第80話
ちょっと最後の方、背後注意的な内容です。苦手な方はご注意ください。
ジェリダ達が話し合っていた頃、王都ではジェニオが厳しい表情をしていた。
「カラル国の動きが不穏、か……」
先ほど、ジェニオの部屋に密偵の一人が報告に来ていた。定期的に報告は上がっているのだが、急ぎの用ということですぐに話しを聞いた。
密偵はカラル国の担当をしている者で、報告内容をまとめた書簡を持っていた。渡された書簡に目を通し、ジェニオは厳しい表情になったのだった。
「ここ数ヶ月、武器の類いがいつもより多く流れて行っています。王位継承争いがまだ活発なので、王子のいずれかが関係しているのかと思ったのですが、どうやらカラル国の王自身が指示しているようでした」
「王自らが動くなら王子はこれで一気に手柄を立てようと、その動きに追随していると…」
「はい。第三、第七、第十二、第十三、第十五王子はそれぞれ、自身の兵を集め始めています。特に国が戦をすると民に公表しているわけではありませんが、武器商人達は近々戦をするだろうと話していました」
「分かった。お前はほかの者と一緒にいつ頃戦を仕掛けようとしているのかしらべてくれ」
「はっ」
密偵の男は一礼すると一瞬でその場から姿を消した。
「ふぅ……。やっかいごとは重なるものだな」
カラル国は養蚕で栄えている。また、虫系の魔物も多く住む森があり、ジェリダがポイズンラーヴァの討伐クエストを受けた場所もカラル国の領土内だった。
豊かな緑を持つカラル国だが、内政は荒れていた。
一夫多妻制をとっているカラル国では、王の子供は二十三人いるはずだった。
王位継承争いにより、真っ先に第一、第二王子が殺され、今残っているのはたった九人の王子だけだ。その中でも上の五人の王子達が激しく王位争いを繰り返している。
十九王子以降はまだ幼く王位争いをするような力も持っていない。第二十三王子にいたっては去年生まれたばかりだ。
現国王の年齢は七十歳。賢王でも愚王でもない王だが、女性に溺れやすい質である。ここ数年起きている子供達の王位争いには一切口を出さず、傍観しているのみだという。
「カラル国とフィルム大国ではこちらが圧倒的な戦力を有している。にもかかわらず、突然戦を仕掛けようなど思ったのか…」
そう、フィルム大国とカラル国は隣り合う国同士だが、フィルム大国の方が武力ではかなり上を行く。兵の統率や力、魔法を使うものの質も良い。
カラル国は武よりも経済に長けた国だ。奴隷制度を継続し、奴隷のみで構成された傭兵部隊もあるが、統率がとれているとは言いがたい。
そして、カラル国とフィルム大国はお互いに火種になるものが何もない。どちらかと言えば交易において良好な関係を築いている。
「これから、混沌の時代にでも入るとでも言うのか……」
ジェニオは深く、深くため息をついた。
◇◇◇
ジェリダ、ルベル、セリオは昨日待ち合わせ場所を確認した通り、北門へ来ていた。まだ日が昇って間もない朝だ。セリオはまだ少しうとうとしている。
「おまたせ~」
少しだけ待っていると、ピオののんびりとした声が聞こえた。声の方を見ると王都に行くためのフルルを引っ張ってきていた。ピオの後ろからはレントが同じくフルルを引っ張ってきている。
「馬車で行こうかとも考えたんだけど、お互いに帰りがバラバラになったときのことを考えてフルルにしたんだ。セリオ君の分のフルルも借りてきてるけど、一人で乗れる?」
「大丈夫です!」
「そっか、よかった」
「そっちは錬金術ギルドでの話が終わったらすぐに帰るの?」
「ああ。王都で少し買い物をしたら帰る。ほんとはあの親父に会うのも嫌だってのに…」
レントは不機嫌なようだった。じとっとピオの方を睨んでいる所を見るに、よっぽど長く説教をされたのか、無理矢理引っ張ってこられているかのどちらかだろう。
「ま、レントがどうあがこうが上の指示に従わなくちゃいけないんだから仕方ないよね。ジェリダ達は王城にも行かなきゃいけないんだっけ?」
「そう。ちょっと報告があってね。すぐにはこっちに帰ってこれる気がしないかな…」
「師匠のことなのでタダでは返さないでしょうね…。何かお使いを頼まれる気がします」
ジェリダよりもジェニオと親しいルベルが言うのだ。何かしら押しつけられるだろう。
「お前ここ最近落ち着く暇がないな。あ、そうだ。俺はお前とは初めてだったよな」
レントは行ったのはセリオのことだった。ピオから話は聞いているみたいだったが、会うのは初めてだ。レントはセリオに目線を合わせるために膝をつく。
「俺はレント。よろしくな。そして、これは俺からのプレゼントだ」
レントが懐から取り出したのはセリオでも持てるほど軽く、小さな短剣だった。
「これは俺が設計と装飾をしたものだ。お前まだ力がないんだろ。これならお前でも持てる。戦うのには向いてないが、一応は刃物だ。扱いには気をつけろよ」
「ありがとうございます!」
「ピオに続いてレントまで。設計したってことは鍛冶師にわざわざ打って貰ったの?」
「この小ささだ。大して高くないさ。それに、冒険者目指すのに武器の一つも持ってないのは不格好だろ。小さい武器だが、何かの役には立つさ」
「よかったなセリオ」
ルベルは微笑まし気にセリオの頭を撫でる。セリオも自分の武器を持てたのが嬉しいのか、短剣をきらきらとした目で見つめながらこくりと頷いた。
「じゃ、出発しよっか」
ジェリダの一言で皆、フルルにまたがり、王都を目指して出発した。
◆◆◆
「ねぇ、王様ぁ。いつになったら戦の準備が終わるの……?」
そこは、淫靡な空間だった。甘ったるい香が部屋を曇らせるほど炊かれ、灯は部屋を薄暗く照らすだけで、それがよりいっそう退廃的な雰囲気を醸し出している。
その中で天蓋付きの大きなベッドに寝そべる男女がいた。
薄い天外が降りたベッドでは男も女も、何も身につけず、女の方がやや浅黒い肌をした男の身体に蛇のように手足を絡ませている。
相手の男は老齢で、年相応に皮と骨が多くなっていたが、その下にまだ筋肉があるのが分かる。手もゴツゴツとしており、剣を幾度も振るってきた手だ。そして、行く度にも血にぬれてきた手でもある。
「もう暫だ。時期に武器も火薬も揃う。血気盛んな王子どもも少しはこの戦で発散すれば良いのだ。全く、誰に似てあんなに血の気が多くなったのか」
「うふふっ、それは王様に似たのでしょう? 知ってますのよ、私。王様が昔たった十八歳でほかの兄王子から、まだ目も開いていない王子達までみんな手に掛けたこ、と」
クスクスと笑いながら女は王の、カラル国王の首筋に唇を這わす。女の声は焚かれている香よりも甘く、依存させるかのように臓腑に染み渡る様な声だ。
「ふははっ! 儂に似たか! お前もよく、そんな昔の話しを知っていたな」
「王様のその話しは有名ですもの。でも、私はその自分の欲しいものは何が何でも手に入れるという、その考え好きですわ…」
「王子達もかなり減ったが、まだまだ詰めが甘いわ。今は膠着状態で面白みがない」
カラル国王は自信の息子達が殺し合うのを楽しんでいるようだった。この王にとって王位を継ぐものは誰でもよかった。ただ面白い殺し合いが見れれば。
「次の戦ではきっと多くの殺し合いが見えますわ」
「ああ。楽しみで仕方ない。さて、そろそろその身体を再び味わうとするか」
王はおもむろに身体を起こし、女を自身の下にした。
「まあ、王様ったらまだお遊びになるの? ふふっ」
「ああ、そこらの若者に体力で劣る訳にはいかんからな」
「あっ…」
女の身体に顔を埋めた王は飢えた獣如くその肌に噛みつく。
昼か夜かも分からないその部屋で、時間だけが溶けていった。




