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物書きの苦悩と愉悦

やっと更新出来ます!遅くなりましたが……あ、monkey_sun様三話続けて登場してもらって恐縮です!(流れ的に確定)



 見知らぬ相手に会って早々に唐突に悩みを話せ、と言われれば誰でも苦慮するだろう?だって、話しても解決する保証はないし、もしそれが人伝(ひとづて)に広まりでもすれば……あまり愉快な事になりそうもないか。



 だが、相手はアンドロイド(だと本人は主張しているが……)らしいし、知り合いに話すような事も……まぁ、たぶん無いだろうな、と余計な詮索をしても仕方がないか?


 それに、このスナックと言う環境が、どことなく開放的な気持ちに……させているのかもしれないが、結局……話すことにした。


 「悩み……と、言うか行き詰まってる……って言うか……」


 ビスケットさんの前に座ったまま、頭の中を整理しつつ話し始める。


 「実は自分……趣味で小説を書いてまして、その展開が上手く進まなくて……あ!いや、別に専業作家って訳じゃないんだけど……」

 「小説ですか?それは素晴らしい事です。物語を紡ぐ事は人類に与えられた有意義な創作行為ですよ?」


 メイド姿のビスケットさんは、そう言って誉めながら首を少しだけ傾けて……とは言え、と前置きしつつ、


 「……私はアンドロイド……確かにこの量子頭脳を駆使すれば過去の文豪が記した作品を閲覧し複数の名作から典型的傾向を抽出して、形だけは立派な物語を作り上げる事も可能です。しかし……」


 と、少しだけ間を置いてから、目力全開で真っ直ぐにこちらを見詰めながら、


 「……それでは決して、真の物語にはなりません。何故だか判りますか?」

 「えっ!?……う~ん、よ、読んでくれるヒトが居ないから?……」


 かなり適当に答えたつもりだったけど、ビスケットさんは指先をピッ!と立てながらやや前のめりになって……って、物凄く近いっ!!()()()()()()()()()()が激しく当たってる!!


 「仰有(おっしゃ)る通りです!……や、これは失敬。私としたことが興奮し過ぎて()()()()()()()()()()()()かましてしまいました。……ちなみに扇情的なバストプッシュについて、何かご質問御座いますか?」

 「いや、もう判りましたよ……(ホントにアンドロイド……なの?)」


 そりゃ……見ず知らずの相手に胸をグイグイ押し付けられりゃ、誰だって気にするし気になるけれど……


 それよりも……何か物凄く重要な事を言っていたような……と、そこで手にしていたグラスのビールがすっかり温くなっているのに気がついて飲み干した。


 「あ、グラスが空になりましたね。……ところで、お客様はどのようなお話を創作しているのですか?」


 ビスケットさんが再びビールを注ぎ足しながら尋ねてきたので、少しだけ考えながらかいつまんで説明した。


 「……そうだね、一人の男が異なる世界に身を移す事になって……」


 言葉にすれば、あっという間に終わるような字の羅列かもしれないが、その流れを想像しながら字に起こし、様々な出来事や登場人物達の心情を考えているのだと思うと…………


 「……成る程です。つまり、お客様は主人公とヒロインの……」


 小説の内容を聞き終わったビスケットさんはそう言いながら目を瞑り、まるで音声構成のドラマを演じるかの如く情景を静かに語り始める。





 それは……自分の小説が自らの手を離れて霧散していきながら、けれども巨大なスクリーンに投影され直し、目の前に映し出されたかのようだった……其処へ更にビスケットさんの落ち着いた声と美しく整った語調で綴られていくと、まるでベテランの女優が読み聞かせてくれているみたいで、時に叙情的に、また時には情熱的にストーリーを表現してくれたのだ。


 ……なんでだろう……自分の小説が……()()()()()()()()()()激しく心へ突き刺さる……!!


 気がつけば悲しくもないのに眼から涙が零れ落ち、ビスケットさんが手にしたおしぼりでそっと拭ってくれていたのだ!いやいやちょっと!恥ずかしいから!!


 「……ドライアイですか?」

 「違うから!!……いや、ビスケットさんが語る物語が……凄く感動的に聞こえたから……恥ずかしながら、人前で涙を流したのは久々だったもんで……」


 ばつの悪さで何となく言い訳してしまったけれど、彼女はさして気にした様子もなく、


 「涙は心の洗浄液ですよ?溜まったストレスや心の(わだかま)りは速やかに流した方が精神衛生的に宜しいです」


 そうあっさり言ってから、空になったビール瓶を手に立ち上がり、


 「よい物語を教えてくださったお礼に……私の記憶アーカイブから一篇の物語を抽出して差し上げましょう」


 そう言いながら厨房の冷蔵庫から新しい瓶ビールを運んでテーブルへと置き、栓抜きも使わず親指の爪だけで栓を弾き飛ばしながら……


 「……と、その前に喉湿しの一杯を……さ、遠慮なさらずに空けてください」

 「プロレスラーみたいだねぇ……それじゃ、いただきます!」


 と、グラスに口を着けた瞬間、目の前のビスケットさんが瓶ビールの残りをらっぱ飲みで一気に飲み干して……タン!!と景気よく空き瓶を置いてから……


 「……けふっ。失礼、ガスが抜けませんでした。さて、私の知っている物語ですが…………」


 ……ビスケットさんは全く滞ることのない口調で、ゆっくりと話し始めた。





✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳





 ……今より少し未来の地球外コロニーで、絶滅寸前の人類最後の男の子が産まれました。彼の育成を担われた人工知能……【連続思考体】は、ひとまず彼を保育器の中で育みながら、同時に電脳空間で疑似体験をさせて人間性の形成を醸成させることにしました。


 やがて彼は精神も肉体も成長し、自然と《恋愛》をする年頃になったのですが……ここで【連続思考体】は考えました。


 《男の子は人間として必ず【恋愛対象】を欲するだろう。だがこの世界には彼の愛を受け入れられる生きた人間は居ない。ならば……せめて、万が一電脳空間から現実世界へ戻った時にギャップを感じないように、両方の世界で共通するアイコンキャラクターを創造して与えるべきではないか?》


 こうして、彼に遣わされたのが一体の女性型アンドロイド……いや、セクサロイドだったのです。


 彼と彼女は……まず電脳空間で顔合わせし、ドタバタとトラブルを抱えながらも協力して日々を過ごし、そして……ある日、現実世界に解放された彼は、彼女と共に暮らす選択をしたのです。だけどそれは……彼に過酷な現実を突き付ける結果となったのです。



 「……彼女はセクサロイド……つまり、《性的交渉》をする事は出来ても……二人の間に子供は設けられなかったのです……」

 「うわっ!!何だかシリアス過ぎるなぁ……あ、ごめん……先をお願いします」

 「いえいえ……それでも、彼は彼女との間に《子供》が欲しかった。しかし、生憎の《受精可能卵子》は一切存在しなかったのです」

 「……」


 「……けれど、彼と【連続思考体】の元に意外な報せが訪れました。それは【外宇宙入植母船】からの入植可能恒星を発見したとの報せだったのです」


 ……つまり、その【入植可能恒星】へと行く事が出来れば、【外宇宙入植母船】に搭載されている、選別された受精可能な卵子が手に入る筈……と。


 こうして彼と【連続思考体】、そしてパートナーのセクサロイドは、広大な宇宙を入植可能な恒星目指して旅立つ事になったのです…… 



 「……で、彼等は辿り着けたのかい?」

 「……さぁ、それは判りません。何せ、この物語は太古のパルプフィクション、それもかなり低俗なポルノ小説のお話なのですから」

 「なっ!?……何だよそりゃ……」


 そう告白しながらも、彼女は全く悪びれる風もなく、それどころか毅然と胸を張りつつ、


 「確かにこのお話の元は、下品で粗野な内容も含んだ小説なのですが、しかし無機質なアンドロイドが一途に人間へ献身的な愛を持って接する等、様々な要素を孕んだ立派な恋愛物語の素養も兼ね備えている事は否めません」


 そう言うとビスケットさんは立ち上がり、静かに続けてこう述べた。


 「……どんな物語だろうと、受け手がその作品を受け止めた瞬間に、現実と変わらない血肉を備えた存在へと昇華し……美しく花開くのです。つまり……物語を内包した読者という存在は、その瞬間から()()()()()()()()()()()()なのです」


 そう言うとビスケットは微笑みながらクルリと優雅に身を翻し、スカートを広げるようにその場で軽やかにターン、そして、すうっと薄紅色の唇を開き……


 「……ビスケットは………一歩一歩を確かめるように踏み出し、やがてその歩みは力強く地を蹴り一陣の風となって大地を駆け抜けていく。


 広がる草原の直中(ただなか)を、時に跳ね時には宙へと舞い上がり……彼女の身体は草原を吹き抜ける風よりも軽く、木々の梢すら彼女の妨げにはならなかった。


 今この時、広大な大空の下で様々な人々が……様々な想いを載せて自らの【小説】と言う名の物語を紡いでいる。創造するということは時に悩み、時には壁に当たり、躓いて進めなくなることもあるだろう。


 ……だが、それでも物語を紡ぐ事を止めてはならない。その【小説】を読む者が一人でも居る限り……その【小説】の中に住まう愛すべき主人公達が居る限り……決して物語を紡ぐ事を止めてはならないのだ。


 何故か?……答えは【小説】を書く事を選んだ者ならば、きっと知っている筈だ。


 作者とは……物語を一番最初に読む者であり、そして……




 【小説の結末を一番最初に読むことが出来る唯一の存在】なのだから。




 ……だからこそ!……作家は歩みを止めてはならない。物語の中に住まう愛すべき主人公達を……どのような結末であれ、そこへと必ず導く事が出来る……世界で唯一の存在なのだから……」




 と、彼女は言い終えて、だからこそ、小説を書く事は素晴らしいのです、と語り、静かに椅子へと腰掛けた。



いやはや久し振りに文学っぽく……とか、小説だから出来る表現とかを考えながら書きました。ちなみに当て字で(美峰→微峰とか……良くある無いチチ対象のやり取り等)掛け合うとかはアニメで表現しようとすると、字幕頼りになるから小説の勝ち!!


てな具合でまた次回も宜しくです。

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