第64話
この場所のボスであるオーガ亜種は同じ者が訪れようと同じセリフを言って戦闘を行う。ボスの部屋に入れば辺りを無数の松明が辺りを照らし、白骨化した冒険者達の山からオーガ亜種のガガルが見下ろしてくる。
「ニンゲン、ガ、クルノハ、ヒサシブリダ」
つい最近もジェリダ達が訪れたのだから、久しぶりという事もないだろう。訪れるのが二回目のジェリダやデリクからすれば、このガガルが何者かに操られているように思えた。だが、今はそんな事を気にしている暇はない。
ジェリダとジェニオ以外の調査隊のメンバーは壁際に固まり、ジェニオが頑丈な結界を施す。
「チイサイナァ、ニンゲン、ハ。ブヒヒヒヒヒ!」
トロイがいなかったからか、トロイを馬鹿にした台詞は言わなかったが、人間を蔑むような子の台詞は同じだった。
「では、ジェリダさん。少し手間取りながらあのオーガ亜種を倒してくださいね」
「……分かってる」
ジェニオはジェリダにある事を伝えていた。それは、すぐに戦闘を終わらせるのではなく、少しダメージを食らいながら、苦戦してからオーガを倒して欲しいとの事だった。
「もちろん、怪我は私が治します。ダメージを食らった振りでも構いません」
ジェニオは後衛、ジェリダは前衛で倒すという事になっていた。実力的にはジェリダよりもジェニオの方がはるかに上だ。だが、ここはどうしてもジェリダでなくてはいけないのだというのがジェニオの言だった。
ジェリダは身に着けていたローブを鞄に仕舞うと、ガガル目がけて駆け出した。ガガルもジェリダの行動に反応し、戦闘の構えを取った。ゴウという音と共にガガルは棍棒を振り上げた。
「プギギイイイイィィィィィィィ!」
ジェリダの真上に振り下ろされた棍棒で地面は大きな陥没痕を残す。だが、そこに血の跡やジェリダの姿はない。
「こっちよ、のろま」
いつの間にかガガルの背後にいたジェリダはファイヤーボールをガガルに打ち込む。だが、ファイヤーボールはポンとガガルの体に当たっても火傷一つ負わせられない。
「プギャギャギャ! オマエ、ノコウゲキ、タイシタコトナイ!!」
完全にジェリダを無力な相手だと思い込んだガガルは棍棒を大降りに振り回し、ジェリダをもう一度叩き潰そうと攻撃した。
「くあっ……!」
ジェリダはジェニオの要望通りガガルの攻撃をあまりダメージを追わない程度に食らった。ごろごろと地面を転がり、よりやられた感を出す。そのジェリダの姿を見て調査隊の兵士達は結界の中でざわついていた。
「あんな子供にオーガの相手をさせるなんて、ジェニオ様は何を考えているんだ」
「完全にあの子はいたぶられて殺されるだけだぞ!」
前回ジェリダの実力を見たことがない兵士ばかりがこの隊に編成されているため、そんな声が上がっているが、ジェリダの実力を知っているデリクからすれば今のジェリダは何を遊んでいるんだと思えてしまった。
(前回はすぐに倒したはずなのに何をしているんだあいつは。ジェニオ様の方が実力はあるだろうに、何故後衛なんだ……)
デリクが眉間にしわを寄せて考えていると、視界の端にまるで自分が傷付いているかのように、痛々しい表情をするエルバートの姿があった。そのエルバートを見てデリクは薄っすらと、ジェリダの今の行為の理由が分かったようだった。と、隣にいたカルムがデリクに声を掛けてきた。
「おい、デリク。ジェリダ、あのオーガに押されまくっているじゃないか。止めなくていいのかよ」
「大丈夫だ。ジェリダは恐らくジェニオ様の考えに協力して今の状況をつくり出してる。あいつは元々俺よりもはるかに強いんだ。心配いらない」
「え!? ジェリダってデリクよりも強いのか!?」
「ああ、不本意だがな。あそこまで実力が開いていたら認めざるを得ない」
素直にデリクが実力の差を認めた事にカルムは驚いていた。デリクは自分に自信を持っている。それだけの実力もある。だからこそ高いプライドを持っていたのだが、ジェリダに対する姿勢は尊敬を含んでいる様でもあった。
「デリクがそこまで言うなら、ジェリダは大丈夫そうだな」
安心したカルムはジェリダの戦いを静観する事にした。その間にも、ジェリダは姿だけはボロボロになって行く。特に目立った怪我はしておらず、ガガルに弱い攻撃をワザと繰り出していた。
「ギャハハハハ! チイサイ! チイサイナァア、ニンゲンハ!」
完全に自分が優位だと思い込んだガガルはジェリダを棍棒で吹き飛ばした。その先にはジェニオがいた。ジェニオも演技に手を貸すため、あえてジェリダの体をもろに受け止めて一緒に地面を転がった。衝撃はジェニオが魔法で完全に消したが、ジェニオは土まみれになる。
「ったた……標的に私も含めたんですかね」
「いつまでこんな事してればいいの? 飽きて来たんだけど」
ジェニオの元まで飛んできたジェリダはうんざりした様子で話しかける。ガガルはf
「そうですねぇ……そろそろいいでしょう。パパっと片付けてくれていいですよ」
ジェニオは決壊に守られているエルバートの様子をチラと横目で見てからそう言った。やっとか、という思いと共にジェリダの目つきが今までのものとがらりと変わる。
「じゃあ、派手に行こうか」
コキっと首を鳴らしたジェリダは杖を強く握りなおした。そして、周囲にいつもつくり出している炎の蛇と共に、ファイヤーボールをつくり出した。その大きさは最初にガガルに当てたファイヤーボールよりもはるかに大きく、数も多い。
「ナンド、ヤッテモオナジ、ダ。ニンゲン、ハヨワイ!」
「そう? この攻撃は今までのものとは桁違いよ?」
そう言って、ジェリダは杖を横に薙いだ。周囲に形成されていた炎の蛇とファイヤーボールはそれを合図にして一斉にガガルへと襲い掛かった。そして、ガガルの体に当たったファイヤーボールは爆発音と共に弾けた。
「プギイイイイイイィィィィイイイイ!」
ガガルから悲鳴が上がる。ガガルは今回の攻撃も大したことがないだろうと、避ける事をしなかったために、攻撃の全てをもろに食らってしまった。
「さ、これからが小さな人間の逆襲よ」
ニイとジェリダは口角を上げた。
次は8月22日21時です。




