ep.10 暗雲
ヨハネス、ヘルとも別れたクラウンとハインは、102番地の商店通りにやってきた。
馬車用の大きな道路と歩道があり、道路に面した路肩には、造花で飾られた街灯が等間隔で設置されている。
花の街と謳われることだけあって、飾りつけのみならず建物にもこだわりが見えた。淡色の外壁やアンティークな趣きのある構造は、どこか別世界に来たような特別な気分を味わえる。
数ある商店は出入口の扉の塗装も店ごとによって違い、更に店前の陳列窓には興味を引かれるような品々が並んでいる。ハインは、店ごとの自慢の品を見て歩き回り、楽しんでいた。
「ところで、日用品って何を買えば良いの?宿に置いてある備品じゃだめなのかしら?」
ジャケットのポケットに両手を突っ込んで、空を眺めていた視線を水平に戻す。
ハインから質問を受けて、クラウンは往来する人々に目を向けた。
「ここは、観光地ですから。多分当日泊まれる宿は、少ないでしょうね。仮に宿泊できたとしても、安宿でしょうし元から備品がない場合もあります。それを考慮して、クリスティーナさんは使い切りの日用品の買い出しを頼んだんでしょう」
「そういうことね。じゃあ、クラウンに任せようかしら。私、宿に泊まることも少なかったから。何を買えば良いか、分かんないし」
「貧乏運び屋のハインさんは、もっぱら野宿ですもんね」
「九割は野宿ってだけよ。ちゃんと宿にも泊まったことだってある!」
ハインが張り合ってきたが、それをほとんど野宿というのではないか、という突っ込みはひとまず抑えた。
クラウンは、脱線した話を元に戻す。
「とは言っても、僕も女の人が欲しいものとか全く検討がつかないな…。ただでさえ美容関係に口うるさいし、あの人。後からグチグチ言われるのも釈然としませんし…。精々洗髪料とか石鹸とか、共通して使うものくらいしか思いつかないなぁ……」
何の気なしに口走ると、「女心に疎そうだもんね、あんた」とハインが意地悪な笑みを浮かべていた。
彼女の日頃の恨みが、ここぞとばかりに発揮されているようだ。やり返されているように感じて、少し気分が悪いが、クラウンは受け流した。
「余計です。とにかく女性用の必需品は、ハインさんに任せますね。僕は、適当に選びます」
「了解!」
――
102番地の通りを見渡せる、ある建物の屋上。一行と別れたヨハネスとヘルは、そこにいた。
見晴らしの良いところではあるものの、ヨハネスの視線は景色ではなく、大事そうに両手で持ったクマのぬいぐるみ一点に注がれている。
「……なるほど。『献上品』の受け渡しは、明日になったんだね。それで、どうだった?何か、感じた?」
クマのぬいぐるみから、聞き慣れたオリヴァーの声が聞こえた。
聞かれたことに即答せず、何かを考えるように町を見る。
それから、徐ろに口を開いた。
「わからない。協会にいた時は、気配がはっきりしてた。でも、ここに来てから、それが弱くなった」
「うん…、なるほど…。物理的に離れたからかな?それで、微弱に感じるのかもしれないね」
不明瞭な情報でも、オリヴァーからは予想が立つ。
ヨハネスは、「どうしたらいい?オリヴァー」と再びクマのぬいぐるみに視線を落とした。
「そうだね。今すぐには確認できないから、明日まで待ってみよう。受け渡す際に、それを確認できるかもしれない」
「わかった」
「ヨハネス、ヘル。徒労をかけるけれど、くれぐれも悟られないように。応援しているよ」
「うん、ありがとう」
オリヴァーからの励ましを受けるも、表情は変わらない。
それから、独り言にしては重々しい声色が、縫いぐるみから聞こえてきた。
「キュルヴィ協会の彼らには悪いけれど。時機を見て、アレを盗むしかないね」






