第81話
王都に着くにはそう時間はかからなかった。セリオの体力の心配もあったが、食事をしっかり取り始めたからなのか、以前ほど休むこともなかったからだ。
やはり子供の成長というのは早いものなのだろう。まだ小さい身体だ。成長の伸びしろはいくらでもある。
「そろそろ王都に着くけど、会う時刻は決まってるの?」
「いんや? そこらのやつに取り次いでもらって、暇そうなら会えるんじゃね?」
レントはツンとした物言いで返した。ピオはその態度にため息が出る。
「はあ…そんな適当なこと言うなよ、まったく。時間は特に指定されてないけど、これから王都に入ってすぐに取り次いで貰うならたぶん、すぐに会えると思うよ。ま、その場合、上のお偉いがたも集まって来ると思う。それだけは面倒なんだよね〜」
そうして話しているうちにも王都が近づいてくる。
王都はホロルのように高い壁に囲まれている。壁は円形状になっており、中心に王城がある。町は五つの区域に分かれており、大通りがその区域を分けるように走っている。
上空から見ると、王都は五つの花弁を有する花の様に見えるので、フィルム大国の旗には五つの花弁の花が施されている。
王都に入るにはジェリダが最初ホロルを訪れたときのように、門をくぐらなければならない。門番にジェニオから送られてきていた証明書をジェリダ達は見せる。レントとピオもそれぞれ証明書を見せる。
フルルから降りて王都に入ると、セリオがホロルの町並みを見たとき以上に目を輝かせる。
「すっげーー!!」
ホロルの町も賑わいを見せているが、王都はその比ではなかった。
門を抜けるとまっすぐに伸びた大通りに、ひしめくようにして大勢の人々が行き交っている。道の端では店が建ち並び、華やかに着飾った男女が楽しげに会話をしている。
ホロルの町はどちらかと言えば商人や冒険者が多い街だ。そのため、行き交う人はそのどちらかが多い。だが、王都は貴族や町人の方が多いため、冒険者の姿がまばらに見える。
そして、王都にいる冒険者というのはDやCランクの冒険者ではなく最低でもBランクが多い。Bランクでも、ホロルにいる同じBランク冒険者とは経験値が違う。
王都に住める冒険者ということは、それだけの質があると言うことなのだ。
「これは流石に王都という感じですね。人が多い…」
ルベルもこの人の多さに、呆気にとられている。ジェリダも少し圧倒されていた。
「ホロルではこんな光景見ることはできないけど、中心に行くほどもっと人が増えるよ。人の住む家も多くなるし。ここで驚いてたら身が持たないよ」
流石に、ピオとレントは慣れているので驚きはしない。
進むにしてもフルルはかさばってしまうので、錬金術ギルドに行く前にまずは宿に行き、フルルを預けることにした。今は特に祭りが開催される期間ではないので、宿は混み合っているほどではなかった。部屋は少し離れた場所になってしまったが、三人部屋と二人部屋がとることができた。
「んじゃ、行くか」
レントの案内で錬金術ギルドに向かう。王都の錬金術ギルドは各区にあるらしいが、レントの父親がいる大本は一番北の区にあるらしい。
幸い、五人の宿からそう遠くない場所に錬金術ギルドがあるので歩いて行くことになった。
錬金術ギルドへ向かって行くにつれて住宅街から、がらりと変わり、商店が建ち並ぶ所に入った。商店と行っても服や宝飾を売る店ではない。錬金術ギルドの近くにある店はすべて錬金術で使う材料や鉱石、道具を売る店だった。おそらく、この辺りですれ違う人の多くが錬金術師であるのだろう。
「錬金術師って結構いるんだね」
「何だよ突然」
「ホロルには錬金術師としているのはレントとピオ、それと今はポーションを作るために雇ってる人達でしょ。人数的には三十人もいないじゃない? だから錬金術師は希少職かと思ってた」
「昔はそうだったらしいけどな。俺のじいさんの代辺りから学校を作ったりして、錬金術師が徐々に増えていったんだと」
「錬金術師は学校があるんですか!? 冒険者の様に適性があるからなるのではなく?」
「俺だって数年は行ってたぞ。ピオも。確かに適性はいるが、錬金術師になるのに適性がいらない、部分もあるからな。例えば、ジェリダの持ってるその鞄は錬金術師としての力が必要だ。だが、材料を調合するには技術はいらない。知識が重要になる」
錬金術ギルドは秘匿することが多い。特にその錬金術の調合は秘密にされていることがほとんどだ。
「学校に入るのは誰でも入れるんだ。でも、入ったら錬金術の話しをおいそれと外部に話すことは禁じられる。もしも、結構な秘密を普通の人に話してしまうものなら……推して知るべしってとこかな」
ピオは笑顔でさらりと言ってのける。
「なるほど。入るなら相当の制約がかかると言うことなんですね」
「そういうこと~」
そうして話していると、大きな聖堂のような建物の前でレントが立ち止まった。
「ここが本拠地である錬金術ギルドだ。ただ一つだけ行っておく。ここは、変人どもの巣窟、錬金術ギルドだ。入っても中の奴らの奇行はきにするな」
そう前置きをしてレントは錬金術ギルドのドアを開けた。そして、ドアを開けた瞬間、レントの目の前に黒い物体が飛来する。
「あっぶねー!」
レントはギリギリのところでその物体をつかんだ。それは錬金術師が生成した黄緑色の鉱石だった。大きさは拳の半分程度。だが、あの勢いでレントがつかみ損ねていたら顔面に直撃していただろう。
「大丈夫ですかレントさん!」
ルベルが心配して声を掛ける。
「ああ。ということで、ここに入るなら、それなりの心づもりがないとこういうのが回避できない。中に入ったら上下と前後左右を気をつけろよ」
レントはつかんだ鉱石をそこらに放り捨て、改めて中に入った。ジェリダ達もそれに続く。そして、中の光景に驚きを隠せなかった。
「あのマンドラゴラは○○生成に使うべきだ。○○が生成できれば○○も作り出せるのだ! こっちの方が有意義な使い方だろうが!!」
「いーや、○○を生成する方が大事だ。お前の、○○は成功してもそう使う場面がないだろうが! 俺にそのマンドラゴラを譲れ!! 俺の方が有意義に使ってやる!」
「おい誰か! ○○をくっちまった馬鹿がいるから手伝ってくれ!」
「ついに理想の○○をつくり出せたぞ!!」
入った途端、外からは全く聞こえなかった騒々しい声が聞こえてきた。中は建物の見た目と面積が異なっているようだった。外からみた錬金術ギルドは箱形の建物だったのだが、中はかなり奥の方まで廊下が続いている。錬金術ギルドはジェリダの持つ鞄の中の技術を応用しているのだった。
そして、この喧騒の元となっているのは中にいる錬金術師達の討論の声や、議論、素材を奪い合う声だ。
「俺は受付で話しを通してくるから待っててくれ。ピオ、三人に何か飛んできたりしない様に気をつけておいてくれ」
「分かった」
「ここ、なんか変な臭いがする……」
「あー。多分、誰かが薬品をどっかで使ってるのかも。セリオ君は鼻が良いから分かっちゃうんだね。大丈夫そう?」
セリオは竜の血が混じっているからか、常人とは違う五感を持っている。セリオは鼻を押さえているが、大丈夫だとこくりと頷く。
「奥の部屋に行けって」
戻ってきたレントがそう言って指し示したのは廊下の奥の方だ。
「先に行って入ってろだとさ」
レントの後に続きながら、奥の部屋に向かう。すれ違う錬金術師は自分の世界に没頭しているのか、全く五人に興味を示さない。珍しい見た目のセリオに対しても目もくれていない。
扉を開き、部屋の中に入る。と、扉の大きさの割に小さな部屋だった。中には椅子がたくさんあると思っていたのだが、対面するように置かれたソファア二脚とテーブルだった。床に敷かれた絨毯はふかふかとしており、高級なものと分かる。
「あれ? 僕はてっきり、錬金術ギルドの上の人達集めて話しでもすると思ったのに。この感じだとレントのお父さんだけかもね」
「それはそれで最悪だろ」
レントはムスッとしてソファに座る。ピオもその隣に腰を下ろした。座れるのはあと一人だけだ。ジェリダがルベル達の方を見ると、ルベルの方が先に口を開いた。
「俺とセリオはソファアの後ろに立っていますから、大丈夫ですよ。今回の件で呼ばれたのは三人なんですし」
「俺もそれでいい」
セリオはちょっと大人ぶってそう言った。二人がそう言うならと、ジェリダはピオの隣に腰をおろした。そして、待つこと数分。部屋に長身の男が入ってきた。
「久しいな、レント」
そう、その男がレントの父親だった。




