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お出迎えは特別なコスチュームで!

御約束通り、クリスマスらしいお話です!!……たぶん。



 ……キキキンキン、と真鍮製の薬莢が排出孔から落下し、硝煙の匂いを曳きながら乾いた金属音を立てる。


 グラブラバ(目出し帽)の中で舌打ちしながら身を臥せて周囲を警戒し、やがて素早く立ち上がり男は手にした7.62mm機関銃(マシンガン)を構えたまま、扉を室内側へと蹴り飛ばして強引に開ける。


 (……まただ、どうなってやがる……?)


 扉の向こう側はがらんとした空き部屋で、家具や調度品も見当たらなく殺風景であるが、明らかに人が居た形跡だけは見てとれる。乱暴に抉じ開けて中身を貪った缶詰めの残骸に、空のペットボトル。そして……黒ずんだ血溜まりに横たわる物言わぬ死体。


 つまり……ここにやって来た犠牲者は、自分がやって来るまでは生きていて、やがて何らかの【事故】に巻き込まれて絶命し、事切れたと言う訳だ。


 ……気を落ち着かせながらマシンガンを肩に懸け、腰に提げた自動拳銃(オートマグ)を引き抜き、ジャコッ、と音を立てながら弾装を引き出して残弾を確認、あと十二発装填されている……つまり、


 「……十三回目に引き金を引いたら、お仕舞いって事か……」


 心の中で溜め息を吐きながら戻し、窓際に近付いて外を覗き見る。窓の外は雪が降っている。身も心も凍える訳だ……こんな夜は……


 「……さっさと帰って、ホットウィスキーでもやりたいぜ……」


 無駄な願望だと判っていたが、それでも男は呟きたかった。願望を口にする行為その物が、彼が唯一生きている実感を得られる手段だったのだから。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 事の切っ掛けは単純だった。自らが属している《警備コンサルタント会社》に、誘拐犯に捕らえられた子供を救ってほしいと舞い込んで来た依頼によって派遣されたのが……某国の中心地に在る寂れた雑居ビルだった。


 ……今にして思えば罠に決まっていると判るのだが、同じ会社から派遣された同僚六人と共に移動車両を介してビル付近まで移動し、夜闇に紛れて侵入……そして、次々と無人の個室を警戒しながら偵察し、最後に残された最上階の一室へと踏み入れようとし、互いに目配せしながらドアの前に待機し、ハンドサインで突入のタイミングを合わせ……


 (……ッ!?)


 ……彼だけが【何か】に感付いて踏み留まった瞬間、扉の向こう側が文字通り《食い尽くされた》のだ。


 床下から大量の蛇のような【何か】が湧き出して、真上に向かって伸び揚がり天井を突き破り消えていき……そして、


 「くっ!?……おい!!ジョーイ!!アルバス!!返事しろ!!……駄目か……」


 彼は耳に取り付けたインカム(短距離無線)で仲間を呼び出そうと名前を連呼したが、誰一人として返答する者は居なかった。


 その異常事態に恐慌を来す事も無かったのは、今に始まった訳でもなく……過去に何度も死の淵から生還する度に(……こんな目に以前も遭った気がする……)と回想しようとするが明確に思い出せない、そんな事が一度や二度ではなかったのだ。



 ……その後は記憶を辿りながら建物の二階まで戻り、先に見える階段に到達すれば脱出出来る……そう、その筈だったのに……


 階段は、途中から欠落し真下には底の見えない大穴が口を開き、明らかな意図を持った何者かが退路を絶っている……そう彼は感じ取り、マシンガンを構えながら後退しようとしたのだが、背後に何者かが居る、そう直感した彼はがっしりとした体格からは想像も出来ないような行動を取ったのである。


 瞬時にブーツの踵を叩き付けると爪先から短いスパイクが飛び出し、それを壁に突き刺して足場を確保し強引に身を捻りながら宙に舞い、斜めに跳躍しながら廊下の壁から壁へと移動し、着地と同時にトリガーを曳こうと力を籠めたのだが……


 「いやぁ~オジサン凄いねぇ!()()()()()()()()()()()()()、何か特別な能力でも有るの?」

 「…………」


 いつの間にか目の前に現れた白いシャツに黒い半ズボン姿の男児の声に一瞬だけ躊躇したものの、一切の呵責無く肩に懸けたマシンガンを構えてトリガーを曳く。


 ……ヴゥドドドドドドドドドッ!!と、連続射撃で撃ち出されたソフトバレット(刻み目を入れた硬質素材の弾頭)が狙い過たず全弾命中し、弾頭が体内で破砕し砕け散りながら驚異的な衝撃を与え、標的になった男児は上下に分断されながら崩れ果てる……筈だったのだが、


 「あはははははははは~っ!!残念だったね~!ボクが()()()()()()()()()()()()()()()?」


 胴体に大量の貫通孔を穿たれながら、しかし男児が撃たれた事実を全く意に介さずに嗤いながら手を広げ、《やれやれ!》なポーズを取る姿を目にし、彼は本能的に次の動きを始めていた。


 腰のベルトポーチから瞬時に【鎮圧爆弾(ライアットボム)】を手に取ると、安全ピンを引き抜いて投擲、投げ付けられたそれに意識を集中している相手の隙を突いて反転し、一か八かの賭けに出て……真下に空いた大穴へと身を投じた。


 次の瞬間、耳をつんざく破裂音と眼を眩ませる強烈な光が炸裂し、視界の一切が真っ白に染まった……のだが、


 「……いやはや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 見た目だけ男児のその存在は、さも五月蝿かった!と言わんばかりに耳の穴を指先でほじりながら、直ぐに何事もなかったかのようにスタスタと歩き出し、穴の縁から階下を眺めてみる。


 そこには男の姿は無く、コンクリートで塗り固められた壁面の破砕面が崩れ落ち、開いていた階下の扉が瓦礫によって埋まってしまい回り道を余儀無くされる。


 「さて……()()()()()()()()()はどこに逃げたかな……?」


 手を打ち合わせて楽しげに微笑みながら、男児は踵を返して歩き出し、弾丸が通過して穴だらけになった服を見て溜め息を吐きながら、血の一滴も垂らさぬまま闇の奥へと消えていった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「はぁ、はぁ、はぁ……何なんだ!!何なんだよ……畜生……!」


 困惑し、憔悴し切った彼は肩で息をしながら背後を振り返り、改めて相手の不気味さに鳥肌を立てる。マシンガンは全弾射出してしまい、最後の弾装と交換すれば次はサイドアーム(副武装)の自動拳銃(オートマグ)しか無い。普通車のドアすら左右共に貫通する7.62mm軍用マシンガンが効かない相手には、象かヒグマ用のスラッグ弾を装填したショットガンでも無ければ逃げるしかない。いや、そもそも銃で撃って意味が有るのか?


 ……悶々としながらも彼は決して諦めず、最後まで抗おうと考えながら……、



 ……右手側に浮かび上がるように見えた、ネオンサインで縁取られた恐ろしく場違いな看板と……どぎついピンク色の扉を視界から締め出そう締め出そうと……無駄な努力をしながら、やがて諦めて仕方なく……近付いてみる。


 そのネオンサインには彼には読めない字で何やら記されていたのだが、不可解な事にその字が【異世界スナック・まほろば】だと理解する事が出来たのだ。


 (……スナックだと?こんな死体がゴロゴロ転がるような場所に飲食店!?……何処のバカが営業許可を出すんだ!?)


 しかし、当然ながら彼にとってはさしずめ修羅の庭でバーベキューをする位、不信感と警戒心を高めたのだが、


 「……あ~あ、つまんない!……もう鬼ごっこは終わりなのかな?」


 背後から聞き覚えの有る、妙に馴れ馴れしい男児の声を耳にし、彼は掛けていたサングラスの縁に指を軽く触れた。


 ……すると左側のレンズに後方の画像が投影され、何処で拾ったのか男児が手にした装填済みのマシンガンを構えようと銃身を振り上げる姿を見て、



 ……ほぼ本能的に怪しげな扉のノブを衝動的に掴んで捻った瞬間、スカイダイビング並みの浮遊感と共に扉の向こうの闇へと吸い込まれ、その空間に一切の痕跡を残さずに消えていった。



 ……だが、




 「……【異世界スナック・まほろば】だって?……ふざけた真似を……っ!?」


 無表情の男児が身の丈に合わぬ改造されたマシンガンを構えてトリガーを曳こうとした瞬間、扉は忽然と消え失せて、そこには周囲と変わらぬ壁しか無かった。


 「……!?……チッ!……逃げられたか……あーあ!つまんないの!!」


 まるで、楽しみにしていた玩具を取り上げられたかのように見た目相応の拗ねた声を出しながら、男児は踵を返すと歩き出し、やがて闇へと消えていった……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……一瞬だけ感じた落下の浮遊感が消え失せると同時に、固い床に足先が着き彼は暫ししゃがみ込んだまま警戒を続けていたのだが、やがて目が慣れて暗闇が照明を控えた廊下だと気付き、立ち上がるとゆっくりと先へと歩き出した。


 床は毛足の短い赤い絨毯が敷き詰められていて、足音を忍ばせるには好都合だったのだが、


 ……チリリリリリリリ……リン!と扉に付けられていたベルが鳴り響き、彼の努力は水の泡となってしまった。


 すると、廊下の向こうから無警戒に進む人の気配が近付いて来て、


 「いらっしゃいませ!お客様は……うわっ!?」


 ……目の前に現れた若い女性が両手を差し上げて万歳のポーズを取り、驚きながらもやがて声を絞り出し、


 「……う、撃たないでくれますよね?私まだ死にたくないですから!!」


 ショートカットの黒髪が似合う東洋系の綺麗な女性が彼に懇願したのだが、彼女が真っ赤なサンタ風のミニスカート衣装に黒縁眼鏡に付け鼻付け髭のパーティーセットを身に付けているのを見て、


 「いや、こちらこそ済まない……取り乱してしまって申し訳ない……」


 そう言いながらマシンガンのセーフティを掛けて肩に提げ、サングラスを外しながら、


 「俺は……【ワールド・デフェンス・コンサルティング】の……キタカワだ。あんたは見た所……パーティーか何かの最中なのかい?」


 やや疲れたように微笑みながら自己紹介をし、相手の警戒心を解く為に慎重に声のトーンを調節しながら問い掛けてみた。




あ、勘違いした方には申し訳ありませんでした!この作品は【異世界スナック・まほろば】で間違いありませんからね?それでは次回は……クリスマスパーティー!!!リア充になろう!!的な感じになるといいなぁ。

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