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食べて太れ!!

じわじわと閲覧者が増加しております、唯一無二の異世界スナック小説!さ、どーぞ!



 「お……お金ですか!?……ご、ごめんなさぃ……持ってません……」


 申し訳無くて、消えてしまいたい気持ちの明子と、そんな姉の事が判ってしまった(さとし)いみねは、二人して涙をポロポロと流し始めていたのだが……



 「ハルカ!何故に妾がこの二人から……」「ちょっとだけ待って!……それと後で、お願いを聞いてほしいの……」


 珍しく真剣な顔でいきり立つノジャを制しつつ、ハルカはノジャの手を両手で握り締めながら、彼女の目を見て懇願した。


 「な、なんじゃ珍しいの……ぅう、ま、まぁ……他でもないハルカの願いならば……聞いてやらんことも……ないがの……ふぉっ!?」「ありがと!ノジャ大好き♪」


 恥ずかしそうに顔を逸らして誤魔化すノジャに抱き着き感謝の意を表したハルカは、うんうんと頷きながら二人の前にやって来て、


 「……お金が無いのは悪いことじゃないよ?キチンと教えてくれたんだし……だから、私たちは貴女達からお金は取らない。その代わり……たまにこの店を手伝って貰えるかな?」


 「えええぇっ!?そ、そんなことで……良いんですか!?」


 狼狽える明子と向き合いながら、ハルカはしっかりと眼を見て話した。これから話すことは、この二人の人生に明らかな干渉をしてしまうのだから……。


 「……いいよ?……明子ちゃんと、みねちゃん。二人がすっごく大変な思いして、ここに来たんだって事は、おねいさんはよーっく!判ってるよ?」


 ……そこまで神妙な顔で聞いていた明子とみねは、息を飲んでハルカの次の言葉を待った。


 「……とにかく、毎日じゃないけど……たまにここに来て、お仕事を手伝って貰えたらそれでいいからね?」


 「はい!判りました!」「みね、おてつだいする!!」


 二人は互いを見合ってから、大きな声で即座に答えたのだった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……ハルカよ、お主は何を考えておるのじゃ?」


 ノジャがハルカの袖を引きながら小声で訊ねると、ハルカは彼女の言葉に暫し沈黙してから、一瞬だけチラッと明子とみねの方を見て、


 「……あの二人、深刻な栄養失調よ……うんと、判り易く言うと……食べ物の質が悪いから……命を落とす可能性があるってこと……」


 「何じゃそりゃ?……質のぅ……確かに二人とも線が細いがそれほどに悪いようには見えないがの……」


 ノジャは、店の仕事は何をするのかな?と言い合う姉妹の姿を見ながら顎に手を当てて考え込んでいたが、


 「私も専門家じゃないからハッキリとは言えないけど……みねちゃん、四歳って、言ってたよね……でも、どう見ても細過ぎるし、詳しく聞いてみないと……」


 「ならばハルカは……あの二人を親から取り上げて成人するまで育てるつもりか?」

 「……ッ!?……そ、それは……」


 ふううぅ……、と溜め息を吐きながらノジャは腕組みしつつ、冷徹に言い放つ。その言葉はハルカの心臓にゆっくりと、そしてキリリと鋭く差し込まれた。


 「……妾とて、幼子を情け無用で放り出すつもりは毛頭無いぞ?じゃがな……最期まで面倒を見切る事無く庇護しようとするなぞ、犬猫を拾うのと同等の行為とは思わぬか?」


 「そ、そんなこと……ないわよ……私はッ!!……私は……」


 ……ふん、と鼻から息を吐いてから、ノジャはゆっくりと明子とみねの方に向き、言っておくがの、と前置きをしてから、


 「まぁ、ハルカはああ言っておるが、妾はいきなり難しい仕事をやらせるつもりはないぞ?……まぁ、今日は飯でも食ろうて、ゆっくりしていけば良かろう?」


 と、辛辣な事を言っていたとは思えない優しさを見せ、踵を返して席に戻り、飲みかけのジョッキを飲み干した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 (……ノジャさん、って言ってたなぁ……何だか怖いヒトだって思ってたけど、そうじゃないみたい……)


 明子は心の中でそう呟きながら、改めて室内を眺めた。天井には電球みたいに明るく輝く細長い管が取り付けられていて、煌々と光りながら室内を明るく照らしている。


 (それに……扇風機もないのに、ちっとも暑くないよ……ここ、地下にあるのかな?)


 そんなことを考えていたが、厨房からハルカが運んできた料理に眼がいった瞬間、頭の中が真っ白になって何も考えられなくなったのだ。


 「あっ!おねぇちゃん、おむらいすだよ!!みね、だいすきだなぁ~♪」


 テーブルの上に置かれた皿の上には、シメジとタマネギそして牛肉が煮込まれたビーフストロガノフを載せた大きなオムライスがででん!と鎮座したのだ。


 「さぁ!明子ちゃんもみねちゃんも遠慮しないでっ!」

 「はっ?……え、ええぇ…………う、ううぅ……ひっぐ!」

 「えええぇっ!?明子ちゃん……な、何で泣いちゃうの!?卵やお肉嫌いだった!?」


 ハルカはみねの反応を聞いて、明子もさぞかし喜ぶだろうと期待をして彼女の様子を伺うと、明子はあろうことか嗚咽を漏らしたので慌ててしまった。


 「あわわわわっ!……ど、どうしようノジャ……!」

 「コラッ!お主が慌ててどうするのじゃ!全く……図体はデカくても中身は同じような子供じゃな?……ふん」


 そんなハルカを(いさ)めつつ、ノジャはオムライスを手にしたフォークとスプーンを器用に使い分け、二人の前の皿へと取り分けてやりながら、


 「……のう、明子よ、お主は雛と親鳥を見たことがあるか?」

 「……ひぐっ、……あ、あります……」


 「うむ、あやつらはピーピー啼いてエサをねだり、親鳥はひっきりなしに巣へと戻ってはエサを与えるじゃろ?何でだと思うか?」


 「……えっと、親鳥は、ひなを育てたい……から?」


 「そうじゃ!親は鳥だろうと人間じゃろうと、子が育つことが一番の幸せなのじゃ!……明子、お主は母親や父親を捨て置いて、自分達だけ旨い物を喰うことに戸惑ったのじゃろ?」


 暫しの沈黙の後、明子はコクンと頷き、


 「お母さんは、自分のぶんまで私とみねに……くれた……だから、私とみねはみんな一緒に居ると……お母さんが死んじゃうから……おじさんのおうちに……そかいした……んだもん……うううぅ……!」


 涙を必死に拭いながら明子は告白し、そんな姉とオムライスを交互に見て黙り込むみね。


 「……そうじゃったか……口減らしも兼ねておったか。ならば、尚のこと食って太れ!丸々と肥えて母御を唖然とさせて、それから皆で腹を抱えて笑えばよかろう!!」


 しかし、ノジャは臆することなくオムライスをスプーンで掬うと、明子の口元へと突き付けて、


 「ほりゃ!アーンしやれ!雛鳥が必死に食らい付くように頬張るのじゃ!そーしてツヤツヤのマルマルになって、母御が困り果てる位になるのが本当の親孝行じゃっ!!」


 ニタニタ笑いながら眼を細めてそう言うと、ほれほれ~♪と誘うようにスプーンを揺り動かす。


 そうすることにより、目の前から漂う濃厚なトマトの香りと、重厚なドミグラスソースの芳醇な肉のエキスに富んだ薫りが鼻腔を突き抜けて、明子の華奢な首に載った頭はぐらぐらと揺らされているように眩暈(めまい)すら感じたのだが……


 「お、おかあさぁ~んごめんなさいっ!!はむぅっ!!………………むぐっ!?」


 「だ、大丈夫?明子ちゃん?……!?」


 「ふわああぁ~んっ!!美味しいよぅ!!こんなの食べたことないよぅ!!」

 「おねぇちゃん!!みね、あたまぐらぐらしちゃうくらいおいしいっ!」


 我慢の限界を突破し、ノジャが差し出すスプーンに食らい付いた明子は叫んでしまう程……頭の中だけでなく、全身の細胞が沸々と波打つような錯覚すら感じる程……そのオムライスは旨かったのだ。


 添えられていたスプーンを自ら手に持ち、贅沢三昧とすら言えるその破壊的な組み合わせ……周りはしっとりとして中は完璧な半熟卵状のオムレツ、噛み締める程に旨味を染み出させる牛肉入りのドミグラスソース、そして鶏肉や野菜等の具と蕩けるチーズのバランスが秀逸なチキンライス……。


 それらを時には別々に、また時には全てを一緒に頬張る度に……明子は涙が溢れそうになる程の多幸感が押し寄せて堪らなくなった。


 そうしながら明子とみねの二人は競い合うようにスプーンを動かし、別々でも主役として提供されてもおかしくない抜群な三種が同時に押し寄せるその組み合わせを、あっという間に平らげてしまったのだ。



 ……だが、食べ終わった瞬間、二人は同時に気付いていた。その量は……決して満腹には程遠い、控え目な量だと言うことに……



 「さぁ!次はハンバーグだよ!ほらほら遠慮しちゃダメだよ!!」



 ……全ては計算された流れの中で、それはやって来たのだ。


 「……ハンバーグぅ!?わ、私……食べたの何年前だろ……っ!?」

 「うわあああぁ~♪しゅごいなぁ~!!まんまるだよぉ~!!」



   は  ん  ば  ー  ぐ  !!!!!



 ……ハルカ特製、合挽き肉のおろしポン酢ハンバーグ。


 その物質に相対した瞬間、明子とみねの意識は瞬時に昇華し、舌上の味蕾は歓喜に踊り全身の神経は沸騰したのだった……。





 「……ご飯あるよ?」


 「はむっ!!あむあむあむ……んむっ!……いただきます!」

 「おねぇちゃん!みねにもちょーだい!!」


 

 ……そんな姉妹の食べっぷりに、ハルカとノジャは満足げに頷き合い、ティティアは(……私の分もあるのかな?)と本気で心配した。




……なんでだろー、毎回書き出すと五割増しの字数になっちまう。それはそれで次回もお楽しみに!

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