第88話
ちょっと短めです。
第88話
夜。といっても人通りが全くなくなった深夜にジェリダは部屋を抜け出した。ルベルやセリオには言ってあるので、二人が起きることはない。
宿の外に出て辺りを見回していると、近くの建物の影からショーラが姿を現した。
「すまない、こんな夜中に呼び出して。サウードは上手くまいてきた。さ、行こう」
おそらく護衛か何かであろうサウードをまいてきてもいいのかという思いもあったが、ジェリダはショーラの後ろを着いていく。今夜は満月で、月明かりのお陰で道がよく見える。
この辺りは酒屋が近くにないのでとても静かで、人通りも全くない。歩いているのはジェリダとショーラのみだ。二人は黙ってしばらく歩いていたのだが、ショーラはふと口を開いた。
「なあジェリダ、お前は何で冒険者になったんだ?」
歩いていると、ショーラは突然そんなことを聞いてきた。ジェリダは少し考えてから答える。
「……そうね、チャンスが転がっていたから? 自分が戦う力を得て、チャンスだと思ったの。ついてるってね。力がなければ自分も、周りも守ることができないでしょ。冒険者なら力もつけれるし、お金も手に入る。だからかな」
「自分も周りも守れる力、か……。そうだな、そうだよな」
ショーラは何か納得したような、確信したような口ぶりだった。そしてまた、二人の間に静寂が落ちる。そして、ショーラは国の中心にある王宮の近くにジェリダを連れてきた。
「王宮は三つの門があって、そこからしか出入りができない。だが、この王宮も古くてな。修繕不足な箇所がいくつかあるんだ。その中でも、見張りに見つかりにくい場所がある。ここからは見張りが多くなる。静かに進むぞ」
王宮の周りの木々や建物などの影に隠れながら慎重に進む。ショーラの言った通り、この辺りは見張りの兵が頻繁に見回っていた。兵士は三人一組で松明を持ちながら見回っている。装備も鎧ではあるが急所のみを隠すもので、機動力にも配慮されている。
「ここだ」
声を潜めたショーラが指さしたのは、王宮の完全に裏口、その壁の一部だった。
「あそこの壁、少し飛び出した部分があるの分かるか?」
王宮を囲むのはレンガを積み上げた壁になっている。そして、ショーラが指さした先を辿ると、たしかに一カ所だけわずかに手前に飛び出したレンガがあった。
「飛び出したレンガをのければ、周囲のレンガを簡単にのけることができる。大人一人がくぐれるぐらいにはなってる。後はレンガを元に戻せばバレはしない」
「なるほどね。これは王族の抜け道か何か?」
「いいや、俺が細工をコツコツ施してつくった道だ。ここはサウードも知らない」
場所を確認した二人はまた慎重に元来た道を戻った。
「宿まで送ろう。冒険者といっても女の子だからな」
「それを言うならあなたも本当は女の子でしょ」
「たしかに妹と俺はうり二つだが、俺は男だよ」
宿まで送ろうとしてくれたショーラに、あの日ジェリダがみた情報を突きつけてみた。だが、ショーラは全く動揺を示さない。声音にも気配にも動揺はない。ならばと、ジェリダはもう少しつついてみることにした。
「シャラーラ・タバ。第二十一王女。双子の兄は刺客に襲われたものの、妹が兄をかばい死亡。しかし兄も負傷して王位争いからは遠ざかっている。兄の名前はショーラ王子。あなたと同じ名前ね。これって偶然?」
そうジェリダが問いかけた瞬間、かなり鋭い蹴りが入る。その蹴りは綺麗にジェリダの首を狙っていた。
「やはり、こいつは信用するべきじゃない!」
「サウード!?」
「っ!」
ジェリダは久々にひやりとした。完全に気配も音も消していたサウードに直前まで気づけなかった。瞬時に土壁を三重に構築し、サウードの蹴りを防いだジェリダだったが、これを一枚や二枚だけの守りにしていれば、確実にジェリダは首に蹴りを食らっていただろう。現に、二重目までの土壁は壊されかけている。魔法で強化していたにも関わらず、ここまでの威力だ。サウードはただ者ではない。
「どうしてここに!」
「お前を探していたからに決まっているだろう! こいつの宿の近くにいるのではと思ったら大当たりだ。こいつは協力者なんかじゃない。あの日の刺客に関係があるかもしれない」
ショーラがまいたサウードはジェリダの宿の場所を思い出し、この辺りを張っていたのだろう。サウードはショーラを背に隠し、ジェリダと対峙する。完全に戦闘をする構えだ。ジェリダは壁を元の土塊に戻す。だが、いつでも魔法を使えるように気は抜かない。
「私は興味があって聞いただけ。ステータスは誤魔化せないでしょ。なぜ王族が今の戦争を止めようとしているのか、なぜ王子の名前を使ってしかも男装までして行動しているのか。そんなあやしいことをしていたら、裏があるかもって思うでしょ?」
「その好奇心で自分が死ぬ可能性は考えなかったか?」
「あなたなんかにやられるぐらいなら、私もそこまでってことじゃない?」
ピリリとした空気が流れる。まさに一触即発。
「やめろ二人とも! ……そうだ、私の本当の名前はシャラーラ・タバ。第二十一王女。ジェリダの言った通りだ。だが、一つだけ間違いがある」
「やめろ! まだこいつが敵じゃないと分かった訳じゃ――」
「命を落としたのは兄、ショーラだ。私を庇って兄が死んだんだ」
次は三連休をはさんで、3月23日21時に更新です。




