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悲劇!ホームベースに散った涙

やっと更新!



 「……この構えこそ文明源流の地、蒼き母星に端を発する【べえすぼおる】流次元打法……オーサダハル大師匠が編み出したと伝わる究極のほおむらん量産奥義の型……【一本ダシ阿法】っ!!」


 元から無表情のビスケットがやっぱり無表情のまま、大袈裟でいてほぼ全て間違いな事を口走りながら、極めて不真面目な構えで白球が到達するのを待ち構えていた。


 「……もう、あなたの映像記録(アーカイブ)って物が、何処かの誰かによる悪意極まる捏造の塊だってことにしとくわ……」


 ハルカのぼやきはギャラリーのざわめきによって掻き消されてしまったが、馬鹿馬鹿しいポーズで視線を集めるビスケットの姿は、確かに人々の注目を集めるに相応しかった。


 何時ものゴシック調メイド服はやや短めの丈のスカートで、蛍光グリーンのショートカットの髪型と見事にミスマッチ。しかもスカートから覗く見事な脚線美は、ガーター吊りの白いロングストッキングで更に倍加され、世の男性の煩悩を掻き立てるに十分な破壊力を備えていた。


 そのフリル付き濃紺スカートから持ち上がりきっちりと停止された太股は、微動だにせず豊かな胸元へと押し付けるように固定されたまま……。


 「あの……ビスちゃん!!その……パ……下着が丸見えなんですけどっ!?」

 「……はて、いわゆるサービスカットですが、何か?」

 「誰得なのよ!!バッチリもろパンだから足下げなさいよ!足ッ!!」

 「……それではオーサダハル大師匠に申し訳ないと思いますが?」

 「色んな事が既に申し訳ないわよ!!特にその構えそのものとか全部っ!!」


 首だけを回しながらビスケットは会話に応じていたものの、しかしハルカの要求が効を奏する前に、残念なタイミングを逃さぬ白球が発射されてしまう。



 「……オーサダハル大師匠……不肖、ビスケット……只今から【ほおむらん】を献上いたします」


 ……バッティングセンター上空に煌めく星へ、高くバットを振り上げながら呟いたビスケットの前を、当たり前のように絶好のストレートが通過して行った……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「前を向きなさいよ前をッ!!何してんの!?」


 ガラスをバシバシ叩きながら促すハルカだったが、当のビスケットは涼しい顔で全く気にする様子もなく……


 「それにしても、この【バッティングセンター】と言うのは実に奥深い設備です。小さなボールが建物の中を循環して屋上へと到達し、眼前を通過していく……下から重力に逆らって上がる。まるで一つの小宇宙です」


 前方から飛来する三球目の白球が迫る中、ビスケットの相対型量子演算電脳が瞬時に活動を開始。その処理速度は圧倒的……で、その速さを生かしてビスケットは何を考えていたか、と言うと?


 (……しかし、ハルカ様は何故にこうしたレクリエーションを考えたんでしょうか?何だかんだ言いながら、ノジャ様とゼルダ様は楽しそうに挑発し合っていますし、デフネ様とヴァリトラ様も武道のお話に興じています。つまり、ハルカ様はこうした状況を想定していたとしたら……私の状況判断もまだ改善の余地がある、と言うことですね。てっきりあの二人の酔い醒ましを考えていただけかと思っていましたが……)


 ……まぁ、そんな感じで適当な事を考察していた彼女の目の前を、ゆっくりと通過するボールは表皮を縫い付ける糸が巡っていて、ビスケットはその縫い目を目で追う。


 (……おや?三球目のこのボールほ、殆ど回転していませんね。つまり、空気抵抗を考慮すると直進しながら速度が落ちた瞬間に、軌道が変わって下方に急速落下しそうです。つまり、ぐわんと下に落ちる訳ですから……)


 ゆっくりじっくり考察した結果、彼女は常識では有り得ないフォーム(逆向きの片足立ち)のまま、下から掬い上げるゴルフのドライバーショットを彷彿させるような振り方で、()()()()()()()()()()()()()()()バットをブン廻したのである。


 全てのセオリーに背を向けたハチャメチャなスイングは、大半のギャラリーの期待を裏切り空気を圧して発生する強烈な爆音(ソニックウェーブ)と、打球を捉えた金属バットがひしゃげる奇怪なバキリ、と言う破裂音を残してバッティングセンターの夜空を真っ直ぐに飛翔して、ホームランプレートを貫通して消えていった。



 「……さて、打球が当たったのに何も起きませんね。ちょっとこちらの責任者様に抗議してきます。後の打順の方はハルカ様から硬貨を受け取ってご遊戯を続けてください」


 ビスケットはそう言いながら手を上に挙げて【やれやれ】のポーズを取って、それからバッティングコーナーの入り口へと真っ直ぐに歩いて行った。



 「……最初から当てられたっぽいわね、アイツ……」

 「……お~い!ハルカ~ッ!ワタシの番だからお金ちょ~だい!!」


 呆れながら見送るハルカのやや下方から、視界を遮るように両手を左右に振りながらモルフィスが声を掛けてくる。


 ハルカが見下ろすと、ニシシ!とでも言いたげな笑顔を見せながら彼女は掌を差し出して硬貨をねだって来るので、


 「あ~、ハイハイ判りましたよ……ん、ほいほい、ハイ!」

 「うんうん!今夜のビールの為に張り切って行ってきま~す!!」


 何故かそんなことを言いながらバッティングコーナーへと繰り出したモルフィスは、しっかりとバットを握り締めてマウンドを睨み、ブンブンと素振りをして投球を待っていた。


 (……あれ?この人が今までで一番それっぽくバットを振ってるわよ?おまけに……あんな風にちゃんとバッターボックスに入ってるし……)


 ハルカの見立て通り、コンコンとバットの先でホームベースを叩いて距離を取りながら、ピッチャーマウンドを睨み付けていたが……




 「キャハハハハハハハハハ~ッ!!当たんないねぇ~全然当たんない!!」


 ……ご機嫌な笑い声を響かせながら……ブンブンと適当なタイミングで空振りを繰り返すモルフィスがそこに居た。



続きも宜しくお願いします!

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