表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハインリッヒの旅枕  作者: えくぼ えみ
第二部 『名もない花畑より。』
57/141

ep.10 暗雲

  

 ヨハネス、ヘルとも別れたクラウンとハインは、102番地の商店通りにやってきた。


 馬車用の大きな道路と歩道があり、道路に面した路肩には、造花で飾られた街灯が等間隔で設置されている。


 花の街と謳われることだけあって、飾りつけのみならず建物にもこだわりが見えた。淡色の外壁やアンティークな趣きのある構造は、どこか別世界に来たような特別な気分を味わえる。


 数ある商店は出入口の扉の塗装も店ごとによって違い、更に店前の陳列窓には興味を引かれるような品々が並んでいる。ハインは、店ごとの自慢の品を見て歩き回り、楽しんでいた。


「ところで、日用品って何を買えば良いの?宿に置いてある備品じゃだめなのかしら?」


 ジャケットのポケットに両手を突っ込んで、空を眺めていた視線を水平に戻す。


 ハインから質問を受けて、クラウンは往来する人々に目を向けた。


「ここは、観光地ですから。多分当日泊まれる宿は、少ないでしょうね。仮に宿泊できたとしても、安宿でしょうし元から備品がない場合もあります。それを考慮して、クリスティーナさんは使い切りの日用品の買い出しを頼んだんでしょう」


「そういうことね。じゃあ、クラウンに任せようかしら。私、宿に泊まることも少なかったから。何を買えば良いか、分かんないし」


「貧乏運び屋のハインさんは、もっぱら野宿ですもんね」


「九割は野宿ってだけよ。ちゃんと宿にも泊まったことだってある!」


 ハインが張り合ってきたが、それをほとんど野宿というのではないか、という突っ込みはひとまず抑えた。


 クラウンは、脱線した話を元に戻す。


「とは言っても、僕も女の人が欲しいものとか全く検討がつかないな…。ただでさえ美容関係に口うるさいし、あの人。後からグチグチ言われるのも釈然としませんし…。精々洗髪料とか石鹸とか、共通して使うものくらいしか思いつかないなぁ……」


 何の気なしに口走ると、「女心に疎そうだもんね、あんた」とハインが意地悪な笑みを浮かべていた。


 彼女の日頃の恨みが、ここぞとばかりに発揮されているようだ。やり返されているように感じて、少し気分が悪いが、クラウンは受け流した。


「余計です。とにかく女性用の必需品は、ハインさんに任せますね。僕は、適当に選びます」


「了解!」



 ――



 102番地の通りを見渡せる、ある建物の屋上。一行と別れたヨハネスとヘルは、そこにいた。


 見晴らしの良いところではあるものの、ヨハネスの視線は景色ではなく、大事そうに両手で持ったクマのぬいぐるみ一点に注がれている。


「……なるほど。『献上品』の受け渡しは、明日になったんだね。それで、どうだった?何か、感じた?」


 クマのぬいぐるみから、聞き慣れたオリヴァーの声が聞こえた。


 聞かれたことに即答せず、何かを考えるように町を見る。


 それから、徐ろに口を開いた。


「わからない。協会にいた時は、気配がはっきりしてた。でも、ここに来てから、それが弱くなった」


「うん…、なるほど…。物理的に離れたからかな?それで、微弱に感じるのかもしれないね」


 不明瞭な情報でも、オリヴァーからは予想が立つ。


 ヨハネスは、「どうしたらいい?オリヴァー」と再びクマのぬいぐるみに視線を落とした。


「そうだね。今すぐには確認できないから、明日まで待ってみよう。受け渡す際に、それを確認できるかもしれない」


「わかった」


「ヨハネス、ヘル。徒労をかけるけれど、くれぐれも悟られないように。応援しているよ」


「うん、ありがとう」


 オリヴァーからの励ましを受けるも、表情は変わらない。


 それから、独り言にしては重々しい声色が、縫いぐるみから聞こえてきた。


「キュルヴィ協会の彼らには悪いけれど。時機を見て、()()()()しかないね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ