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異なる世界へ



 ……後悔先に……何だっけ? あー、つまり今の私は蜘蛛の巣に引っ掛かった哀れなウスバカゲロウみたいなもんだよね……まぁ、餌食って感じ?




 そんな私的な感想はおいといて、目の前には深夜の路地の真ん中でガリガリと音を鳴らしながら、白い石を使って梯子状に紋様を描き続ける幼女モードのノジャが居た。


 「ふんふふふ~ん♪ ……そうじゃのぅ……控え室にはおやつを入れるレイゾーコが必要じゃな? さすれば今一度、再び赴く必要があるのぅ!!」


 「アンタねぇ……すっかりコッチに溶け込んじゃって……もしかして今回以外にここらに来てたの?」


 そう指摘する私にキッと鋭い目線を送りつつ、立ち上がるや否や自分がさも正しいと言いたげな態度で、


 「何を申すか! 妾は然程(さほど)頻繁に訪れていたわけではないし……してや観光メインでアサクーサやスガーモ等に行っては居らぬ!!」


 ……ま、迷子や連れ去りの心配は無いと思うけど……浅草寺とかとげぬき地蔵にピッタリなのはたぶん年齢だけだよね……。


 「……よし! 出来たのじゃ!! ……さーて、っと……【いんえんけつけつと成りて導く為に司る】……ほいっと!!」


 長い梯子状の紋様がユラリと陽炎かげろうのように揺らめくと、天に向かって一直線に立ち上がる。虹色に輝く紋様が真っ直ぐに伸びる様は幻想的な美しさもあり、超常的な畏怖感が沸き立つのも事実だったりして……まあ、正直言えば《こんなして前回も連れていかれたんかな?》と思った訳なんだけど……


 「ねぇ、ノジャ……前に向こうへ行った時もこんな風だったの?」


 「……ふぉっ!? な、何じゃ藪から棒に!? ……も、勿論じゃ! 平和裏に且つ可及に速やかな解決策を講じた結果で……ま、まさか他にも思い出した訳では有るまいな?」


 暑くもないのにダバダバと滝のような脂汗を垂れ流し始めたノジャに、私は不信感しか感じられなかったので取り敢えず「教えないと、この話は御破算にするわよ?」と軽く脅してみた。すると……被疑者ノジャは諦めて、あっさりと自白を始めました。さっさと白状した方が楽になるのに。





 ①転移話を鼻で笑った私を杖でかなりの勢いで殴打し、昏倒させた。

 ②死ななかったので記憶を改竄し、お持ち帰り。

 ③風呂場での出来事だったので、転移直後は全裸だった。






 「……まぁ、過ぎた事だからとやかく言わんよ?……しかし、入浴中に勧誘しに現れるとか鬼畜だよね? ……しかも……しかも、杖で勢い良く殴打とか……私、マジで自分に同情しちゃうよ……」


 「ううぅ……その節は本当に申し訳なかったのじゃ……あの頃は妾も精神的に混乱の極みと言うか暇過ぎて正常な思考が出来なかったと言うか……結構なお手前だったと言うか……(ポッ♪)」


 「オイこら何故最後に意味深な事を付け加えた上に(ポッ♪)とか無駄に誤解されるような演出するの? 誰得なのよ、その状況!!」


 思い起こしてみれば、コイツはどうせ今現在のロリッ子仕様で現れていた筈だ。過去に【下手に格好付けてデカくなってもエネルギー消費が無駄に増えるだけで疲れる】とか言ってたし……あれ? 何でそこだけ覚えてるんだ? ……と思ったら、それが連鎖の切っ掛けにでもなったのか、記憶が狭い場所から突然溢れ出した奔流のように甦り、次々と現れては消えていく……




 【……お主が居らんかったら、妾はきっと……()()()化け()()になってしまったろうな……】

 【……ハルカ!! もうよい!! もうよいと申しておるにっ!!妾は平気じゃ、だから……】

 【……のぅ、ハルカよ……妾とその……一緒に……】






 ……何が切っ掛けになるかなんて、誰にも判らないものなんだろうな……気になる最後の台詞を全て思い出す前に、転移を始めた私の意識は急速に引き伸ばされて遠退き……いつの間にか気を失っていた……



 ……でも、私は取り戻した筈の記憶に確信が持てない事が……頭の片隅にしこりのように残ったままで……





✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「…………のじゃ!! ……起きるのじゃ!!」


 「……あふぅ……んッ!? ……あれ、ここは何処……?」


 私はノジャに揺り動かされて、若干乱暴に起こされる。目を覚ました私が居たのは煉瓦で組まれた建物の内部で、きっと魔導の儀式をする場所なのだろう。足元に幾度も描かれた魔方陣みたいな痕が有り、素っ気ない調度品がチラホラ見える位の薄暗い一室に居た。


 ……それだけでも、自分が元居た世界とは異なる場所へと来た事は予測出来るのだが、先を進み振り返る事もないノジャの後を追うように扉を抜けて部屋から出ると、その先は下に降りる階段、そして明かり取りの窓が壁にあり、その窓から見える眼下に広がる景色は、正に【異世界】その物だった。


 ……見慣れた電信柱も電線も見当たらない町並みが続き、町の端から先は砂漠と荒野が垣間見え、それだけでもここが元居た日本じゃないってのは一目瞭然。しかも……町の中を歩き回る人々の風体を見れば、良く出来た仮装を身に付けたヒトが集まる、サブカルの一大イベント会場でも無いってのが嫌でも判る。




 肩で風切る若者達は何らかの武具を身に付けていて、荒野を越えて進む為の馬車が停車している馬場には沢山の人々が集まり、口々に何やら言い交わしながら次々と乗り込んでいく。


 ……と思っていたら、目の前を大きな顔が通過していくので窓から身を乗り出して見ると、大人の二倍の背丈は有りそうな巨人が当たり前のように歩き回っていて、その肩に四人程の小さなヒト(インプとか言う種族らしい)が乗りながらキャンキャンと言い交わして行き先を決めたようで、あっちだと言わん風に指先を向けて騒々しく叫び合っていた。


 「うむうむ! 我が町もスッカリ様変わりしてるのぅ!!」

 「我が町……って、個人的に所有してる訳じゃないでしょ?」


 ノジャの言葉に耳を傾けながら外の様子を眺めていると、彼女に手を引かれて外に出ることになった。




 ……。



 ……ところで、一つだけ公言しておきたいんだけど、私……なんでノジャに連れ回されてるんだろ? ……店をやるだけなら、何か得体の知れない有り余る能力を活かしてどーにでもなるんじゃないの?



 「ねぇ……ノジャ、料理ってしたことあるの?」


 私が尋ねると、振り向いたノジャは暫く固まってから、一言。


 「……妾は顕現してから今までの八百十三年間、リョーリは一度もしたこと無いのじゃ!!」


 えええぇ……!? ぺったんこな胸をこれでもかと反らしながら、力強く断言(おまけにどや顔)してるよ……。



 って、……ええええええええええええぇーーーーーーーっ!? 八百十三年!!! コイツってばヒマラヤ杉や何とか松レベルのご長寿様!?



 「……ハルカよ? 年齢のことを激しく見下すと、温厚な妾とて……自制の効かぬ事も……時として、稀にじゃが……あるのじゃぞ?」


 ……心を読まれた私は、あの【現世で蘇った記憶の断片】が、今の言葉にリンクしている事実を……地雷が破裂する前に察知出来た事に……深く感謝しながら、その場で土下座した。


 「……申し訳ありません。もう二度とババアとか思いませんし言いません……」

 「……お主、わざと言ってるじゃろ? ……まぁ、判れば宜しいのじゃ」


 謝罪が済んだ私は立ち上がってノジャの小さな手を握りしめ、ひとまず歩き出すことにした。


 「……わ、妾はお子様じゃないから手なんて繋がなくて全然平気なのじゃ!?」

 「はいはい判りましたよー、それじゃ開店準備にいきましょーねー」

 「ハルカ! 完璧に棒読みなのじゃ!! 激しく愚弄してるのじゃ!!」


 ノジャの声を無視しながら私は歩き出す。記憶は曖昧で穴だらけだけど、今はまぁ……仕方ないや。そう割り切ってノジャとの生活を始めよう。





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