行間 ある男たち
時刻は真昼に差しかかり、露天通りは更に活気づく。
大波のように人がごった返す中、どこぞの見目麗しい女運び屋が大きな男を打ち負かした、という話題で持ち切りになっていた。
ある者は「見間違えじゃないのか~?」と疑えば、ある者は「そりゃすげぇな!」と声を張り上げて盛り上がる。
それに聞き耳を立てる者が、二人。
一人は、黒いローブに身を包み、右側の顔を隠すように前髪だけが伸びた男だ。
もう一人は、身丈二mはあろう屈強な男。頭にはターバンを巻いて、上下オフホワイトの簡素で、動き易いようにゆったりとしたサイズ感のある装いに身を包んでいる。
「……『運び屋』か」
黒いローブを纏う男が、独り言のように呟いた。
ターバン頭の屈強な男が、見下ろすように視線を流す。
「依頼にあった『例の運び屋』でしょうか」
「どうだろうな。依頼内容では、男、らしいが」
黒いローブの男は、露店に陳列したエメラルドに輝く鉱石を手に持つ。
ターバン頭の屈強な男は、彼の不確かな物言いに疑問を持った。
「らしい、というのは?」
「顔は、はっきりと確認していないようだ。奇っ怪な被り物で素顔を隠していたとか」
「ふむ…。では、男か女かも分からないと」
「ああ。依頼主は、声で男だと判断したらしいが」
「では、その被り物で声を変えていた可能性もある、ということですか」
「……なきにしもあらず、だな」
陽射しを受け、ちらちらと水面のように輝くエメラルドの鉱石をテーブルへ戻し、ローブの男は歩を進める。
ターバン頭の屈強な男も、それに続いた。
「アタッシュケースを持ち歩いている人間は、そう多くない。注意深く周囲を見ておけ、ゴダ」
「承知しました、ヴィドー」
ゴダと呼ばれた屈強な男は、軽く会釈した。
すると黒いローブの男・ヴィドーは、何かに反応して左側のポケットに手を突っ込む。
取り出したのは、手の平サイズの小さな万年筆――連絡手段として用いられている『魔具』の一種だ。
遠く離れた地にいても、同じ万年筆を持っていると、片方が字を書き出した瞬間にもう片方の万年筆が連動して同じ字を書き出すというもの。
キャップはないが、そのペン先は淡く発光していた。
ヴィドーが手を開くと、小さな万年筆は独りでに動き出し、手の平の空中に文字を書き出し始める。
書き終わったそれは、役目を終えると手の平に横たわった。
手の平の空中に留まる文字を目で追いかけるヴィドーは、足を止めた。
手の平をぐっと握るとその文章は、ふわりと霧散する。後続するゴダを見やると、
「……急ぐぞ、アタッシュケースの居所が判明したらしい」
「御意、」
怪しげな二人組の男ヴィドーとゴダは、露店通りから脇道へと外れた――。






