった。


 「……妖怪ね……なら、仕方ないか……」


 ノジャを見ながら彼は何故か、あの【化物ビル】で出会った男児を思い出して、一瞬だけ寒気を覚えたが……頭を振って忘れる事にした。……何故かは判らないけれど、同種の非現実的な物を感じ……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 横を歩くハルカは白いボア付きの短いブーツを履き、ギュッ、ギュッ、と小気味良い音を立てながら、キタカワはビブラムソールのガッチリとした丈のある武骨なブーツでザクザクと踏み締めながら歩いていく。


 カシミアの黒いコートの上に贈られた水色のショールを首元に掛け、珍しくスカート姿のハルカは「……少しだけスースーしますね……慣れないからかな?」と呟く。


 「今朝は寒いから仕方がないさ……でも、良く似合ってるよ?」

 「……ふぁっ?……そ、そうですか!?……あ、ありがとうごさいます……」


 新しい生活を始める為に、借り住まいを探したい(ノジャは自分の屋敷に借り住まいを定めればよい、と勧めたがキタカワは頑なに断った)と仲介業者を訪ねるキタカワに、ハルカは道案内を買って出たのである。


 「……ところで、何か仕事を探す当てはあるんですか?意外な趣味や才能があるみたいな……」

 「……さてね、この歳まで自衛隊と警備会社しか経験していないからね……果たしてどうしたもんやら……」


 ポリポリと顎を掻きながら、しかし全く慌てる素振りを見せないキタカワに、ハルカは少しだけマイペース過ぎるんじゃない?と思いはしたが、それを言葉にする事は無かった。


 代わりに彼女の口から飛び出た言葉は、世間話としては随分と剣呑なものだったので、ハルカ本人も何故そう言ったのか良く判らなかった。


 「……あの、キタカワさんって自衛隊から……外国の警備会社で働いていたんですよね?」

 「そうだね……知ってるかもしれないけど、警備会社とは名ばかりの【紛争請負業】って感じかな?……防弾チョッキと目出し帽、マシンガン携えて世界中の物騒な場所で撃ったり撃たれたりする商売さ……」


 「……それじゃ……人を撃ったりした事、あるんですか?」


 俯きながら訊ねたハルカは、思い直してハッとしながらキタカワの表情を見てみたが、彼は全く気にする素振りを見せなかった。


 「あるさ……何回も、何人も……何か事が起きれば報告書に【有事事案発生】って書いて、消費した弾丸の数を記すのさ……結果がどうだったにせよ、必ず……ね」


 そう言いながらセーターの上に着込んだベストの胸ポケットから、黒いサングラスを取り出して、


 「こいつにはCCDカメラが付いていて、任務中の映像を常に録画されているのさ……お陰で報酬の査定はシビアなんだが、まぁそれもコッチじゃ使い道がないな……」


 ブラブラと振りながらポケットに納めたキタカワは、はたと気付いたように立ち止まるとハルカに向き直り、


 「そうだ、言い忘れてた!……ハルカさん……」

 「は、ハイッ!?……何でしょうか?」


 緊張で顔を強ばらせながら、何が飛び出すのかと待ち受けるハルカに、


 「……そんなに固くならなくていいって……新年明けましておめでとうございます、ですよ?」

 「……あ、そうでした!……明けましておめでとうございますッ!!」


 言われて急に背筋をシャンと伸ばし、両手を重ねながらペコリと頭を下げてお辞儀をするハルカ。そんな様子を微笑ましく思いながらキタカワは、


 「……久々にキチンとした新年の挨拶を見たよ!……いやぁ、やっぱり何だかんだ言っても日本人なんだよな、俺もさ……」


 ……と、言いながら懐に手を入れて、小さな包みをハルカへと差し出す。


 「そんな訳で【お年玉】だよ」

 「……えっ!?そ、そんな!……私が!?今年で三十路のオバサンですよ!!」

 「やれやれ……すぐにそう言うのが今の若者の勿体無い所だぜ?俺より一回りも若くて綺麗なのにさ……」


 悶えながらイヤイヤをしていたハルカだったが、キタカワの言葉に一瞬固まって、直ぐに紅くなりながら……やがて驚いたように、


 「……えっ、キタカワさん……一回り歳上なんですかッ!?てっきり三十半ばだと思ってたのに~!!」

 「そう言われると悪い気はしないけど……ねぇ」


 お互いの顔を見合いながら、そして屈託なく笑い合い……二人はまた、ゆっくりと雪を踏み締めながら歩き始めた。







今年もお読み頂きまして有り難う御座います!来年もスナックまほろばを宜しくお願い致します!!

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