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朝ごはん

日常的な風景ですが、そこに何かが……



 柔らかなかかとが私の腹にボスンと落ちて……うっ!? となるけれど、きっとマトモに買ったら驚くような上物の上掛けのお陰で痛くもない……


 ……ここ最近の私の朝はずーっとこんな感じ。



 広々としたベッドで目覚めるけど、紺のスウェット姿のノジャが隣でガーピーいいながら寝ていて、酒の匂いを撒き散らしている。


 しかし艶やかな黒髪からは言い知れない薫りが漂うし、そして見た目は男性どころか女性からも注目されるだけの器量で……誰が言ったか妖怪扱いも納得しちゃう。

でも私はノジャに良いように使われている気しかないし、当のノジャも「ハルカには身の回りの世話も含めてお願いしておるのじゃ!」と丸投げだし。


 ……でも、寝返りしながら私に抱きついてきて、胸元に顔を埋めながら暫くじっとしていたかと思うと満足げに薄ら笑いしてスヤスヤ寝ている姿は……まぁ、悪くはない訳で……


 コイツが男だったらきっと私は都合のいい女なんだろうなぁ、とも思う。


 コイツが女だったから……私は付き合ってるんだろうなぁ……とも思う。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「ふあああぁ……おはようなのじゃ、ハルカよ……」


 「おはよ。顔を洗ってきたら朝ご飯だからね。……今朝はパンでいい?」


 「うむ……悪くない……良くもない……ナットーは嫌い……じゃ」


 眠たげな顔で食堂に姿を現したノジャに顔を洗ってくるように言うと、ぶつくさ言いながらも素直に従い、戻って来るなりマイペースな毎朝恒例の【注文】が始まる。


 「判っておるじゃろうが、まーがりんは多めじゃぞ? 焼き加減は控え目じゃぞ? 目玉焼きは半熟じゃぞ? それに……」

 「はいはい、ベーコンはしっかり焼いて、レタスはシーザードレッシングでニンジン抜きでしょ?」

 「おぉ! それでよい!」


 二人の朝食で必ず繰り返されるノジャの【注文】。一見すると口(やかま)しい姑みたいだけど、マーガリン多めは好みの範疇だし、トーストは固過ぎると口の中をヤスリがけしたみたいに皮が剥けるし、目玉焼きは……結局、私と好みが似ているから苦では無いんだよね……うわぁ、完全に夫婦間の取り決めみたい……何なんだろ私って……



 向かい合ってトーストを渡しながら、熱いコーンポタージュに舌を焼くノジャへと木のスプーンを差し出して、ウマウマ言いながら啜る彼女を眺めつつ、自分のカップに口を付ける。


 仕上げに牛乳を入れたポタージュはまろやかで、ふんわりとコーンの甘味が身体に沁みていく……やっぱり裏漉ししたトウモロコシの方が断然美味しいなぁ。


 二枚目のトーストに手を伸ばしたノジャが、パンくずを落としながらしゃくしゃくと食べながら思い出したように、


 「のぅ、ハルカよ。今日は買い出しに行くのではないか?」


 「……買い出し? ……うーん、そりゃ行けるなら行きたいけど……売り上げなんて全然だし、それに……」

 「何を言うかと思うたら……金の心配か? つまらん事に気を病む奴じゃな」


 つ、つまらん事はないでしょ!? ……でも確かにこの建物(外観は石積みの塔だけど内装は普通の家屋)も、王都と呼ばれる場所に出した仮店舗(出入り口は例の魔法の扉だ)も、ノジャが適当に声を掛けて準備したらしいし、コイツの資金力はたぶん……底無しの可能性もあるし。


 考えれば当たり前よね? 自称812才がホントなら、貯蓄なんてしてたら半端じゃない金額なんだろうし、コネや何やらも余る程有るみたいだし。そもそも一国の王様相手に王様ゲームさせちゃう位なんだから……ま、あれは相手が相手だったからかもしれないけど。



 「よし、今日は此方の世界と彼方の世界で買い出しじゃ! 異論はないな?」


 「だーかーらー! 向こうの世界のお金は……な、何よその不敵な笑みは……?」


 ぐしし……♪ とでも言いたげな顔でトーストを口へと押し込みながら、モグモグと咀嚼し終えたノジャは、ごくんとコーンポタージュと共に飲み込むと、私に向かって親指を立てながら、


 「のーぷろぶれむ、じゃ! ……妾の資金力を侮るでないぞ?」


 幼女の皮を被った妖怪は、それだけ言い終えると、御馳走様なのじゃ! と言いながら流しへと皿を手に持ち運んでいった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 今日は調味料や消耗雑貨(業務用)を買う予定だったので、ノジャにお願いして例の通過儀礼を済ませてもらい現世に舞い戻り、そのままノジャを連れて専門系の業販店へとやって来た。


 だいたいこーゆー店舗のレイアウトは頭に入ってるから、迷うことなく必要な商品をカゴ台車に載せてレジへと向かい、財布からなけなしのお金を出そうとした瞬間……スッと脇から突き出された【黒いカード】。


 「……こ、これ……ノジャの!?」


 「これか? 知り合いから借りとるだけじゃ。《使いたいだけ使って構わないから》と言われとるが、問題なかろう?」


 サラリとセレブなお言葉……いやいやいやいや! 幾らなんでも【ブラックカード】は有り得ないでしょ!? ……限度額無制限でしょ確かコレって!


 「あんた、まさか……変な肉体関係のオッサン後援者がゾロゾロ居るんじゃないでしょうね!?」


 私の真剣な心配(している理由は闇過ぎるが)を呆れ顔で受け流しながら、


 「お主の思惑は的外れもいい所じゃろうが……コレの所有者は()()()()()()()()()()()()じゃぞ? 古くからの知り合いで、現世にやって来てから蓄財を重ねて、今はこちらに会社とやらを幾つか持っておるそうじゃ」


 あっけらかんと言い放つ内容に、言葉を失う。そんな私に毎度お馴染みの【出来の悪い生徒に教える先生風】の上から目線(立ち位置は下からだけど)のノジャが言う。


 「……お主ら現世の住人は、【自らの中に有る現実】を強く持てない連中が多過ぎるのじゃ。……例えば、ハルカよ、お主の(わらべ)の頃は、自らの行いに疑念を持った事はあるか?」


 「……はぁ? ……そりゃ、小さい頃なんて、世間に対する影響力なんて全く無かったから、いちいちこーしたらあーなる、みたいな事は考えてなかったわよ?」


 「じゃろう? それが【自らの中に有る現実】という物じゃ。童の頃は失敗を恐れず、自らの願望へと一直線にひた走るからこそ、無自覚のまま現実を強く保持していられるのじゃぞ?」


 それから暫くの間、ノジャは私に現実を保持し続けることが大事だってことを説き続けた。まぁ、そーならいいんだけど、私みたいに弱い人間は……無理なんじゃないかなぁ……



 ……そう思いながらポケットに手を入れたら、指先にカサリ、と何かが触れる感触。あの女性に貰った御守りだ……。




 ……今夜、使ってみようかな?





 

果たして夢見の御守りは、何を見せるのか?続きをお楽しみに。

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