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スナックって何?



 ①スナックとは、時間制若しくはチャージ料金等で酒や料理を提供する飲食店である。


 ②風営法の許可を得ると女性が隣に座ってサービス(御酌程度)出来るが、夜一時までの制限が発生する。申請しなければサービス無しだが営業時間に制限はない。


 ③カウンターのみの店舗はスナックバー、テーブルが有る場合はバーにはならないがこの定義は曖昧である。



 ……スナック検索結果から抜粋。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……からららららぁん、とドアに吊るしたカウベルが鳴り響き、店内に来客を知らせる。


 「……あら、いらっしゃいませ。初めまして、私はここのママ……茉莉(まり)です」


 粋な和装の着物で出迎え気さくに話し掛けるママの年の頃は……うむぅ、それなりに人生経験はありそうに見えるおばあちゃん。


 私は姿を変えたノジャと共に、スナック「ミラージュ」へとやって来た。ノジャの姿は着ている服こそ魔女の格好そのままだが、背丈はほぼ私と変わらない位に大きくなっている為、かなり際どい丈の黒いワンピース状態。


 「初めましてなの……です!! 妾……私はノジャと言う……んです!!」

 「えっと……二人ですが、いいですか?」


 私はカウンターが六席、テーブル二卓の小さな店内の奥へと進みながら、ノジャの為に椅子を引いて座らせるとその隣に座り、ママさんに向かって訊ねてみる。


 「えぇ、ご遠慮無く! うちは飲み物代で二千円、後は千五百円で様子を見ながらお出ししますが宜しいかしら?」


 意外に程良い料金と店内の様子(メジャーなビール会社と飲料メーカーのポスターがさりげなく貼られている位)で、怪しい店では無いことを悟りホッとしながらおしぼりを受け取った。


 「うわおっ!? あちちちっ!! ハ、ハルカぁ……これ熱いのじゃ!!」


 出されたおしぼりを手にした瞬間、慌てて左右に行き来させながら私に助けを求めるノジャに苦笑いしつつ、少し冷めた自分のおしぼりと交換してやりながらママさんの反応を見ると、


 「あら? 熱いのは苦手だったかしら? それじゃこちらにしましょうか……」


 差し出された新しいおしぼりはキンと冷えた物で、それを恐る恐る手にしたノジャは「うむ! 冷たいのじゃ!!」とご満悦だった……冷たいのが好きとか知らんよ……。


 「じゃ、瓶ビール二本……で、いいわよね?」


 「はい、ちょっと待ってください……それじゃ、カンパーイ♪」


 注がれたグラス(もちろんママさんの手にもグラスが有る)を掲げながら、黄金色の液体、そして程好い比率の泡が満たされたそれに口を付けると……


 ……口の中を爽快な刺激が通過すると共に、苦味甘味を兼ね備えたビールが舌の上で飛び跳ねながら暫し踊り、そして喉を通過しながら頭の芯へ抜けるような後味を残して消えていく……! いやぁ~絶対に悪くないよ! これこれ!!


 「………………、……、……ふあぁ!……これは堪らんッ!!」


 やたらと感嘆しながらグラスを干して満足げに喜ぶノジャの姿に、ママさんと私は思わず笑ってしまった。


 「……なんじゃ?わら……いや、私の姿がそんなに可笑しいか?」


 「……いや、ヒゲみたいだよ?……鼻の下の泡!泡!」


 ……ふにゃ?と言いながらカウンター後ろの鏡を眺めるノジャは、自分の鼻の下に白い泡を付けたまま、ひゃひゃひゃひゃ♪と陽気に笑いつつグラスを突き出して、


 「ママさん!美味しいのじゃ!お代わりくださいなのじゃ!!」


 「まぁ!?ノジャさんは口癖が渾名(あだな)になっちゃってるのね♪面白い方!」


 やはり最初の見立ては外れていなかったようで、妙な口調のノジャ相手に臆する事無く平然と瓶ビールを注ぎながら嬉しそうに微笑むママさん。その様子にこちらまで楽しくなってくるのは、やはり彼女の醸し出す柔かな印象が効いているから?


 私はさりげなく差し出されたホウレン草とベーコンの炒め物を、箸で取り口に運ぼうとすると、横で口を開いてこちらを見つめるノジャと目が合った……ま、まさか……!?


 「……何しとるんじゃ?ハルカ、さっさと寄越さぬか!」


 「……あー、はいはい判りましたよ……ほら、よっと……」


 差し出した箸の先を遠慮せず口で受け止めると、モグモグと噛み締めてから無言でビールを煽り、やはり眼を瞑って……あ、やるな?


 「……くうううぅ~ッ!! 旨いのじゃ! ママさん、美味しいのじゃ!!」


 「ウフフフ♪ノジャさんったらお世辞がお上手ね? ……それじゃ、お姉さんにも食べさせてやったら?」


 「……お姉さん……っ!?」

 「……なんじゃと!?」


 私達は同時に叫び、お互いに顔を見合わせて困惑してしまった……まぁ、そう見えても仕方ないけど……いや何でノジャがモジモジしてる?


 「は、ハルカは優しい奴じゃが……妾の姉とかじゃないんじゃ!!」


 「あら? そうだったの? ……それじゃ、お仕事か何かのお付き合いですか?」


 ……ママさん、コイツたぶん私やママさんよりもずーっと歳上なんだよね……あと基本的に幼女のニートだよ?


 私はそう内心で思いながらビールを飲み干すと、ノジャがフォークに突き刺したホウレン草ベーコンを私に向かって突き出して来た。


 「ハルカ、お返しじゃ!  ……ほりゃ、アーンするんじゃ!」


 「ハイハイ……アーン♪ ……って、鼻に突っ込む奴が此処に居るッ!? 止めなさいっての!!」


 お約束のおふざけをやりながらノジャと戯れつつ、店内を見回すと控え目な音量のテレビが小さめの画面を光らせつつカウンター脇にひっそりと在り、珍しくカラオケの無い室内に穏やかな家庭的な雰囲気作りに一役買っている。


 カウンターから見えるママさんの背後には沢山のボトルキープと種類豊富な酒瓶が連なり、干支を題材にしたウィスキー瓶や未開封の洋酒が所狭しと置かれている。その傍らに大きな冷蔵庫が置かれていて、そこから料理を小出しにしてはレンジや鍋で温めて薬味を足して提供してくれる。


 一品毎の量はやや少な目であったが、種類を多く出して楽しませる趣向のようで、小さなハンバーグやタコの酢の物、ハチノス(牛の胃の一部)のトマト煮や筑前煮と和洋様々な料理にノジャはいちいち感動してはママさんを喜ばせていた。


 「それにしても……凄く綺麗で華やかなのに、ノジャさんって小さいお子さんみたいに天真爛漫よね? 珍しいわ~♪」


 料理を楽しみながらビールからウーロンハイに変えて飲み進めているノジャを見詰めながら、ママさんが興味深そうにそう評価するのを聞いて、(いや、コイツたぶん貴女より歳上だと思いますよ?)と内心で思いつつ見れば、すっかりご満悦のノジャは上機嫌でニコニコしている。……うん、擬態時もそれなりに可愛いけれど顔は真っ赤。アンタ飲み過ぎじゃないの?


 (……ねぇ、ノジャったら!! そろそろ帰るわよ?)

 (ふにゃ?……いやじゃ!! 楽しいから帰りとうない!!)


 予想通りの返事をしやがるノジャの耳元で私は、彼女から聞いた擬態のタイムリミットを伝えてやることにした。


 (……あなたねぇ、まさかママさんの前でアルコール漬けのちんちくりんに戻りたいの?そうなったら確実に出入り禁止になるわよ!)

 (そ、それもいやじゃ!! ……仕方ないのぅ……)


 渋々ながら撤退することに同意したノジャを椅子から降ろしてから、私はカウンター越しにママさんに会計することを伝えると、


 「あら? もうお帰りなの?」


 「えぇ……残念ながら……でも、今夜は美味しい料理ばかりでとても楽しかったです!」


 「そうなのじゃ!! また来てもよいか?」


 ノジャの煌めくような笑顔に微笑みながらママさんは、


 「勿論! いつでも大歓迎ですよ! 近いうちにまたいらしてね?」


 追加の料金を払おうとしても頑として受け取らないママさんに、私は何度も頭を下げてまた来店することを誓いながら二人で店を出た。



 「いやぁ~! 実に愉快じゃった!! ハルカ、今回はそちの大金星じゃな!!」


 嬉しそうに裾を翻しながらクルッと私の方に向き直り、後ろ手を組ながら弾けるような笑顔のノジャに、何故か奇妙な違和感を感じていた。


 美しく長い髪(ちんちくりんの時は膝まである長さだが今は腰上程度)は綺麗な黒髪で、それでいて目鼻立ちは高過ぎたり大き過ぎたりはせず程好いバランス……つまり、ノジャはどちらにしても【美人】なのだ。


 ……だが、私の中に渦巻く原初的な部分が常に警鐘を鳴らし続けているの……【気を付けろ!! 見た目に騙されるな!!】って……。


 「それにしても、あのスナックとやら、実に素晴らしい店じゃったな!!」


 「喜んでもらえて私も嬉しいよ。……でも、スナックってのは、店主……つまり、ママさんとかの人柄とかも重要だからねぇ」


 「……つまり、店に出す料理とママさん役が大切なのじゃな!! うむ、実に奥深いものじゃな?」


 ……コイツ、人の話をろくに聞いてないな……そう思った次の瞬間、ノジャの口をついて出てきたのは予測通りの言葉だったのだが……



 「……のう、ハルカ……スナックとやら、妾もやってみたいのじゃが……」


 ……何故なんだろ? 私の背中は滝のような冷や汗が流れ、深夜の路上でノジャと向かい合っているにも関わらず、服を着たまま水中に放り込まれたような緊張感と危機感が心に充満していた。



 「……ハルカ、お主は協力してくれようぞ?」


 そう言われて、今更ながら私は思い出したのだ! ……目の前に居るノジャは、見た目に惑わされると大変に危険な猛獣だと言うことを……。


 でも、そう思う反面、本当に危険ならば、何故……過去の自分はノジャと関わったのか。本当に危険ならば、逃げ出して一切の関係を絶てば良かったのに、何故そうしなかったのか……



 「おい、ハルカ! 人の話を聞いておるのか?」


 「……あ、聞いてたわよ? ……まぁ、コッチに居ても……あんまり楽しくもないし……いいよ? 手伝ってやっても……っふあぁ!?」


 ノジャは擬態した格好のまま、喜びを顔いっぱいに浮かべながら私に向かって抱き付いて、頬に自分の頬っぺたを目一杯擦り付けてきた!! うわっ!! うわぁっ!? 何なの何なのよ! ……べ、別に可愛くなんて思ってないんだからッ!!


 「そうじゃろうそうじゃろ~♪ 妾はこの素晴らしいスナックとやらをどんどん世間に広めたくて仕方ないんじゃ!!」


 ……そう言うノジャの思惑とは若干違う形で、私はやがて自分に訪れるであろう厄介事が恐ろしくて仕方がなかった……。


 くそぅ、ノジャめ……それにしても、何も付けてないのに良い匂いしやがるわ……少しだけ、酒臭いけど……。



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