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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第四章 名もなき竜編
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第78話


ホロルまでの道のりは、来るときと同じようにたいした出来事もなく、ほぼ順調に進んでいた。ただ、フルルに長時間乗り慣れていないセリオには疲労の蓄積が早い。小さな体で必死にそれを隠していたが、併走していたルベルがいち早く気づいて、こまめに休憩をとっていた。


「セリオはちょっと肉をつけた方がいいね」


「ん?」


 夜になり、たき火を囲みながら食事をとっていると、ジェリダは唐突にそう言った。干し肉をかじっていたセリオは口に肉を半分ほおばったまま、ぱちくりと目を瞬かせる。


「あの村にいてあまり食事の量がなかったのもあるけど、あの飛竜(ワイバーン)の件でけが人の治療とかもあっただろうから、肋骨が浮き出てる。腕もその年にしては細すぎだから、ホロルについたら最初のうちは魔物相手にするより、ご飯食べて家のことしてもらおうかな」


「そ、そんな!」


 セリオはジェリダの言葉にショックを受ける。セリオは自分の体を見る。手足は骨がどこにあるのかわかるほど細り、服の下もジェリダの指摘通り、肋が浮いてしまっている。これでは、一番弱いゴブリン相手でも骨を折られてしまいそうに思える。


 村を出たばかりの頃のジェリダも今のセリオと変わらないほど痩せていた。元々、後衛向きの魔法を使えたために、最初から剣を振り回すことなどなく、冒険者として行動できた。だが、セリオの適正職業はルベルと同じく前衛向きだろう。魔法に対する適性もあるようだから、魔法剣士などの適性があるだろう。


「俺もそれには賛成です。なにも、家のことばかりしろとは言わないから。小さな剣でも買って、少しずつ筋肉をつけていけばいいよ」


「お、俺だって! 竜の血が混じってるんだ! そんな柔じゃない! ルベルの剣だって使える!!」


 セリオは顔を赤くして、二人に言い返す。ルベルとジェリダはお互いに顔を見合わせる。どうやら、言い過ぎてしまったらしいと。幼い少年の心に傷をつけてしまったようだった。だが、このまま他の言葉を言っても、セリオも引っ込みがつかないだろう。ルベルは少しかわいそうかなと思いつつも、自身の剣をセリオに片手で渡した。


 鞘に収まった剣をセリオもルベルと同じく片手で受け取ろうとする。


「離すよ」


 そう言ってルベルが剣を離した瞬間、セリオの手にずっしりとした重さがかかる。


「っつ!」


 剣を落としそうになったセリオは、思わず両手で剣を支える。が、それでも剣を支えきれずに剣から手を離してしまった。


「ほらね。まだセリオには持てないよ。大丈夫、君ならすぐに持てるようなる」


「ルベルの使ってる剣はね、特別なの。エルフの特性上、ルベルにはあまり筋肉がつかないから、軽いものを使ってるの。それが持てないなら、しばらくは冒険に出たら危ない」


「……くそっ」


 セリオは悔しげな表情で、ドスンとその場に座る。ルベルは自身の剣を拾い上げ、腰に戻す。鳥のくちばしのようにセリオは口元を尖らせ、ムスッとしている。


 その日は、それ以上セリオは口を開かず、眠ってしまった。規則正しい寝息が聞こえてきた頃、ジェリダとルベルも口を開いた。


「まあ、結果は見えてたけど。しばらくホワイトウルフやトロイ達と遊んでたら、勝手に力もつくでしょ」


「そうですね。彼らは…じゃれつくにしても、力が強いですからね……」


 ルベルはやや遠い目をしていた。ジェリダに置いていかれ、何度か長期の留守番をしていた頃、庭で剣の練習をしようと出れば、ホワイトウルフ達がじゃれついていた。そこからは、嵐のような喜びようで、一頭だけでなく何頭もルベルに押し寄せ、ベロベロと顔を舐められる。


 端から見ればホワイトウルフに襲われているようにしか見えなかっただろう。だが、誰もルベルを助けてくれず、ホワイトウルフ達が満足して距離をとった頃には、涎まみれの毛まみれだった。


 ジェリダのことはボスとしているようだが、ルベルのことは同等とでも思っているのだろう。いや、もしかしたら一番下と思っているのかもしれない。じゃれ方に遠慮がない。


「冒険者ギルドには報告に行くけど、セリオの冒険者登録は先延ばしね」


「そうですね。ただ、サウファさんのことや、イアンと言っていたあの少年のことは報告するんですか?」


「……そこが悩みどころなんだよね。でも、ただの冒険者ギルドに同行できる問題でもない気がするし、かといって私たちだけじゃどうにもならないし…」


「あの、師匠、ジェニオ様に言うというのはどうでしょう」


 ジェニオならこの国の王宮に頻繁に出入りしている。何より、あの王子の側に控えていることが多い。ジェニオに離しをすれば、必然的にあの演技をしている王子の耳にもはいることだろう。


「それしかないかな、現状は…。ただ、今はホロルに来てるかどうかが問題ね。あのおっさんが連絡手段もってそうだけど、あれも帰ってきてるかわかんないし」


「ラドック様のことお嫌いですね……」


「あんなおっさんに様付けしないでいいよ。おっさんでいいのよ。おっさんで」


 ジェリダは未だに出会って間もない頃のことを根に持っているようだった。ルベルは苦笑する。


「でも、なんだかんだ言って優しいじゃないですか」


「どこがよ…。まあ、あのおっさんのことは置いといて、この件はホロルについてからギルド長にどっちかと連絡が取れないか聞いてみたらいいか」


「そうですね。俺が先に日の晩をするので、ジェリダ様は先に寝てください」


「わかった。ありがとう」


 パチパチというたき火の音を聞きながら、ジェリダは眠りについた。




 あの夜、拗ねて寝てしまったセリオだったが、次の日には機嫌が多少回復していた。だが、自身の体の細さは気になるのか、食事の量が増えた。食料に余裕はあるのでジェリダもルベルもセリオが食べる分だけの食料を渡ていた。


 そして、三人はようやくホロルの町に戻ってきた。


「でか……」


 セリオは今まであの村を出たことがない。というよりも、あの村にいるほとんどの者が外をあまり知らない。セリオは初めて見る森の木以上に大きな、ホロルを囲む壁に驚きの声を上げる。


 門をくぐり、町の中に入る。セリオは入った瞬間から口を開けっぱなしにしながら、首を左右に動かしている。これほどまでに多くの人を見たのは初めてであり、また、店がたくさんある町に入るのも初めてだったからだ。


 フルルを返しに行き、三人は歩いて冒険者ギルドに向かう。その間もセリオは物珍しそうに辺りをキョロキョロとしていたとき、自身に人々の視線が突き刺さるのを感じてハッとなった。ひそひそとセリオを見ながら話す者や、遠くから嘲笑している者もいる。


「またあんなのつれてるよ、あいつ」


「赤目のエルフ、ホワイトウルフの次は亜人か? しかも、蛇みたいな鱗を持ってるじゃねーか。なんだありゃ」


「異形集めが趣味なのかね」


 セリオの表情が急に暗く険しくなる。わかってはいたが、こうも色々と言われると、腹立たしさも溢れるというものだ。だが、それ以上に自分を仲間にしてくれたジェリダとルベルのことを悪く言われることの方が、余計に悔しかった。


 セリオが何か言ってやろうと口を開きかけたのを、すっと、ジェリダが手を伸ばしてきて止める。


「言ったって無駄。言っても聞く耳なんて持っていないだろうし、何より、あなたが言った言葉に尾ひれをつけて広めるかもしれない。そうなったら面倒だから、やめて」


「俺は――!」


「ジェリダ様、そんな強く言わなくても…。彼らは自分と違うのが怖かったり、うらやましかったりするだけだよ。だから気にしなくていい。堂々と胸を張っていればいいんだ。ね?」


「……わかった」


 ジェリダの言葉にルベルが補足して、セリオも引き下がる。そして、ルベルに言われたように、堂々と胸を張り、ひそひそと三人のことを噂する者をキッと睨み付けて歩く。すると、彼らは小さなセリオの瞳にたじろいでいた。


 視線が突き刺さる中、冒険者ギルドの前に到着した。そこでも、近くにいた冒険者がじろじろとセリオのことを見る。それにセリオは睨み返しながら、ジェリダ達に続いてギルドの中に入った。


 わいわいと騒がしいギルド内だが、ジェリダ達が入ればやや静かになる。ここでも、町中以上に注目を浴びる。だが、ジェリダもルベルも慣れたものだ。受付の方に向かい、もうだいぶなじみになったリリィに声をかける。


「リリィさん、ギルド長に頼まれていた件が終了したのでその報告に来ました。ギルド長はいますか?」


「無事のお戻り何よりです! ギルド長室にいますので、ご案内します」


 リリィはジェリダ達のことを笑顔で出迎えてくれる。三人はカウンターの奥にあるギルド長室へリリィの案内でついて行く。ギルド長室の前に来ると、リリィが扉をノックする。


「ギルド長、ジェリダ様達が戻られました。依頼されていた件の報告出そうです」


「入ってくれ」


「どうぞ」


 リリィが扉を開けてくれる。ジェリダとルベルは中にはいる。セリオも中に入るとき、チラリとリリィを見る。と、リリィは笑顔をさらに深くして、口を開いた。


「とっても綺麗な髪色ですね」


「っ」


 セリオは突然褒められて、顔を赤くする。何も言えずにセリオはぺこりとお辞儀だけして中に入った。


「何を話ししてたの?」


「な、なんでも……」


「そう。じゃあ、ここ座って」


 セリオは赤くなった顔を隠すようにややうつむいて答える。さして興味のなさげなジェリダは、長椅子の端を示す。ジェリダとルベルは長椅子にすでに座っており、セリオはルベルの横に座った。


 正面にはラドックが座り、本題を切り出した。


「まずは、今回の件は本当に助かった。戻ってきたと言うことは無事に解決したんだな」


「はい。飛竜は退けました。これで大丈夫だと思います。ただ……」


「ただ、か。まあ、そんな気はしていた……続けてくれ」


 ラドックは手のひらで顔を覆う。ジェリダは淡々と続ける。


「ただ、今回の件は人為的なものでした。ある組織がある事情により関わっていました。この件は私たちやギルドにも手に余ると思い、ジェニオに直接伝えたいのですが」


「ジェニオに直接ということはかなりの大事だな。君はその組織のことは知っているのか」


「何度か関わったことがあります。ちょろちょろと逃げ足の速い奴らです」


「なるほどな。ジェニオに連絡手段がないこともない。私が、ジェニオに連絡をしてみよう。返事が返ってくれば、すぐに君に伝える。ところで、そこの子はいったいどうしたんだ?」


 ラドックはセリオに視線を向ける。セリオもラドックの方を見る。ラドックの目にはセリオを差別するような色が含まれていなかった。


「この子はセリオと言って、今回の件で向かった村にいた子供です。私たちの仲間になって、この子のような混血の人々の地位向上を目指すそうですよ」


「それはなかなか大きな夢だな。なら、今日冒険者にこの子はなるのか? だが、君たちの場合はほぼ特例のようなもので冒険者にしたが……」


「大丈夫です。しばらくは冒険者登録はしません」


 そう言いながら、ジェリダはルベルを跨いで素早くセリオに手を伸ばすと、ガバッとセリオの来ていたシャツをめくりあげる。


「この子はあまりにも肉がないので、しばらくは太らせることに専念します」


「な…何すんだよ!!!」


 あまりの衝撃に声をなくしていたセリオは、ようやく我に返り、めくりあげれたシャツをおろした。その顔はリリィに褒められた時より真っ赤になっている。ラドックはハアとため息をついてセリオを哀れに思った。


「君なぁ、もう少し優しくしてやらないか」


「服をめくられた程度で何を騒ぐんですか」


 流石にルベルもセリオを哀れに思ってしまう。優しくセリオの頭を慰めるように撫でてやった。




 報告を済ませ、冒険者ギルドを出る。そこでジェリダはくるりとセリオの方を振り返る。


「そういえば、セリオは自分の持ち物はどれくらい持ってきてる?」


「服と、父さん、母さんの遺品以外持ってきてない」


「わかった。ルベル、この子連れて買い物行ってきて。私は錬金術ギルドのレントのところ行ってくるから」


「わかりました」


 ジェリダはルベルにお金を渡し、そこで分かれた。ジェリダはしばらくほったらかしにしていたレント達がどうなっているか見に行くことにした。



日時はまだ未定ですが、今月中には更新いたします。時刻は21時です。

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