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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第五章 カラル国編
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第86話


 ルベルがいった通り、ジェリダは朝までぐっすりと眠っていた。だが、起きる時刻は規則だたしく、いつもと同じ時刻にジェリダは目覚める。


「ん……。よく寝た…」


 やや寝過ぎたことでいつもよりぼーっとするが、今までの疲労は少し回復できた。ぐぐっと背伸びをしてベッドから起きる。両隣を見ると、ルベルはジェリダよりも早く起きているらしく、ベッドの上はからだった。セリオは大の字で幸せそうに寝ている。まだ寝かしておいても良いだろう。


 ジェリダは服を着替えてとりあえず顔を洗う。冷たい水が頭をクリアにしてくれるようだった。自分の身支度を調えて宿の外に出てみる。まだ早い時間だ。人通りはまばらで静かだ。


「ルベルはどこに行ったんだろ」


 ジェリダは宿の中をくるりと見て回る。食堂はまだ準備中なので開いていない。他に行く場所もないので宿の周りをぐるりと散策してから自室に戻った。まだルベルは帰ってきていない。


「ま、ルベルのことだし心配はいらないかな」


 ジェリダはセリオを起こす。セリオが準備をしている間に宿の食堂も開くだろう。


「あ、おはようございますジェリダ様」


「おはよう、ルベル。どこに行ってたの?」


「宿の方にお願いして屋上を借りて剣の稽古を。鈍ってはいけないので」


 屋上とは盲点だった。なるほどと、ジェリダも納得する。


「ジェニオにあって少しやる気が出てきた?」


「ははっ、そんなところです。ですが、ここ最近よくない組織との関わりもありましたし、用心しておくことに超したことはないかと思いまして」


 明けの塔がいつ動き出すか分からない。ジェリダも今の力に甘んじて仕舞わないようにしなければと、心に誓う。


 セリオの準備が整い、朝食を食べに行く。それを済ませると三人は再び町で情報を集め出す。まだ日中ほど人が歩いていない。昨日よりは声が聞き取りやすい。


「うーん、こんな大通りはやっぱり駄目か。路地にはいった方がいいかも」


(でも、昨日みたいに人攫いに出くわすと、まだ力のないセリオは危ないよね……)


 ジェリダは心の中で逡巡する。そして、二手に分かれることにした。


「ルベルとセリオは大通りの方で何か情報がないか探してみて。武器商人とかの方が知ってることが多いかも。私は路地を探してくる」


「分かりました」


「気をつけろよー」


「それじゃ」


 三人はそれぞれ反対方向に進んでいく。ジェリダは薄暗い路地をあえて進んでいく。好き好んでこんな道を行く者もそういないだろう。今のところ誰ともすれ違わない。だが、適当に進んでいくと建物のドア前でたむろする三人の男がいた。


「んだ? ガキ?」


 見るからに目つきが悪く、身体に傷が目立つ。どう見ても一般人には見えない。


「おいおい、ここはガキが通る所じゃねーぞ」


 一番背の高い男がジェリダの前に立ちはだかる。髪はボサボサとしており、三白眼がギラついている。身体はかなり鍛えられているのが一目で分かる。普通の子供なら泣いて逃げ出しそうだ。しかし、ジェリダは一歩も引かない。むしろ、ジェリダはこの男たちの動きを封じてでも、ドアの奥から聞こえる声を聞きたかった。


 ドアの向こうでは、今まさにジェリダが探している【戦争】のことを話しているからだ。


「そこのドアの向こうは誰がいるの?」


 にこりとジェリダは笑顔で問いかける。だが、男たちは一気に殺気だってジェリダを阻むように立ち上がる。


「誰もいねーよ。さっさと回れ右して帰りな」


 彼らは昨日の人攫いのようにすぐに暴力にものを言わすというわけではないらしい。対話でなんとかジェリダを追い払おうとしている。


「誰もいないことないでしょ? 声が聞こえるもの。人数はそうね……八…、九人ね。戦争がどうのって聞こえてくる」


「サウード、こいつもしかして!」


「奴らにこの場所がバレた!?」


「チッ」


 サウードと呼ばれた一番背の高い男が、スッと拳を引いて臨戦態勢をとる。ジェリダも杖を持つ手に力を込め、魔法を放とうとしたとき、男たちの後ろのドアが開いた。


「一体何を騒いで……あ! 昨日の!」


 ドアの向こうから現れたのは、昨日ジェリダたちを助けたショーラだった。ジェリダのことを覚えていたのかすぐに反応を示した。


「ショーラ、中に入れ! こいつは奴らの密偵かもしれない」


「え? その子が…?」


 ショーラはさっと表情を引き締め、ジェリダに警戒の眼差しを向ける。ジェリダははぁ、と一つため息をついて手をひらひらと振る。


「あなたたちの言ってる奴らっていうのが誰のことか知らないけど、私は多分それじゃない。私はジェリダ。最年少Aランク冒険者。こう言えば分かってもらえる?」


「冒険者? なぜ冒険者がここをうろついている」


 サウードがいまだ臨戦態勢のままジェリダに問いかける。


「あなたたちは|戦争を阻止しようとしてる《・・・・・・・・・・・・》、そうでしょ?」


 全員がその言葉に息を飲む。ジェリダは続ける。


「私もその戦争を止めたいの。ここに来たのはただの偶然。ま、ちょっと耳が良いから声を頼りに来たって言うのもあるけど」


「ジェリダって言ったよな。お前はどうしてそれを知ってるんだ」


 ショーラが慎重に聞いてくる。


「私はお使いできたの。同じくAランク冒険者のジェニオに依頼されて。いつ戦争が始まりそうなのか情報を集めて来いってね」


 ここまで話してしまっては情報集めとしては駄目なのかもしれないが、素性を隠すよりも全てさらけ出して情報を得る方が効率が良いとジェリダは判断したのだ。三人の男とショーラは戸惑いの表情を見せている。ジェリダが敵か味方か判断しかねているのだろう。


「そっちは戦争を阻止したい。こちらも戦争は回避したい。あなたたちの情報を分けてもらえば、こちらも対策をとって戦争を止められるかもしれない。どう? 目的は似てると思うんだけど」


「分かった」


「ショーラ!」


 ジェリダの問いかけにショーラは頷く。だが、サウードはジェリダのことが信用できないのか、抗議の声を発する。だが、ショーラは首を振る。


「ジェリダが嘘を言っているようには見えない。俺はジェリダを信じる。ジェリダ、中に入ってくれ」


「ありがとう、ショーラ」


 ジェリダは道を空けたサウードの横を通り過ぎ、ショーラに続いて中に入る。だが、後ろからサウードが刺すような視線を送っているのが分かる。


「お前たちはここにいろ」


 サウードはジェリダを警戒してか、外の見張りを残りの二人に任せ、ジェリダの後ろについてくる。


「ショーラに手を出してみろ、一撃で沈めてやる」


「へぇー、そんなことできるかな?」


「サウード! 失礼なことを言うな!」


 ショーラは後ろの殺伐としたサウードに一喝する。ショーラはすぐ近くの部屋にジェリダを通す。そこにはジェリダが聞き取った通り、残りの八人が一つのテーブルを囲んでいた。


 全員がジェリダに注目する。二十代ほどの若い男や髭を生やした男。老人まで年齢が様々だった。一番に声を発したのはその中で紅一点の女性だった。


「ショーラ、その子は?」


 ジェリダを警戒しているのか、ややとがった声で彼女は聞いてくる。亜麻色の髪は長く、ゆるくうねり、ややつり上がった目は猛禽類を思わせる鋭さだ。そして、正しきを求める眼であるようにも思えた。


「ジェリダだ。聞いた者いるかもしれないが、最年少でAランク冒険者に彼女はなっている実力者だ」


「ジェリダです。私はある依頼を受けてこの国で調査をしています」


 先ほどショーラたちにしたように、自らの素性と目的を彼らに話す。ジェリダの話を聞き終わった八人は、それぞれ別の表情をしていた。


「奴らの密偵かもしれないのになぜ信じるんだショーラ」


「だが、フィルム大国が戦争を回避しようとしているなら、これは朗報だ」


「あちらの方が兵力も圧倒的だ。逆に戦争を仕掛けられるのを待っているやもしれん。勝てば、フィルム大国にはいる利益もある」


「みんな、それぞれの意見があると思う。だが、俺はこのジェリダを信じる。そして、戦争へと向かおうとしているこの国を止めたいんだ。ジェリダにはフィルム大国との架け橋になってもらいたい。どうだろうか」


 ショーラはジェリダの瞳をまっすぐ見つめて問いかける。純粋で、強い意志のこもった瞳。ジェリダは頷く。


「分かった」




次は3月17日21時です。

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