朝ごはん②
味気無いタイトルですが……宜しくお願いします。
「何じゃ?今朝は随分と機嫌良さそうじゃのう! ……何か良い事でも有ったのか?」
「おはよ! ノジャちゃん今朝も可愛いねぇ~♪ うりうりぃ~!!」
「やーめーるーのーじゃ~!! ハルカ、朝から酔っておるのか!?」
私はいつも以上に高いテンションで、ノジャを掴まえると嫌がる猫みたいな彼女を抱き上げて頬擦りしちゃった……だって何だか嬉しくてさ!
「ううん! 酔ってなんかいないよ? ただ、ノジャが居なかったら退屈だしさ~! それに……うん、まぁアリガト♪」
でも、昔のことを思い出したのは伏せておこーっと。だってもし、自分が望んで忘れようとしていたのなら、たぶん手助けしてくれただろうノジャの好意を無駄にした訳だし……ねぇ?
「それはそうと、今朝はホットケーキ焼くよ! ベーキングパウダー無しの本物!! 香りだって全然違うんだから!!」
「おぉーッ!? それは何だか美味しそうじゃな!! 一刻も早く顔を洗わねばなッ!!」
バタバタと駆けながら洗面所に向かうノジャを見送りながら、私は住居の台所へと戻った。
(……ハルカめ、ポケットから【夢見の護符】がはみ出しとるぞ? まぁ、アレは全てを思い出す代物ではないし、問題はなかろうがな……)
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……シャカシャカシャカシャカ……
砂糖を加えた卵白をひたすら泡立てて、メレンゲを作りバニラビーンズを少し入れた小麦粉と合わせて少しづつ少しづつ、生地に仕立てていく。
「ハルカ~! お腹が空いたのじゃ! もう我慢ならぬからそのまま食べさせるのじゃ!!」
「アホっ!! お腹壊しちゃうよ!もう少し……(シャカシャカシャカ)待ってて……(シャカシャカシャカ)ねっ!!」
やっと出来たホットケーキ生地に砂糖を入れて、暖めたフライパンに油をしっかり塗ってから……
「……おぉ! ぷつふつ泡立って膨らみ始めとる!! このままドンドン焼こうではないか!!」
「もっちろん!! ノジャはバターと粉砂糖とハチミツはどれを掛ける?」
「全部じゃ! 全部かければきっとカオスな感じになって美しいのじゃ!!」
「……ただ、甘くしたいだけなんでしょ?」
「そうじゃ!! 甘々は万物全ての正義なのじゃ!!」
……確かに!! 聞いた話じゃ《うまい》って《あまい》が転じて言われるようになったらしいし!! (諸説あります)
私もノジャもお酒飲むけど、甘いのが好きなんて女の子なら誰だって当てはまるわよね~♪
「……のぅ、ハルカ聞いておるか? もうひっくり返した方がよいのではないか?」
「ふぅおっ!? ……ほいっ! ……おお、セーフ!!」
無事にきつね色(何て素敵な表現!!)に焼き上がったホットケーキを裏返し、それなら待つこと数分……
皿にポン、と載せた瞬間、ノジャが目を細めながらパチパチと手を叩いて祝福してくれた。
「おぉおぉ!! 旨そうじゃ! 旨そうなのじゃ!!」
お腹を空かせたノジャが可哀想だったので、好きな物かけていいよ? と促すと二つ纏めにした髪の毛をユラユラさせながら、嬉しそうにバターにハチミツ、そして粉砂糖を振り掛けてから、
「済まぬ、先に頂くのじゃ!! ハム……ッ!?」
「逃げやしないからゆっくり食べなさいって……ノジャ?」
……暫く咀嚼もせずに固まっていたノジャに、私は焼く手を止めて尋ねたのだけど、
「ハルカっ!! 焼く手を止めるでないぞ!! 旨いのじゃ! ハムッ!! ……ひにゃへわへ……あまあまなのじゃ!!」
「もー、キチンとモグモグごっくんしてから喋りなさい! ……そう? 美味しかった? じゃ~、もっとジャンジャン焼かないとね!!」
「……ふにゃほわで、実にあまあまなのじゃ!!」
ナイフとフォークを両手で掴みながら足をバタバタさせ、眼を瞑り嬉しそうな顔でモグモグするノジャの顔に後押しされて、私は次々と焼いては積み重ねていき、
「ほわあああああぁ~!!凄いのじゃ!ホットケーキタワーなのじゃ!!」
……うん、六枚重ねは食べにくそう……でもノジャはニコニコしながらその上にバターを載せ、ハチミツと粉砂糖を振り掛けてから、フシュッ、とナイフを入れて切り取って、幸せそうに口へと運んでいって、
「ほへぁ……柔らかいのじゃ……ふにふにで……あむっ!!んむんむ……むふ♪」
あむあむと食べながら、甘い旨いとべた誉めで次々とお腹の中へ……よし、負けてらんないよ!!
「私も食べよ!! ……うわっ! これ、やっこいわぁ~♪ ……んむ、んんん……ほわぁ♪ ……バニラビーンズ、い~い香りぃ!!」
噛み締めた瞬間、ハチミツととろけたバターが絡まって、ほんのり塩味で甘い香りとバニラの風味!! それにメレンゲ入りの生地がふんわり膨らんでて、それでいて口の中で甘い蜜をじゅわっ、と沁み出しながらほわほわと柔らかくて……これ、マジでヤバい!!
「……ここ、私の分だよ!」
「何を言うか! 妾が眼をつけておったハチミツ染み染みポイントなのじゃ!!」
ぎゃーすか言いながら、二人で取り合うように次々と平らげていき、気が付けば一番下の最後の一枚へあっという間に辿り着いてました……。
「……のぅ。ハルカよ……ここは淑女の嗜み、《半分こ》といこうではないか?」
「えぇ……きっちり半分づつね……それじゃ、この辺りを……」
「違うのじゃ!! 半分はこの辺りなのじゃ!!」
……で、切り分けた獲物を二人でフォークで突き刺して、同時にパクッ! と頂きました。
「「あまあま……最高!!」なのじゃ!!」
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お腹一杯になって、私とノジャは満ち足りた気分で最高の朝食(チョロイなぁ……)を終え、暫くして二人で市場に買い出しへと出掛けました。
「ハルカよ、今日は何を買うつもりなのじゃ?」
「うん、最近は肉ばっかのメニューだから今日は魚を買う予定かな?」
ノジャに貼り付けてもらった耳の後ろと喉の呪符を触りながら、私は市場の大通りを真っ直ぐ魚屋へと向かって歩いていた。
この呪符を貼っておけば、標準的な《公用語》を普通に会話出来るらしいし、もし何かあった時は私の現在位置が直ぐに判るらしい。
おかげで言葉が判らない事は無くて有り難いけど……
「……カボチャか? ……なら向こうで売っておるぞ?」
言われて見てみると……一抱えは有りそうな巨大なカボチャが……。
「うん、あれは大き過ぎて必要ないわね……」
こんな感じで結構曖昧……説明しなきゃ上手く伝わらないのは、何処でも同じかなぁ……。
……そんな感じで買い物を済ませて、平凡に一日が過ぎていきました。勿論、その日の夜もスナックには……お客さん……来ませんでしたけど。
次回は皆さんお待ちかね!《お客様》のご来店予定……辿り着けるかな?




