駅から歩いて約10分
唐突ですが、この小説はスナックを題材にした作品で……まぁ、そんな感じです。
「くふ、くふふぅ♪柔いのぅ温いのぅ~!」
「何を言うておるか!お主もなかなかに柔こいぞぅ♪」
黒髪と金髪の二人がしどけなく互いに寄り添いながら、二の腕や頬を撫で合い指先を絡め合う……その姿は耽美的と言うか頽廃的と言おうか……
……だが、ハルカにとってはしょうもない酔っ払い同士がくっついて面倒厄介の種を温めているようにしか見えない。
(……併せて約二千才……二十一世紀よコンニチワだわっ!!どんだけご長寿なのよこの二人は!?)
ふにふにと摘まみ合ってはヘニャヘニャと笑い合うノジャとゼルダの二人を見ながら、ハルカはこの事態をどうやって収拾付けようか思案していたのだけど……
「……一汗かけば酔い、醒めるかしら?」
そこまで考えたハルカが出した結論は、まぁ……結構サウナ好きなオッサンに近い発想だった。
「……バッティングセンターかな?」
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「うむぅ!!高い所を走る乗り物は初めてだったのじゃ!」
「……面妖な物よのぅ……のう、ヴァリトラよ?」
「ハイ!グリフォン共よりも静かでそれでいて多人数を同時に運べてしかも揺れも少ないです!!」
「……不可解極まりないな、ホント……」
「記録アーカイブの中で情報開示されていた移動用車両……この体験は記録素子の上書き不可領域に保存したいと思います」
私達は現世の自宅を経由し、揃ってモノレール(タクシーは乗り切れなかったので)を利用して駅まで移動して反対側の南口方面に向かい、歩いて10分のバッティングセンターへとやって来たのですが……
「ハルカ!!何じゃこの店はっ!!ヒトガタが箱に詰め込まれて吊し上げられておるぞ!!何の儀式じゃ!?」(byノジャ)
「それ、クレーンゲームって言って……」
「ぬうぅ!!何なんじゃこの店はっ!!甘く誘う揚げ丸菓子の山……何の催事の準備があるのじゃ!?」(byゼルダ)
「ハイハイ、それはミセスドーナッツって言って……」
「ハルカさん!!瑞々しいドレスに下着にそれにこれに……わわわわ私目移りしてしまって気が動転しておりますどうしたら宜しいのつぁむぐぁ!?」(byヴァリトラ)
「うっわ!際どいぃ……って、それは水商売の方用のドレス屋さんで……」
「ぎ、ギルガメッシュ……この地下に通じる階段の奥に……桃源郷が有るって……感じるんだ!!」(byデフネ)
「ダメですダメですぅ!!そこはホストクラブ【ポイズンネスト】って書いてあるから何となくダメな気がするっ!!」
……ハルカは遅々として進まない四人を束ねて進むのに精一杯だった……。
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《オズロー・バッティングセンター》前……
「……何だろう、私……急に歳を取ったような気がする……いや、時間を盗まれたような気がする……」
「元気出してくださいハルカさん。私は特に眼を奪われても問題なく貴女の姿を常に遠隔ドローンを介して捕捉しておりました」
「それはどーもビスちゃん……君だけがまともって訳で……って、ドローン?どこに?」
「……それは秘密です」
「それは情報開示してくださいっ!!それと皆さん!!勝手に離れたり買い物したり食べたり飲んだりナンパしたりしないでくださいっ!!」
連れて来た面々の自分勝手な行動に振り回されてヘトヘトのハルカを尻目に、手にした買い物袋やら飲食物、果ては人形や何かの写真集(?)までをしっかと抱き締めている四人と一体、そして人間に化けた魔剣の一振りは、それぞれにほっこり御満悦であった……。
屋上へと続くエレベーターを介してやって来た面々が降り立ったそこには、数台の順番待ち用のビデオゲームが置かれた先にあるガラスで仕切られた向こう側で、数人の男性客がバットを手にして飛来するボールを打つ光景が広がっていた。
「さーて!ここまで何とか辿り着きましたが……皆さんは《バッティングセンター》を知らないと思いますから、見本を……ってモルフィスさん!!ビール飲まない!!あとノジャは貰わない!!」
(プシュッ!)「え~?ワタシまだ酔ってないけど~?」
(プシュッ!)「え~?妾も飲みたいんじゃがのぅ~?」
アルコール摂取を再開しようとするモルフィスとノジャからビールを取り上げながら、ハルカはその二缶をビスケットに渡し、
「ビスちゃん!これナイナイしておいて!」
「はい。…………ぷふっ、これで宜しいですか?」
ビスケットはそれをほぼ一瞬で飲み干しながら、アルミ缶を人差し指と親指二本でカシュッと小さく潰してゴミ箱に投げ入れた。
(……いいですか?……ノジャとゼルダさんとモルフィスさんは、この世界じゃお酒を飲めない見た目なんですからね!帰ったら飲ませてあげますから今は大人しく従って下さい!)
ハルカは三人に小声でそう念押ししてから、(……でも確か酔い醒ましでバッティングセンターに行く事になってたような気がするけれど……まぁ、いっか?)とそう結論つけながら、
「……さて、これから《正しいバッティングセンターの楽しみ方》の見本を見せますので、よく覚えてくださいね?」
……ポケットから出した小銭を手に持ち、投入口に二枚入れながら、ハルカはバッターボックスに立った。
時刻は午後九時。周りからは時折ヒットする甲高い打撃音が鳴り響く中、ハルカは久々のバットの感触を確かめつつ……ボールが投げ込まれるのを待った。
……ウィィイイイイィ…………ン、ガッシャンッ!!
野球選手の姿が映し出されたディスプレイの端の穴から飛び出したボールは、ハルカの視界の中をやや下降線を描きながら真っ直ぐ直進して迫ってくる。
「……ハイッ!!」
……カキンッ!!と軽い快音を立てながら白球はやや右上方へと曲がりながら、それでもネット中央へと吸い込まれて行った。
「こうやって当たれば、ボールは飛んでいってくれるわよ?まぁやったことの無い皆さんが上手くいくかは判らないけど……」
……と、ハルカは口にしたものの、合計数千才の訳の判らない妖怪幼女達である。ただ普通にやらせれば最終的に面白くならない事は重々承知である。
そこでハルカは【プレッシャー】を与えて揺さぶりを掛けることにした。
「……でも折角だから、三回振って当たらなかったヒトには罰ゲームを用意しました!!ビスちゃん、【アレ】を出して!」
「はい、こちらですか?(ゴソゴソ……)」
何故かスカートを捲り上げながら差し出したソレは、やや小振りな黒い保温水筒だった。
「……どこに仕舞ってたかは聞かないでおくわ……で、この中身はっ!!……【激苦渋!恐怖の○○茶】でっす!!」
「……ハルカ、そんなもの……妾達には効く訳なかろう?全くこれだから……」
「……で、これを飲み終わったら必ず周りの人に【一度も言ったことのない秘密】を必ず暴露してください!!」
「……な、ん……じゃ……と?」
……それを聞き終わった瞬間、ノジャとゼルダ、そして何故かデフネの三人は目付きを変え、各自が突然ウォーミングアップでもするかのように、身体を揺らしたり腕を回し始めた。
「あ、あの……ノジャとゼルダさんはいいとして、デフネさんは何も秘密なんて無いんじゃないですか?」
「と、とんでもない!!……いや、困る訳じゃないけど……」
そんな反応を返したデフネだったが、ゼルダの視線を感じたのかクルリと振り向いた直後、
「……ただ、私は秘密を暴露するとかしないとかは苦手なんだよ!」と言いながらガラスの向こう側へと消えていった。
決して【酔っ払ってバッティングセンターに狼藉三昧する】ことを促す小説ではありません。……で、次回は正しいバッティングセンターの利用法です(ウソ)。




