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酒と女とサンタとコタツ(アルコール濃度かなり高め)

タイトル、出落ち感全開ですねそうですね……



 キタカワは着ていたタートルネックのセーターを脱ごうか悩んだが、着ておく事にした。室内は空調と人の熱気で暑さすら感じていたのだが、粗めに編まれた羊毛は通気性も確保されている為、何とかなりそうだった。


 「……あ、失礼しました、大丈夫ですか?」

 「申し訳ありません!……ついうっかりしてました!」


 身体が触れたからか、背後に居たカップルが彼に向かって言葉を掛けてくる。その低姿勢に忘れていた【日本人気質】を思い出し、少しだけ気持ちが和らぐような気がして、


 「お気に為さらずに、こちらこそ場の空気に馴染めなくて……。日本の方とお見受けしましたが、パートナーの方は……こちら側(・・・・)の方ですか?」


 ふと見れば、男性の腕に立派な胸元を押し付けながら並び立つ女性の耳は細く尖り長く伸びている。時折挿絵等で見掛ける異種族と同じなのか、美しい金髪と青い瞳は誰の目をも惹くだろう。


 「あ、自己紹介が遅れました、私はキタカワ。和名で名乗ると北川・元弥(モトヤ)と言います」

 「和名……?何だか事情が有りそうですね。私は……ヤキトリと名乗っていますが元はしがない営業マンでして……色々あってグランウッドと言う町に身を寄せています。こちらはシェロです」

 「ふぇっ!?……あ!シェロ・グランウッドと言います!ヤキトリ様とは夜明けの逢瀬を経て共に伴侶と成る事を選んだ間柄です!!」


 少しだけ見た目とは異なるふわふわとした喋り方ではあったが、馴れ初めらしき説明をする様子は流れるように流暢で、キタカワはその柔和な雰囲気に和みながら気持ちが弛緩していくのを受け入れていた。


 (……考えてみたら、俺は……郷里を自ら捨て、いつの間にか弾丸と死が隣り合わせな生活が当たり前になっていたが……キャッシュがいくら増えようと、結局使い途が無ければ無駄の一言に尽きるか……)


 相思相愛の二人を眺めながら、温くなったビールでは酔えないな、と思い直し特設されたバーカウンターに二人を誘い歩き出した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「はいはいいらっしゃい……お客さん、何作りますか?」


 カシュカシュ……とシェーカーを振る金髪ショートの垂れ目系イケメン(笑)がキタカワ達に問い掛けながら、カクテルグラスに水色のお酒を注いで傍らに控えていたビスケットに差し出し、蛇の下半身をくねらせる女性を指差しながら渡すように言葉を掛ける。


 「俺はホットウイスキー、で……こちらには……」

 「私!?えぇっと、お酒飲んだことないから……そーゆー奴ください!」

 「えっ!?飲んだ事ないのにカクテルに挑戦するの!?シェロちゃん大丈夫!?」


 慌てるヤキトリを尻目に眼を輝かせながら耳をピコピコと動かして、期待値高めに催促の眼差しを向けるシェロ。そんな二人の様子を垂れ目のバーテンダーは眠たげに見詰めながら暫く考えてから、


 「うーん、それじゃ軽めに……」


 彼はそう言いながらシェーカーにペパーミントリキュールとカルーア、そしてクリームを注ぎ入れ、クラッシュドアイスを投入すると蓋をし、


 「それじゃ……よっと!」


 カシュッ、カシュッ、カシュカシュ……と見事なスタンダードスタイルで加速させながら、やがてゆっくりと動きを止めてカクテルグラスに注ぎ込み、


 「……【グラスホッパー】です。お口に合いますかね?」


 完成したカクテルをスッ、とシェロの前に差し出して、カウンターに肘を突いた。


 「いただきます!……ふああぁ、甘くて爽やかです♪これ、スゴく美味しいです!」


 口の中に広がるペパーミントの清涼感と、一体化したカルーアとクリームの甘さが味蕾を優しく包み込み、シェロは初めてのお酒とは思えない幸福感に眼を輝かせながらヤキトリに微笑んだ。


 「そりゃよかった……いつもは【bar・魔界の裏口】ってとこでシェーカー振ってますから、近くに来たら寄ってくださいね?」

 「何じゃ?お主らしくないのぅ?珍しく営業トークしとるのぅ!……さてはそのエルフ娘に一目惚れしたか?」


 傍らから現れた深紅の瞳のゼルダに混ぜっ返されて、バーテンダーはアハハ……と笑いながら、


 「何を言ってるんですか……俺はいつでも仕事優先ですよ?……それにパートナーの居る女性には興味有りませんからねぇ……」


 手にしたアイリッシュウイスキーと熱湯を銅製のマグの中でステアしながら、キタカワに差し出してゼルダに答えるとヤキトリに体を向けて、


 「こちらの吸血鬼サンの言うように、私はインキュバスですけど……ご心配なく!……もっぱら口説くのはお酒を売る為ですから……で、旦那さんの方は何にしますか?」

 「俺かい?……そーだなぁ、それじゃ……オレンジを使ったカクテルかなぁ……」

 「はいはい、それじゃ……」


 そう言うとゴブレットグラスにキューブアイスとオレンジジュース、ホワイトラムとマンダリンリキュールを注ぎ入れてからステアし、


 「はい、【ウォータールー】です。少しだけ強目ですが、オレンジベースだから口当たりは悪くないと思いますよ?」

 「どれどれ?……おっ?……なるほどね!シェロちゃんも飲んでみる?」

 「うん!どうかな?……あ~、オレンジっぽい!……ウフフ♪こーゆーのもお酒なんだねぇ!」


 そんなやり取りをしている二人に手を振りながら、ホットウイスキーを手にしてキタカワはバーテンダーに礼を言い、ざわめく人々をくぐり抜けながら何か摘まめる物はないかとテーブルへと近づいて行った。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……何だ!?……いや……これは……」


 だがしかし、テーブルに向かおうとしたキタカワは……一際異彩を放つ【存在】が鎮座する姿に眼を奪われて、言葉を失った。


 クリスマスパーティーの会場の片隅に、正方形の畳が組み合わされた台が設置されていて、その上には……


 「……どこからどう見ても……《コタツ》じゃないか!?」


 ……そう、それはまごう事無き……立派な《コタツ》だった。しかもその上にはご丁寧に籠に入れられたミカンとティッシュボックス、そしてチラシを折り畳んで作ったゴミ入れまで完備していたのだ!!おまけに三点セットに追加して必須アイテムの……


 「ふにゃあ……和むのぅ……お?キタカワも当たるか?温いぞぅ?」


 ……【半纏(はんてん)】を纏った黒髪ロングのノジャが《温まる幼女》として完璧なストロングスタイルで半身を突っ込みながら微睡(まどろ)んで居たのである!!


 「……ノジャ、あんた……溶け込み過ぎじゃん!ホントに少しはコッチも手伝いなさいよ!?」


 ミニスカサンタ衣装のハルカがノジャの前に熱燗のお代わりを差し出しながら、空になったお銚子を回収しつつ苦言を呈するのだが、


 「うるさいのぅ……妾は働きなくないのじゃ……ほれ、お主も付き合わぬか?」


 キタカワを手招きしながら横を指差して、脇に置かれた熱燗とお猪口を手に持ち誘う仕草を繰り返したので、苦笑いしながら彼は付き合う事にした。


 「……うぉっ!堀コタツになってたのか……しかし目立つな……」


 彼は周囲の眼差しを感じながら、だが遺伝子レベルまで刷り込まれているであろう【コタツ】の誘惑に耐えきれず、反射的にお猪口を受け取りながら……ノジャの誘いに乗ったのである。


 「……【アカギサン】とか言うニホンシュのアツカンじゃぞ?さっぱりしとるからアツカンでも悪くないのじゃそうだが、どうかのぅ?」


 見た目は幼女にしか見えないが、既に熱燗を過剰摂取している筈なのに全く変わらない口調に【異世界の住人】らしさを感じ取ったキタカワは気にする事を放棄して、


 「……ほぉ、確かに飲み易いな。若干の渋味が米の味を引き出して……冷やでも甘くない種類の日本酒だろうな、これは……」

 「おおぉ!流石はニホンジンじゃな!ニホンシュを語らせたらやっぱり母国人が一番合うと言う訳じゃ!」


 妙な所で感心されて、キタカワは照れ臭さを感じながら、


 「……まぁ、日本人と言っても事情が有って国は捨てたんだがね……」

 「国を……捨てたじゃと?」


 ポツリと呟いたキタカワの言葉に返したノジャの傍らに、


 「あ~!もう疲れた!私も少し当たらせてもらうわよ!!」


 形の良い脚からロングブーツを脱ぎながら、白いストッキングとミニスカートの僅かな隙間の肌を隠すように裾を下げつつ畳の上に乗り、


 「……うわぁ……入っちゃったわ……もーダメ!こん中入っちゃったら一発でダメ人間になっちゃうわよ……♪」


 呻くように宣言しながらハルカは付け鼻付け髭黒メガネを外し(まだ着けていた!)、コタツの横に設置された火鉢にあたりめを載せながら際どい発言を言いつつ、周囲の眼差しを完全に無視する事にしたようだ。




 

そんな話です。クリスマス、如何でしたか?我が家はナカ食でダメ出しのオンパレード(主に三次嫁)でした。次回は孤独な男の独白……まぁ、そうなるな。

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