パーリィナイッ!!(アルコール濃度高め)
やや後れ馳せながらクリスマス!!そんなお話です!!初登場のキタカワはこの先何を見るのか……(笑)
キタカワと名乗る男は、ハルカの前で目出し帽を脱いで素顔を露出させる。見た目は若々しくはなく、濃い茶色の髪には白い物も見え職業柄か固い表情のままで、緊張しているのかと思ったのだが……、
「……Missハルカ、で……いいかい?何せ実物の妙齢の女性と話すのは久し振りだし、CA位しか異性と話す機会がない仕事でね……」
彼はややおどけた口調を維持しながらハルカにウインクし、肩に提げたマシンガンをどうしたものかと周囲を眺めていたのだが、
「失礼ですがMr.キタカワ様、そちらの【ブッシュ・マスターⅣ】をお預け頂けませんか?」
「……それは構わないが、君……いつの間にソコに居たんだい?」
背後から声を掛けられて振り返ると、白黒のゴシック調のメイド服に身を包んだ女性は悪びれる様子も無く、
「申し訳御座いませんが、私ビスケットは……この店の用心棒のようなものです。見た目に騙されると、火傷しますよ?」
話しながらマシンガンの弾装を外してチェンバーから薬莢付きの弾丸を排出し、両方をエプロンのポケットに素早く仕舞い込む手際の良さに(……確かにね……)と納得しながらビスケットの姿を改めて見直すと……
「……私の姿に見とれると言う事は……キタカワ様はガイノイドを見るのは初めてですか?」
「いや……その帯に何て書いてあるのか気になって……ニホンゴかい?」
パーティーグッズのたすきに「一日名誉トナカイ!」と書かれ、赤く丸い鼻を付け頭に角を模したカチューシャを填めたビスケットに彼が尋ねると、
「……これには【カラテマスター】と言う意味の言葉が印されています。私はリキドーザンと言う偉大な大師匠の元で技を磨き上げた……」
「なーにホラ吹いてんの?さっさとキタカワさん案内して手伝いなさい!」
胸を反らしながらややドヤ顔で自慢げに話すビスケットを遮って、ハルカはガラスが填められたドアを指差して、
「あちらでクリスマスパーティーを催していますから、今夜は……ゆっくり出来ないかもしれませんが、まぁ!色々召し上がって行ってください!」
そう伝えると裏に有る倉庫の冷凍庫に向かい、追加に必要な食材を抱えると足早に厨房へ入っていった。
「……彼女、あんな格好でいつも料理をしている訳じゃないだろ?」
ミニスカートからすらりとした形の良い足を見せ、ロングブーツを鳴らしながら立ち去るハルカの後ろ姿を見送りつつ、キタカワがビスケットに問い掛ける。
「当然ながら彼女は調理師です。浮わついたコスチュームはあくまでもパーリィナイツを盛り上げる為の装いで、いつもは地味なコックスタイルです」
「そりゃそうだろうね……ところで此処は一体何なんだい?」
「……今更ですね。此方は酒食を提供する【まほろば】と言う飲食店です」
さも当然と答えるビスケットだったが、キタカワは彼女とハルカが当たり前のように英語を話している事実に気付く事無く、パーティー会場になっている店内へと向かったのだが……
……もし、彼が注意していたらハルカの口の動きと声に僅かな違和感を感じたろうし、相反してビスケットがオールドイングリッシュで教科書的な発音に徹する不自然さに気づいたかもしれないが……あの異常事態から解放されたせいか。キタカワは詮索する事無く扉を開けた。
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だが、その先には……更なる異常事態が待ち受けていたッ!!
「凄い!もうそんなに大きくなっちゃったの!?」
「育ちがいいみたいで……シムも【流石はコボルトの子だ!】って毎日感心してますよ~♪」
「何じゃゴルお!妾の酒が飲めぬと申すのか!?」
「いやマジで勘弁してくぁさいよ……」
「……そこで俺が打ち込んだんだが、相打ちになっちまってね……」
「キャハハハハハハハハハ~ッ♪お酒美味しいぃ~!!」
「……お主は飲み過ぎなのじゃ……全く……」
「こっちこっち!!ジョッキ四つ追加!!」
「誰よドワーブ出禁にしたのは!!全く失礼しちゃうわよ!!」
「アンタが飲み過ぎるからじゃないの?」
「ツヴァイさん脱いじゃダメですっ!!」
「シェロちゃんこれ美味しいよ?ほらこれこれ」
「うわぁ~ヤキトリ様!シェロほっぺた落ちちゃいますぅ♪」
「キュビ、飲み足りない!!もっと飲む!!」
「……早く輿入れしたい……」
「無理です!!もう飲めません!!」
視界を遮るような巨漢やほっそりとして耳の長い妖精のような女性、その隣には髭にリボンを結んだ小柄な男性がジョッキを煽りながら野太い声で叫んでいたり……中には下半身が大蛇のよう妖艶な女性や甲冑姿の居丈夫まで見え……その状況は一見すると映画のワンシーンを切り取ったかのようだが、まごう事無き現実であった。
……だが、集う老若男女の話す言語は全く理解出来ず、キタカワは狐に摘ままれたような感覚を味わってしまう。
「……リアルカートゥーンシネマの撮影現場かい?これは……」
「残念ながら皆様は全員アクターでもアクトレスでも御座いませんよ?」
ビスケットに促されながら会場へと足を踏み入れたキタカワは、着ていた防弾チョッキを彼女に預け、代わりに差し出されたジョッキを手に持ちながら会場の混沌と化した状況に呆れていた。
「おおぉ!?そちは何処から参られたのじゃ?妾は此処の主、ノジャと申す者じゃ!」
「あ、初めまして……此処はドレスコードは……無さそうですね?」
「ドレスコード?……おお、礼服か?此処はそのような堅苦しい場に有らぬぞ!飲んで食べてお代は後程じゃ!ゆるりとしていくが良いぞ!」
手にしたグラスを飲み干しながらノジャはそう伝えると、うむ、失念しとった……ちと失礼するぞ?と言いながら背伸びしてキタカワの首の後ろにペチンと小さな手を当てて、
「……【世の理に従いし純朴なる子羊に、言の葉の道標を与える】事を此処に契る……のじゃ!」
……ちくり、と痛みを感じてキタカワは首筋に手を当てると、ほんの僅かだが血が滲んでいた。恐怖よりも好奇心が先立ちノジャに尋ねようとした瞬間、
……先刻まで全く理解出来なかった会場の音声が突然意味を持ち、一瞬にして彼の脳裏で翻訳され始めたかのように整然とした情報と化したのである。
「何なんだ……ノジャさんだったか?……俺に一体何を……?」
「お主はハルカの世界の【異国人】じゃろ?この異世界スナックに集う連中とはそもそも言語体系が異なるからのぅ……悪いが【言葉の呪符】を施したから、聞く話すは問題は無かろう?」
近くの壁に付けられていた姿見の鏡(何故か下に《謹製・稲村皮革道具店》と字が貼られた開店祝いの贈り物)で首筋を見ると、うっすらと刺青のような模様が襟足に見え隠れしていた。
「この歳になって、まさかクリスマスプレゼントがタトゥーとはね……死んだお袋に何と言ってよいのやら……」
繁々と眺めながらキタカワが呟くと、手にしたジョッキを配っていたビスケットが耳聡く聞き付けたのか、
「おお、本場のアメリカンジョーク炸裂ですか?」
「いや、俺はアメリカ人じゃないんだが……まぁ、いいか……」
キタカワは呟きながら、ホットウイスキーに辿り着きたくなって、ひとまずビールを片付ける為に近くのテーブルに向かって歩き出した。
Monkey_sun様!ヤキトリ君とシェロちゃん借りました!申し訳ありませんが手短にこの場にてお礼をば……それではまた次回!




