第8話
また短めです。
ギルド長室に呼ばれた二人は中央にある椅子に腰掛けるように勧められた。
「では、いきなり本題から入らせてもらうが、あのボア亜種はどこで見つけたんだ」
「トールの森ですよ。薬草採取とゴブリン討伐のクエストを受けていたので。そしたらあのボア亜種が現れたんです」
ジェリダはあったことを正直にラドックに話す。ラドックの方も特に疑っている訳ではないようで、深くまで追求することはなかった。
「大体の事情は分かった。おそらくトールの森で新たに主になった個体があのボア亜種なのだろう。新種の魔物は各地の冒険者ギルドに情報が行くことになる。それと、新種の討伐は報酬が普通のクエストよりも破格だ。そこは期待しておいてくれ。
最後に、一番重要なことなのだが、この新種のボア亜種を討伐したということに敬意を表し、君たちのランクをDランクからCランクへと昇格したいと思う」
それは、この冒険者ギルド最速のCランク昇格だった。だが、ジェリダは少し不満そうな表情だった。その意味を正確に汲み取ってラドックは続ける。
「他の冒険者ならばAランクへ昇格などもあり得るが、君たちには早すぎる。まだ冒険者になって二日目だ。
君が不満な表情をしている理由はなぜBランクやAランクではないのかということだろう? だがな、多くいる冒険者の中でも特にBランク昇格はそれなりの才能がないとなることは難しい、いや、才能がなくても中にはBランクへなる者もいる。だが、そういう者に限って魔物にやられて命を落としやすいんだ。だから、まだ君たちをBランクへ上げる訳にはいかないのだよ」
ジェリダたちが立てた功績は十分Bランク冒険者に匹敵する。だが、圧倒的に経験値が足りない。そう判断をされたのだ。
(まあ、自分の力を過信したら痛い目を見るのはこの前味わった訳だし、ここは素直にこの昇格を喜ぶしかないか)
装備をまともに用意していないままトールの森に入ったせいで、男たちに絡まれ、ジェリダのスキル情報を聴かれたばかりか、ルベルを殺されかけた。最初に自分の力を過信しないようにしようと思っていたジェリダだったが、やはり心の何処かに過信している部分があったようだった。もう、二度と同じ轍は踏まないと心に刻む。
「分かりました。昇格ありがとうございます。とりあえず、当分は私たちに足りない経験値を稼ぎに行きますよ」
「ああ、君たちならこのホロル冒険者ギルド初のSランク冒険者になれるかもしれない。期待しているよ」
報酬は受付で貰えるということで二人は立ち上がり、ギルド長室を出た。ルベルはギルド長室で終始無言だった。その顔は俯いていて、表情もどこか暗い。
「どうしたの? ずっと黙ってたけど」
「いえ……ただ、俺がいなかったらジェリダ様はBランクになっていたのかなと考えていて――いたっ!」
シュンとした表情のルベルにジェリダはチョップを食らわせる。少し力を籠めて。ルベルはジェリダを見返すと、怒った表情で腰に手を当てている。
「あ、の、ね。私は本当に最初ルベルを見た時に絶対にいい仲間になると思ったの。いい目をしてたって言ったよね? 私の言葉を信じない訳?」
「そ、そういうことでは!」
ルベルは両手をあわあわとさせて、否定する。そこにビッと人差し指をジェリダは突き出す。
「なら! 自分に自信を持って。現にレベルは私の方が少し上だけど、もうほとんど差はないし、HPやMPはルベルの方が私よりも上なんだよ? 自分の所為なんて考えないで。たった二日でCランクになる方がすごいんだから」
「…そうですよね。すみません、こんなくだらないことを考えてしまって」
「くだらないなんて、自分を卑下しない。次に自分を卑下するようなこと言ったらデコピン一回ね」
「は、はい!」
「よし」
ようやく顔が明るくなったルベルに、ジェリダは満足げに頷くとギルドの受付がある方へと向かう。その後ろをルベルは追いかける。受付の所に戻って来ると、まだ騒ぎを聞きつけた野次馬冒険者たちが集まっていた。
その中から、他の冒険者とは雰囲気の違う男がジェリダの前に出て来た。
「よう、ルーキー。一昨日冒険者になったばかりだってのに新種の魔物を発見したんだってな。やるじゃねーか」
そう言ったのは長い柄に幅が広く長い片刃の刀身を付けた大刀を背負った大柄な男だった。
その男は精悍な顔立ちをしていた。切るのが面倒なのか長い前髪を後ろに流し、少し伸びている後ろの髪を一つに括っている。はらりと頬に掛かる後れ毛は大人の色気を醸し出す。自分の身の丈よりも大きな大刀を振るう腕は太く、みっちりと筋肉がついている。大きな武器を振り回すだけあって軽量化を意識しているのか、装備はアーマーなどではなく布のや皮を中心にした服装だった。防具として付けているのはガントレットのみ。
その男の顔、態度、言葉からジェリダは不快感を感じていた。
(馴れ馴れしいな。でも他の冒険者たちと違って隙が無い感じだな。何者だろ)
ジェリダはすぐに鑑定を使う。
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名前 ブレイブ
職業 大刀使い・槍使い・槍兵
種族 人間
年齢 38歳
称号 破壊神
LV 68
HP 2710
MP 1166
《スキル》
大刀術 LV 9
槍術 LV 7
威圧 LV 6
剛腕 LV 9
察知 LV 5
解析 LV 6
鑑定 LV 5
《固有スキル》
戦士の勘 LV 7
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(今まで見て来た冒険者の中で一番強い! しかもスキルレベルがどれも5以上はある)
「へーえ、俺よりも鑑定スキルが高いのか。やるなぁ。だが、解析スキルは持ってないのか。ふむふむ、筋力は剛腕があるからある方だな。そっちの方は筋力がまだまだだが、エルフの魔力は高いな」
「……!」
ブレイブのその言葉はジェリダに衝撃を与えた。自分の方が鑑定スキルは上のはずなのに、自分のパラメーターが読まれている。だが、筋力などは鑑定で見たことはない。
「はは、解析スキルだよ。筋力や俊敏、魔力、運なんかは解析スキルで見ることが出来るんだよ」
ジェリダの心を見透かしたかのように言うブレイブはにやにやとそう教えてくれた。ジェリダはますますその顔と心を見透かされたその台詞に苛立ちが募る。それを感じ取ったルベルがブレイブの視線を遮るようにジェリダの前に立った。
「そんな警戒すんなよ。別にお前らをいじめに来たんじゃねえんだ。ただ俺が所用で他の町に行ってたたった数日で新進気鋭のルーキーが現れたんだ。少しは顔を見てみたいだろ。だが、ここにいる奴らがお前たちをどうして止めなかったのかというのが俺は少し気になるんだがなあ」
そう言ってブレイブは周りに視線をやる。すると誰もが気まずそうに視線を逸らした。空気が少しピリピリとする。どうやらジェリダたちが冒険者になったことが少し気にならないらしい。それを止めなかった冒険者たちにも睨みをきかせる。
「ああ、そうだ。まだ名乗ってなかったな。まぁ、そっちの嬢ちゃんは鑑定で視て知ってるだろうが、名乗らせてもらおうか。
俺はAランク冒険者のブレイブだ。もう一人Aランクのジェニオって奴がもう一人いるがあいつは今王都に行ってる。ま、よろしく頼むわ」
それだけ言い残すとブレイブは冒険者が道を開けてギルドから出て行った。
ジェリダは絶対にあの男とは気が合わないと思いながら、ブラックリストに刻んだのだった。
その日冒険者ギルドから出た報酬はゴブリン討伐と薬草採取クエストの金額を合わせて金貨三十枚と銀貨二枚、銅貨四枚になった。
『おお~~!!』
その報酬の額に周りの冒険者たちが声を上げるほど、その金額は大きなものだった。
「こんなにもらえるとは思わなかった……」
流石にジェリダでも目を丸くしてその金額を受け取った。ずっしりとした金貨の重さが手に伝わる。
「良かったですね。ジェリダ様。これがあったら小さな土地が買えてしまいますよ」
その言葉に電光石火のようにジェリダはルベルの方を振り向いた。
「それ本当!?」
「え、え、はい。家も建つとは思いますが。それか家を買っても余裕があるかと……」
「そう、そうなの」
ジェリダは何かを思いついたのか、にやにやと笑いだした。たった二日でこれまでの金額を手に入れたということだけがその笑顔の理由ではなかった。
と、さっきギルドを出たばかりのブレイブが再び戻ってきた。その瞬間ジェリダの顔があからさまに嫌な顔をした。
「おいおい、そんな嫌そうな顔すんなよ。お前ら、俺について来い」
その言葉にリリィがサッと顔を青ざめた。
「待ってくださいブレイブさん! まさか闘技場に行くんじゃないですよね!」
「そのまさかだが? これだけの短期間でCランクになったんだ。腕試しぐらいしたいじゃねえか」
「ジェリダさん、駄目です。ついて行ったら。断って――」
「いいよ、私もあんたのその全てが気に食わないの。行きましょう、どうせ新人いびりみたいなものなんだろうし」
ジェリダは制止するリリィの言葉を遮ってブレイブの誘いに乗ってしまった。冒険者たちはざわめく。
「ほう、分かってんじゃねえか。度胸のある奴は好きだぜ」
さも楽しそうに言うブレイブは言う。
「駄目です! ルベルさんも何とか言ってくださいよ!」
「俺はジェリダ様が決めたことなら何だろうと従います」
「よっし、決まりだな。ついて来い」
そう言って背中を向けたブレイブにジェリダとルベルはついて行く。その背をリリィは不安そうに見送った。
次は3月25日21時に更新です。