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邂逅(かいこう)

……コメディは何処に?しかし更新いたします。



 光が見えた瞬間、それは猛烈な速さで通り過ぎていき、ハルカの思考は瞬時に停止していた。



 ……だが、彼女は死んでもいないし、傍らのノジャも全く動じること無く影響は無いようだったが……


 《……普通に考えたら、光った瞬間を見ている時点で、完全アウトなのよね……うわっ、酷い……》


 モヤモヤとした陽炎(かげろう)のような自分の身体を眺めながら、ハルカは周囲の状況を一瞥してその惨状に鳥肌を立てた。



 強烈な核融合の熱は、至近距離の熱に弱い物質を容赦なく蒸発させた。爆心地から離れた建物の屋根はひしゃげて地に落ち、剥き出しになった鉄骨は飴細工のように歪み先端を露出させている。


 ……だが、最も激しく、そして無惨な姿を晒していたのは他でもない……人間だった。



 爆心地から離れていない場所に佇んでいた人々は、熱波と爆風を受けて消し飛んでいた。そうして犠牲になった彼等彼女等は、熱波を【自らの身体で遮った】事により、地面に影のような痕跡だけを残して蒸発したのだ。


 そうして一瞬で消滅した者はまだ……痛みを感じなかった分だけ……離れた場所で被爆した者よりはよかったのかと、そう思える地獄さながらの絵図がその先には広がっていた。



 《……ノジャ、私……全て見たくない……よ》


 【ハルカよ、お主が選んだ世界の顛末ぞ?……等しく()()()()()()()()()……】



 ……二人は渦巻く黒い液状の膜に包まれていた。その中でハルカは小さく萎縮した煙のような姿になっていたが、ノジャは変わらぬ幼女の形を取ったまま、腕組みしながら周囲の様子を眺めていたが、そこから眺める景色は、筆舌に尽くし難い惨状だった。


 無論、記録映像や生き残った人々が遺した絵画等で『知ったつもり』になっていた程度の者にとっては……心を破壊しかねない程であり……更に、


 《……おええぇ……いや、いやいやいやいやいや、もういやぁーっ!!……》


 ……ハルカの眼は閉ざされる事を許されず、吐き気に苛まれながらも……流れ込む情報の残酷さ、そして情念の迸りに意識を縛られてしまった。


 (……痛いぃ)(……苦しいっ!!)(熱いよう……)(助けてぇ!!)(おかあさん!!)(あなた……見えないぃ)(なんで……何もしてないのに……)(……私の眼を返して……)(……)(……)


 《……どうして!?……何であの人達の『気持ち』が私の頭に入ってくるのっ!?》


 【……今の妾達は、この身体に纏いついた《記憶の猟犬》により、辛うじてこの世界に意識のみ繋いでいる、そんな存在じゃ。今は希薄な存在ゆえに、死からは遠ざかり命永らえておるが、代わりに《記憶》に程近い情念の影響は強く受けるじゃろう……だが、だからこそハルカ、お主が探さねばならぬのじゃ……】


 《探すって何を!?……何で私が……私が……何をしたの?…………何を……そうだっ!!明子とみねの母親を探すんだった!!》



 弱々しくか細い煙のような姿で揺らめいていたハルカは、自らの使命を思い出した瞬間に、内側から溢れ出す活力に膨らんだかのように元の人の姿を取り戻していった。


 《ノジャ!!お母さんは……二人のお母さんはどこ!?》


 【記憶を辿れ!濁流のように見えても二人の姿を念じながら探していけばきっと……向こうから吸い寄せられ来るぞ!!】


 ノジャの言葉を受け、闇雲に意識を飛ばすことは止めて、心を落ち着けて二人の姿を思い出していく。短く丁寧に揃えられたおかっぱ頭の姉妹の……夢中になってオムライスを食べる姿を……風呂で真っ赤になりながら必死に身を捩ってハルカの悪戯を阻止しようと悶える明子の姿を……



 【……真面目にやる気はあるかぇ?】


 《……いや、何と言うか……記憶って正直だなぁって……》



 ……だが、そんなやり取りが効を奏した(?)のか、ハルカの思念に吸い寄せられて来たかのように、細く小さな呟きに近い情念が二人の傍に現れた。


 (……明子……みねちゃん……)


 【《……っ!?》】


 それは……一見すると真っ黒な藁人形にも見えたのだが……しかし、二人にとってその存在こそが……


 《明子ちゃんとみねちゃんを知ってるのね!?》


 (……あ、貴女達は……だれ?)


 【妾とこやつは、明子とみねに所縁の有る者じゃ。お主は二人の母御か?】


 ……それまで弱々しく、吹けば消え失せそうだったその存在は、ノジャの言葉を受けて揺らぐのが止まると同時に、突然感情を爆発させ始めた。


 (……あ、ああ……あああああああぁ~っ!!明子っ!!みねっ!!ごめんなさいごめんなさいっ!!母さん……母さん、あなたたちと……もう会えない……)


 《お母さんなの?……私達、二人と出会って……あなたが広島市に居るって聞いて……その、あの……》


 【……そちは、もう僅かもこの世には居られぬ。周りを見やれ……お主の姿は既にこの世界から消え失せてしもうておる……その魂魄(こんぱく)もいずれは……後を追うじゃろう】


 死の運命を説く事を躊躇ったハルカは言葉を濁したが、ノジャはハッキリと死の事実を冷徹に説明した。その言葉を聞いた母親は、ただ震えながら二人の子供の名前を繰り返していた。



 【……じゃがな、妾達はそんな事を伝える為に来たのでは無いぞ?……もし、お主が望むならば、二人の子に別れを告げられるよう、取り計らう事は出来るが……如何にするか?】


 (……別れを……う、ううぅ……そ、それでも構いませんっ!!私……せめて明子とみねに……別れを告げたくて……)


 《あの、旦那さんは……お父さんは……》


 ハルカが何かに気付いて母親に尋ねると、静かに答えが返ってきた。


 (……先週、南国の戦地から……遺骨が届きました……だから、だからこそ!!……二人にはキチンとお別れしないと……二人が可哀想で……死んでも死にきれません……)


 【……そうじゃったか……ならば母御よ、そちの髪の毛を少しばかり譲ってくれぬか?】


 (はい?……判りましたが……一体何に……?)



 母親は髪の毛があるらしき頭部を撫でると、一筋の髪の毛を外してハラリとノジャの掌へと落とした。


 【……よし、これにて()()()()()()。母御よ、暫しの別れじゃ!】


 (……何でしょう……何かに引っ掛かってるみたいな感じが……ッ!?)


 ハルカはノジャと母親のやり取りを黙って見ていたが、不意にノジャが口を開くと目の前に立っていた母親を吸い込み取り込んでしまった。


 《うぇっ!?ノジャ何やってんのよ!!食べちゃダメでしょ!?》


 【そんなへまをする訳無かろうて……妾の体内に暫く留まってもらう為じゃ。さて……妾達も戻るとするかのぅ……しかし……】



 ……ハルカと【記憶の猟犬】と共に、自分達の世界へと向かいながら、ノジャは遠退く背後の景色を一瞥し、


 【……あないに容易く人を葬る所業が為される世界か……魔界よりも物騒ではないか?……ハルカの奴め、何が平和で退屈な世界か……嘘つきめ……♪】



 ……眼を光らせて舌なめずりしつつ、飢えた獣そのものの眼差しを一瞬だけ向けた。



次回こそシリアス回の最終話になる予定です(苦笑)

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