第83話
宿で2時間ほど休めばセリオは足の疲れもなくなったのか、盛大な腹の虫を鳴らした。その腹の音を目安に昼にすることにした。
セリオのリクエストが肉だったので、セリオが気に入った店に行くことにした。その探し方は、セリオの鼻に頼るのみ。
ひくひくと鼻をひくつかせるセリオはしばらく歩いて、そしてある店の前で足を止めた。
「ここがいい!」
そこは店は店でも露店だった。大きく厚く切った肉を串に刺して焼いている。煙は風に乗っておいしそうな匂いを飛ばしている。セリオはこの匂いを辿ったのだろう。
「お、坊主、変わった髪色してるな。昼飯か?」
「そうです!」
今にも飛び跳ねそうな勢いのセリオに、店のオヤジも機嫌がよくなる。
「そっちのはお前の姉ちゃんと兄ちゃんか? サービスするぜ。何がいい?」
ジェリダとルベルはお互いに顔を見合わせる。まさかセリオの姉弟に見られるとは思っていなかったからだ。だが、そんな間違いを訂正するよりも、早く肉を食べたいとセリオの目線が訴えてきている。三人はそれぞれ注文をし、店の前に設けられたテーブルで出来上がるのを待つことにした。
「王都の人々は、思ったよりも差別的ではないのですね」
ルベルは唐突にそういった。だが、ジェリダもそれは思っていたところなので、一つうなずく。
「門をくぐるときにも注意をされることもなかったし、特にホロルほど陰口を言われることもないね」
正直言えば、ジェリダの耳には若干陰口は聞こえてきてはいた。だが、それもホロルほど多くはない。皆、セリオの存在を気に留めていないのか、それだけの心の余裕があるのかはわからないが。
そして、しばらく待っていると注文した肉がテーブルに運ばれてきた。運ばれてきた大量の肉のほとんどがセリオの分だ。
「ほんとにこれだけ食べられるの?」
「大丈夫!」
セリオはそう言って肉にかぶりつく。セリオの犬歯が突き刺さった肉からじゅわりと肉汁があふれる。そして、セリオはバクバクと肉を食べていき、本当に注文した分をすべて平らげてしまった。
「まさかほんとに食べるとは……」
さすがにルベルも呆気にとられている。あの量をこの小さな体に収めたのかと。
「ま、ちゃんと食べたなら私は別に文句はない」
ジェリダも最後の一つを口に入れた。
「じゃあ、王城の方にでも行こうか。こっちも特に時間を指定されている訳でもないし。二人ともいい?」
「はい。俺はかまいません」
「俺も大丈夫!」
「なら、行こうか」
王城には徒歩で向かう。この王都は広いので、馬車に乗るのも一つの手ではあるが、そう遠い距離でもない。時折店をひやかしながら歩き、王城へついたのは一時頃だった。
王城の大きな門の前には門番が二人立っている。腰には剣を差し、白に赤いラインの入った兵服を着ている。左の兵士は口ひげを生やしており、四十代ぐらいに見える。一方の兵士はまだ若く、二十代ぐらいに見えた。ジェリダは左の兵士の方に声を掛けた。
「すみません、ジェニオ様に呼ばれた者なのですが」
そう言ってジェリダは証明書を見せる。後ろにいた二人も証明書を取り出して兵士に見せる。
「確かに、証明書確認させていただきました。中に取り次ぎますので、少々お待ちください」
そう言って年若い兵士の方に目配せをすると、中に入っていき、しばらくして帰ってきた。
「どうぞお入りください」
兵士が帰ってきて門を開けてくれる。門をくぐると、やや白髪交じりの女性が立っていた。服装は濃い紺色のメイド服を着ている。髪はかっちりと後ろで丸め、隙がない。ジェリダ達に一礼する。
「ようこそ、ジェリダ様、ルベル様、セリオ様。私は家政婦長を勤めておりますジーンです。ジェニオ様は執務室におりますので、私がご案内いたします」
ジーンと名乗った家政婦長の後に続き、三人は王城の中を歩く。
「天井が高けー」
「こら、キョロキョロするな。こけるぞ」
ジェリダ達から見ても天井は高く、細かなところまで細工が施されてる。白く長い柱が何本もその天井を支えている。
階段を三階まで上がり、長い廊下を進む。そして、角を曲がって一つ目の部屋の前でジーンは立ち止まった。そして、ノックをする。
「ジェニオ様。お客様がお見えでございます」
「どうぞ」
中からジェニオの声が聞こえた。ジーンはドアを開けてくれる。
「ありがとうございました」
ジーンにお礼を言って中に入る。ルベルもセリオもジーンにお礼を言って入った。
「やあ、久しぶりだね。ルベルも、最近剣の稽古をつけれず悪いね」
「いえ、師匠が忙しいのは分かってますから」
ジェニオは何か書類を書いていたらしい。羽ペンを置き、応接テーブルの方にやってくる。
「どうぞ、座って」
ジェリダは真ん中に座り、右にルベル、左にセリオが座る。正面にジェニオが腰掛けた。ジェニオはここしばらく忙しくしていたようだが、その疲労のようなものは見受けられない。
「さて、報告を聞く前にまずは。Sランク冒険者になったんだってね。おめでとう」
「ありがとうございます。では、報告の話しに移りましょうか」
「もうちょっと喜ぼうよ…。ま、いいや。では報告を聞こうか」
「ではまず、明けの塔という組織について話していこうと思います」
ジェリダは明けの塔が関わっていた和国とアオイのこと、つい先日のセリオの村で起きた飛竜襲撃の理由などを話した。そしてそのどれもが、上級魔物の封印を解いてどこかに連れて行っていると言うことも。
「明けの塔……。聞いたことがある。ずっと昔から魔王信仰をしている組織だ。和国の狼虎に黒い竜、どちらも文献に残っているほど強大な力を持つ魔王の配下だ」
「魔王……そんな存在が本当にいるんですか?」
そこにいる三人とも現実味がない、そう顔に書いてあった。ルベルの質問にジェニオは頷く。
「いる。詳しいことは僕も知らない。ただ、文献にも残っているからどこかに封印されているんだろうね。この国の宰相ならご存じかもね」
「明けの塔が魔王の配下を封印から目覚めさせているのは、魔王の復活が目的ではないんですか」
「うん、君の報告を聞く限りそうだろうね。もしかしたら、カラル国もそれに関係しているのか……。ねえ君たち、ちょっとお使いを頼まれてくれないかな」
(やっぱり)
ジェリダもルベルも同じ表情になる。ジェニオはその表情を見て苦笑いになる。
「お使いはとっても簡単だからそんな顔しないで。ちょっとカラル国に行ってきてほしいんだ。そして、これから話すことは他言無用にしてほしい」
その言葉にジェリダもルベルもスッと表情を硬くする。と。ぐい、っとセリオがジェリダの裾を引っ張る。ジェリダがセリオの方を見ると真剣な目で見つめてきて。
「たごんむよう、ってどういう意味?」
「ぷっ、あはははは、そうだね。ごめん。君には難しい言葉だったね。他言無用って言うのは、ここにいる人以外にこれから話す内容を言ったら駄目ってことだよ。いいかい? 守れる?」
緊張していた空気が一気に弛緩する。ジェリダも少し口元が緩み、その後ろのルベルも笑いを堪えていた。
「そ、そんなに笑わなくてもいいだろ! 分かった。誰にも話さない」
セリオは笑われたせいで顔を赤くする。少し口元を尖らせたが、他言無用の意味を理解して、頷いた。
「よし。じゃあ、続けるよ。今、カラル国は戦の準備をしている。おそらく、その仕掛けようとしているのはこのフィルム大国だ」
戦争、その言葉にジェリダの肌に鳥肌が立つ。戦という言葉に歓喜したのか、はたまた恐怖したのか、それは分からない。ジェニオは話しを続けていく。
「さっき明けの塔とやらが動いていると言っていただろう? 実は、カラル国には狼虎や黒い竜と同じ魔王の配下だった魔物が封印されている。そして、このタイミングでカラル国が戦をしようとしている。この二つがどう作用するのかはまだ分からない。だけど、関連がありそうな気がするんだ」
明けの塔の活発な動き。カラル国の戦の準備。情報が少なくはあるが、疑うには十分だ。
「確かにこのタイミングは何かありそう…。それで、私達のお使いって?」
「君はその耳があるだろう? それを使って何か情報がないか探ってほしいんだ。私も使いを出して情報を集めているんだけど、人手は多くほしい。特にほしい情報は武器の流れていく先、なぜ戦を仕掛けようとしているのか。この二つの情報が欲しい」
「なるほどね。そういうこと。分かった、引き受ける。ただし、その調査でかかった費用はあとで取り立てるからね」
ジェリダはビシッとジェニオに指を向けて言い切る。
「守銭奴だな~。君結構お金持ってるでしょ? まあ、それもそうか。お使いなら駄賃もあげなきゃだし、費用と一緒に依頼料としていくらか払うよ」
「なら良いの。出発は早い方がいいの?」
「そうだね。今はいつ戦が始まるのか全く分からない状態だ。できるだけ早く先手を打ちたい」
「分かった。ルベル、セリオ、疲れているかもしれないけど、明日の朝には向かうことにするから。フルルがいれば半日かからずに着くでしょ」
「分かりました」
「俺も行けるからな!」
セリオは何か言われる前にと、元気さをアピーする。ジェリダはセリオの体力がやや心配であったが、置いていく訳にも、一人で帰れとも言えない。不安はあるが連れて行くことにした。
「じゃ、よろしく頼むね」
次は3月12日21時です。




