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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第三章 ダンジョン編
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第61話

 


今回は熟練者も多いため、隊長挨拶などは簡潔に済まされてすぐに出発した。ジェニオと一緒にいたあのへっぴり腰の青年は共に歩いてくれているジェニオの後ろに張り付いて、しきりに周囲を気にしていた。


「あのへっぴり腰はどうしたんだろうな? 特に俺達の後輩って訳でもないだろうから、ジェニオ様と縁のある奴なんだろうが、あんなのでこの調査隊に加わって大丈夫なのか?」


「どうせジェニオ様が守るんだろう。何の目的なのか分からないが足手まといにはなって欲しくないな」


 今回もジェリダと同じアイザックの隊に振り分けられたカルムとデリクもあの青年が気になっているようだった。ジェニオは隊長挨拶の時に軽く今回の調査に同行する目的を話していた。ジェニオが今回の調査にいるのは珍しいダンジョンを見て研究をしたいという事が主な目的だそうだ。だが、あのへっぴり腰の青年を連れている時点でその目的は建前だろうと誰もが分かっていた。だが、名の轟いているジェニオの事だ。何か理由があるのだろうと誰も追及はしない。


 以前と同じくフィルム渓谷では魔法が使える者が使えない者を下まで降ろす。今回はジェリダがカルムを降ろすのではなく、仲が改善したデリクがカルムを下まで降ろしていた。


「い、いやだああああ!」


 ジェリダが他の兵士をまとめて下に降ろそうとしていた時、悲鳴に似た声が聞こえた。声のした方を見ると案の定あのへっぴり腰の青年がジェニオにしがみ付いて震えていた。


「エルバート、この程度でそんな悲鳴を上げないでください。みんな見てますよ? 一瞬で下に着きますから」


 ジェニオは困ったような表情でエルバートを宥めていた。だが、エルバートは首をブンブンと振るだけでジェニオを放そうとしない。呆れてしまったジェニオは困った表情から、鬼教師の目になった。


「エルバート。これも試練です。乗り越えなさい」


 そう言うと、ジェニオはエルバートを無理やり引き剥がすと子猫でも放り投げるように谷へと落とした。


「うわぁぁぁぁぁああああああああ!!」


 力の限り叫んだエルバートは下へ落ちる感覚から一転、ふわりとした浮遊感を感じた。ジェニオが浮遊の魔法を掛けたのだ。エルバートはゆっくりと谷の底に降りるとパチンと泡がはじけるように魔法が解かれ、地面に降りた。その後を追うようにジェニオは谷からひょいと飛び降り、エルバートの時とは違い、直前に浮遊魔法を掛けてさっさと降りてしまう。


「ジェニオ! 僕を殺す気か!」


 半泣き状態でエルバートはジェニオに詰め寄る。だが、しれっとした表情でジェニオはエルバートを見下ろす。


「実際死んでいないんですから大丈夫です」


 一連の行動を見ていた兵士達はあまりのエルバートの情けなさに笑い出す。渓谷内を兵士達の笑いがこだまする。エルバートは自分が笑われていると気付いて、顔を真っ赤にして俯いてしまう。兵士達が笑う中、ジェリダは笑うどころか呆れていた。それは隊長のアイザックやカルム、デリクも同じようだった。


(これはまた、一波乱ありそう……)


 ジェリダの不安はそのまま的中した。




「ぎやぁぁぁあああああ!」


「ヒィィィィイイイイ!」


「来るなああああああ!」


 ダンジョン内に入ってからのエルバートの行動は、それはもう、顔を覆いたくなるほど酷いものだった。


 まず最初に当たった敵はビックアントの群れだった。二十体ほどが襲ってきた。エルバートは剣を武器として装備していたため、当然前衛となる。だが、ここまで使えない前衛もいないという程にエルバートは逃げ回っていた。


 最初の内は笑ってみていた兵士達だが、その内に呆れに変わり、やがてイラつきへと感情が変化していた。流石にここまで走って敵から逃げ回られると、後衛の魔法を使う兵士や弓兵は誤射しかねない。エルバート一人のせいで隊全体の連携に問題が発生していた。


「何なんだあの若造は。全く使えんではないか」


「何故ジェニオ様はあの青年を連れて来たんだ。社会見学にしてもこの場はあっていないだろ」


「あいつのせいでいずれ怪我人や取り返しのつかない事になったら、ジェニオ様はどうするつもりなんだ」


 エルバートへの怒りは次第にジェニオにも向かうようになっていた。だが、逃げ回るエルバートをジェニオが何とか落ち着かせ、ビックアントに立ち向かわせていた。


 今回の調査ではジェリダは最初後衛を担当して欲しいと言われた。前衛になるのは岩ヒョウ辺りが出た時に前衛に出てきて欲しいとの事だった。そして、後衛で前衛のサポートをしていたジェリダはエルバートに対するイラつきがかなり募っていた。


(何か理由があろうがあの男は邪魔すぎる。何度私のサポートを邪魔された事か!)


 ジェリダがサポートしようとしていた箇所はジェニオがサポートを回していたが、それでも後衛の者たちはイラつきを隠せていなかった。


 そして、あまりにもエルバートが大声を出すため、その声を聞きつけた魔物が次々と集まってきてしまい、連戦となってしまった。それが終わる頃には、隊内の雰囲気が最初より悪くなってしまった。それを多少感じ取ったのか、少しは慣れて来たのか大声で逃げ回る事はなくなったが、まともに敵と戦えていなかった。


 流石にジェニオの表情からも呆れの表情が消えない。だが、ジェニオはきつく叱る事はなく、諭すようにしてエルバートを指導していた。それが余計に周りの兵士達の不満を高めていた。


 エルバートの行動のせいで、一日目はあまりにも消耗しすぎたため、目的の四階層まで行く事はなく、三階層で野営ということになった。エルバートはジェニオに言われて兵士達に混じって食事の準備をしていた。ジェリダも今回は料理の支度などを手伝う。流石に、兵士達は大人のため、低レベルな嫌がらせや裂けると言った事はしなかった。カルムもデリクも言いたい事をぐっと堪えてエルバートと共に料理をしていた。ジェニオはエルバートが作業する姿を少し離れた所で見守っていた。


 だが、エルバートは今まで料理をした事がない。知識としては理解していても、その手付きはとても危なっかしいものだった。


「エルバート、ナイフをそう持ったら怪我する――」


 カルムが石に腰かけて野菜の皮を剥いていたエルバートに、ナイフの持ち方を指摘した時。不意にカルムの方をナイフごとエルバートが振り向いた。そして、そのナイフがカルムの手の甲を切ってしまった。


「っつ!」


「す、すまない! 大丈夫か!?」


「貴様! いい加減にしろ!!」


 エルバートはカルムを傷つけてしまい、焦った声を出す。カルムは大丈夫だと言おうとしたが、それよりも早く怒りの声が響いた。デリクだ。


「ここには遊びに来てるのか!? 戦闘になれば逃げ回り、大声を出して無用な敵をおびき寄せ。挙句、仲間に怪我をさせた! 何を考えているんだ。これまでの戦闘だって、貴様のせいで何度仲間を危険に晒したと思ってる!」


 その言葉はこの場にいる兵士達全員が持つ不満や怒りだった。周囲はしんと静まり返り、みな成り行きを見守っている。エルバートはデリクと周囲の気迫に完全に圧され、涙が溢れそうになっていた。助けを求めてジェニオを見るが、目を瞑り、助け船を出そうという様子はない。


 周囲の視線、不満、怒りがエルバートに集中する。わなわなと唇を震わせたエルバートはキュッと口を引き結んだかと思うと、本来ならば行ってはいけない言葉を口にしてしまった。


「わ、私はフィルム大国国王のエルバート・レルフだぞ! その言葉は不敬であろう!」


 周りの圧に耐え切れなくなったエルバートはその言葉を口にしてしまった。その言葉は自身の権力を傘に着る者の言葉でしかなかった。周囲がエルバートの言葉にざわめく。だが、その中で一人、ジェリダは立ち上がった。つかつかとエルバートの元に歩いて行く。再び周囲が静まった。そして、エルバートの前に立ったジェリダは立ち止まってエルバートを見下ろす。


「なっ、なんだおま――」


 その場に乾いた音が響いた。


 誰もが目を瞠り、時が停止したように息を止めていた。そんな中、ジェリダは口を開いた。


「あんな情けない行動しといて、何が国王よ。あんたみたいなへっぴり腰が王なら、あんたの国に未来はないでしょうね。私はワ国の王女にあった事があるけど、弟を失ってもなお威厳を保っていたし、力強い瞳をしていた。あんたとは大違いよ」


 エルバートはジェリダに叩かれた頬を押さえ、茫然とその言葉を聞いていた。一瞬目をすがめ、エルバートを嫌悪するように見た後、カルムの手を取った。


「カルム、大丈夫? すぐに治すから」


 カルムの手の甲の傷は浅かったようで、出血は止まっていた。しかし、血が指先を伝って数滴地面に落ちていた。ジェリダはすぐにカルムの怪我を魔法で治療し、綺麗に傷を塞いだ。


「すまん。ありがとな」


 周囲の空気は次第に弛緩していき、各自が持っていた仕事に戻る。デリクはもう用はないとさっさとその場を離れる。ジェリダもカルムも料理の支度へと戻って行った。だが、エルバートだけはしばらくその場から動けずにいた。そこにようやく、ジェニオがエルバートの元にやって来る。


「エルバート、立てますか。ああ、これは盛大にやられましたねぇ」


 ジェリダに叩かれた頬を見てジェニオは苦笑いする。魔法で直そうとして、エルバートはそれを遮った。


「いい。大丈夫だ」


 それだけ言うとエルバートは落ちていたナイフを拾い、野菜の皮剥きを再びやり始めた。そのナイフの持ち方はぎこちないが、他の兵を見て正しい持ち方になっていた。


次は8月2日21時に更新です。


【訂正】

勝手ではありますが本実の更新を延長させていただきます。

明日の8月3日21時に更新です。

楽しみにしていた方々、申し訳ありません。


【訂正とお詫び】

本日午後5時頃に玉突き事故に遭いましたので、更新を延期させていただきます。

今は大丈夫ですが、鞭打ちの可能性があり、書けるかが分からないのでしばらくの間、更新をお休みします。

楽しみにしていた方々、申し訳ありません。

更新の際は、活動報告とこの後書きにて連絡いたします。


【更新再開のお知らせ】

大変お待たせしました。明日の8月12日21時に62話の更新を行います。

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