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#2 害獣

軍官はマイクを手に取り、訓練についての説明を始めた。

「まず、今日最終的にテメェらが倒さねばならないのは…。各タッグごとに用意された試験用捕獲済外部侵略獣、食人覚醒生物『外来種・インベード』。タッグごとに形態が違うが、基礎能力はほとんど同じだ。しかし殺人性もあるため一応ライフセーバー(レールガン装備)を各試験室控えに配置している。」

「それってめちゃくちゃ危険なヤツじゃないのか?」

たしかにかなり危険だ。

「これは国が決めたことだから仕方ないのだ。さて、訓練開始の合図の後はリストに記載された部屋番号へ移動。後に配るマニュアル通りに自身の生物力を解放して強化、覚悟ができたら害獣解放ボタンを押下して最終試験だ。不明な点があれば、各部屋に設置してある本部回線で連絡してくれ。以上、ワタクシは本部に戻る。放送を待ってろ。」

随分と単純明快だ。適当に回ってきた訓練マニュアルに目を通すか。

「何怖がってんの?」

訓練マニュアルをはたきおとすように心勿が問いかけてきた。

「別に怖がってないよ。そろそろ合図がくるんじゃない?」

「せいぜい生物力の解放で精一杯ってとこね。」

「やってみないと分かんないだろ」

すると、ブザーと共に訓練開始のコールが鳴り響く。ボクは心勿に手を引かれ、試験室601へと向かう。

601。入室した瞬間、出入口にロックがかけられた。全体的に黒っぽい、学校の教室ほどの広さ。照明の赤い色が緊張感を高めてくる。

「えーと。まず…じょ、上裸…」

いきなり難度が高い。

「何焦ってんのよ。早く脱げばいいじゃん」

ボクは仕方なしに黒いロングTシャツを大胆に脱ぎ捨てる。

「へぇー。筋肉あるね」

まずは自分の心配をしてほしいものだ。女子の癖に何の恥じらいもなくブラまで脱ぐなんて考えられない。別にボクは恥ずかしくない。

「試験室に転がってる生物薬『level1』をスクワットしながら飲む。」

かなりシュールだな。普通にスクワットするだけか。てか心勿の奴スクワット速すぎないか?

「同じく転がってる生物薬『level2』を両太ももに注射、その後体に変化を感じるまで正座。」

注射は大して痛くないが、正座を何時間させるつもりなんだ?

「痛い」

「そんな強くぶっ刺すからだよ…」

出血が激しい。でも止血剤ですぐに治るだろう。


正座一時間。なんとなく体が浮遊する感覚を感じた。心勿も同じような状況らしい。

「変化を感じたら立ち上がって服を着て、パンチやキックをして生物力を試してみよう。」

ってもう始めてるし!たしかに心勿の手先や足先からピンク色の火花が散っている。これが生物力か。

「ふーん、じゃボタン押すよ」

「それは待ってよ…」

「なんで?実践しないと始まらないよね?」

「…」

ボクにも生物力が確認できた。しかしボクの火花は何故かかなり小規模なのだ。威力が期待できない。しかし心勿は構わず最終試験ボタンを押してしまう。


現れたのは、まるでケンタウロスのような二足歩行型の害獣。サイズは2mぐらいで、こちらを警戒するようにゆっくりと歩み寄ってくる。

「パワーだけはありそうね。攻撃を避けつつ、弱点の腹に攻撃を入れる。さて、初撃」

心勿の言う通り、害獣は真っ向から強烈なストレートパンチを繰りだしてきた。心勿とボクは反対方向にジャンプして避けた。生物力により身体能力も強化されているのだ。

「様子見で全攻撃を避けてみたほうがいいんじゃないかな?」

これは魔獣狩猟ゲームとかで培った知識だ。そっちの方が確実に成功率が上がる。

「恐らく次の攻撃は両手槌だから後ろに回り込んでパンチを入れる」

「そんなの無茶だよ!」

しかし、心勿は文字通り後ろに回り込んだ。

「うそ」

だが害獣は既にこれを読んでいたのだ。そのまま後ろにいた心勿を前足で掴んで壁に押し付けた。

「心勿!クソっ」

「うぅ」

「グゥゥゥゥンッ」

ボクが今無理に攻めたらボクも道連れで元も子もない。じゃあどうすれば…?

すると害獣は掴んでいた心勿の体を床に投げつけたのだ。

「ぐはぁっっ!」

「そんな…」


このまま放っておけば心勿が集中攻撃されて最終試験の合格どころか心勿の体が悲惨な状態で終わる。しかしボクの生物力は微弱で心勿を救うにはとても足りない。

「君の生物力が弱いなんて誰が決めたんだい?」

…織務さん?

「君はまだ一撃も決めてないじゃないか。弱いって分かる根拠なんて何処にもないだろう?」

違う、ボクは弱いんだ。

「君は弱いんじゃなくて弱虫なんだ。さぁよく考えてみよう。君が何をすべきかをね。」

何もできないんだ。ボクは平凡で大衆社会のすみっコぐらしだし、人を救う力なんて全く存在しない。

でもボクの恥を淘汰するヤツは絶対に許せない。ボクのせいで心勿が怪我をするなら、ボクは怪我をさせたお前を許せない。


「心勿に触れるんじゃねぇよ、三下」

「グゥワァァ?」

ナチュラルバイオリィ。生まれたときから選ばれた必要悪。今からお前を殺す。

「なァ知ってるか?このボクの恥晒しのクズはなァ、」

「…星匆?」

その体はヴァンパイア。背から生える二対の黒翼に、口には牙。

「ガァァァァァァァァァァッ!」

害獣は奇声を上げて突進してくる。だが無駄。ボクの生物力のパンチは…。


害獣の骨格を砕く。


害獣は肋骨を砕かれ、そのまま崩れ落ちた。

「あっ…」

その勢いでボクもダウンした。最終試験はこれで合格だ。

「今の形態はなんなの…?ねえ!星匆!まり…す」

心勿もダウンしたようだ。ったく、ボク達運動不足だな。


「601、合格だ。帰宅を許可する。」


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