第60話
ダンジョン辺らしくするつもりが、触りだけになってしまって申し訳ないですが、お楽しみください。
ポーション配布最終日、そこにはポーションを求める人々が多く集まり、列をなしていた。そして、その日もポーションはものの一時間とかからずに配り終えてしまった。
「今日が最終日ですから、一段と人の数が多かったですね。これなら明日の本格販売でも人が集まるんじゃないですか?」
ルベルは後片付けをしながらレントを振り返る。初日は完全に錬金術ギルドの商品という事で、周りからひそひそと噂されていたが、ポーションを実際に使ってみた者がいい評判を流してくれたお陰でここまで客の数が増えていた。
「さあ、どうだかな。ここに集まってるのはタダでポーションが貰えるからだろ? 販売となるとどうなるか」
ポーションは通常五級ポーションでも銀貨十枚。それをレントとジェリダが話し合った結果、なんと銅貨一枚で販売する事に決まった。四級ポーションは銅貨三枚、三級ポーションは銅貨六枚、二級ポーションは銅貨九枚、一級ポーションは銀貨一枚と銅貨三枚だ。この価格は完全に大元の錬金術ギルドを敵に回すような価格設定だった。
もちろん、その価格はポーションを販売する前に重要報告として大きな声でふれ回っておいた。破格の値段に並んでいた人々は驚きの声を上げていた。
「今までのポーションより遥かに安い値段なんだから、買いに来ない客はいないでしょ。それよりも、明日客が流れ込む事を予想して、ポーション作成の人員と売り子の確保はどうしなってるの?」
ジェリダは明日の本格販売には必ず人々が大勢回に来ると予想して、レントとピオ以外の錬金術師と数人の売り子を募集するように言ってあった。
「大丈夫! その辺はレントよりも僕の方がつては持ってるんだ。三十人くらいの錬金術師が確保できるよ。もちろん、腕は確かなやつばかりさ。売り子の方も募集した途端に大勢来てね。簡単に確保できたよ」
売り子に立候補したのは完全にレントとピオ目当ての者がいるだろうが、そこはピオの目に任せてあるので、下心だけの者は落とされているだろう。
「明日は私、ダンジョンの調査に行くための準備とか色々あるから手伝いに行けないから、売り子が確保できたならよかった。材料はルベルに運んでもらうから心配しないで」
「え、またダンジョンの調査に行くのか? 流石、Aランク冒険者様は違うな」
「ルベル君はついて行かないの?」
「はい。俺はまだまだ実力不足なので今回は付いていけないんです。でも、その間にみっちりと師匠に稽古してもらって力を付けるつもりです!」
やはり今回のルベルは留守番になってしまった事を嘆いてはいなかった。それはある意味彼の成長なのかもしれない。
◇◆◇
その頃、フィルム大国の王都ではジェニオがエルバート王を約束通りに迎えに来ていた。
「ジェニオ、この服はいつも着ている物より肌触りは良くないが、動きやすいな!」
エルバートは王が普段身に付けている豪華で重い服から一変、庶民的なシャツにズボンという簡素な服装に着替えていた。
「今日は城下に出ますからその格好の方がいいでしょう。明日はまた別の物を着て貰いますが。では、エルバート様。この人形に一度だけ息を吹きかけて貰えますか?」
「いいぞ」
ジェニオが取り出した手のひらに乗るほど小さな人形に、エルバートは息を吹きかけた。すると、人形がピクリと跳ねると、ぐんぐんと大きくなっていった。ジェニオの手から離れてすくすくとその場で大きくなる。そして、エルバートと向き合うように同じ大きさになると、一瞬で姿見がエルバートと瓜二つになった。
「わ、私がもう一人!? 魔法はこのような事も出来るのだな!」
「戦闘で変わり身として使ったりもするのですが、少し工夫を加えれば少しの間作業をこなしてくれます。これで準備は整いましたね。あとは、エルバート様に認識疎外用の魔法を掛けて……。これで堂々と私の後ろをついてきても、王城からエルバート様が抜け出した事は分かりません」
「特に変わった様子はないようだが……。ジェニオがそう言うならそうなのだろう!」
エルバートは完全に浮かれていた。昨日の陰鬱な表情はどこに行ったのやらと思う程だ。
「では行きましょうか」
「ああ!」
この時のエルバートは、まさか自分が一番苦手である剣を使うような場所に放り込まれるとは、欠片も考えていなかった。
ダンジョン調査の出発当日。ジェリダは以前と同じく南門へと集合していた。今回も早朝集合だったため、辺りに人の影は少ない。点呼を取っている兵に近付くと、見覚えのある背格好だと気付いた。すると、不意にその兵が振り向くとぱっと表情を明るくした。
「ジェリダ! ジェリダじゃないか! また今回の調査にも同行するんだな!」
そこにいたのは前回と同じく点呼を取っていたカルムだった。ジェリダは予想していなかった知り合いの姿に驚く。
「カルム!? どうして今回も同行してるの?」
「いや~、今回の調査に行くには試験があってさ。二名しかない枠だったんだが、見事に合格したんだよ」
ダンジョンの推定レベルが意外にも高く、今回は熟練の兵士達が主なのだが、若手の育成もしなくてはならない。という事で、若い兵士達の中から選抜試験が行われた。これに合格した者は、ダンジョン調査に参加しても足手まといにはならないだろうという証を得た事になるのだ。
「それはおめでとう! でも、二枠って事はもう一人はもしかして……」
「ああ、デリクだ。あいつがダントツで強いからな。俺はいつも二番手だ」
「当然だ。お前に負けるような俺じゃない」
カルムがデリクの名を出すと、すぐ後ろからデリクが姿を現した。
「ジェリダ、お前Aランク冒険者になったんだってな」
「え!? そうなのか! 早く言ってくれよ。俺の話しよりもジェリダの方がめでたいじゃないか!」
「お前は情報に疎すぎだ!」
何やら二人は前回の調査以降、仲が良くなったのか嫌味をデリクが言わなくなった。少しは彼も大人になったのかもしれない。
「あ、Aランクで思い出した。今回の調査にはジェリダと同じAランクのジェニオ様が同行するんだろ? でもなんか、びくびくした奴連れてなかったか?」
「ジェニオが?」
「ああ、ジェニオ様ならあの辺にいるだろ。だが、あの連れは新米兵士並みにびくつきすぎだな」
デリクの視線の先を追うと、ジェニオと姿があった。その横にはカルムとデリクの身長とほぼ同じくらいの、鎧を着た青年がいた。だが、何かをジェニオに訴えているようだった。ジェリダはその会話を盗み聞く。
「ジェニオ! 外の世界を見に行こうと言ったのに、ダンジョンに行くなんて聞いてないぞ!」
「エルバート様、苦手な物から逃げていては一向に克服できません。大丈夫です。いざという時は私があなたを守ります。ご安心を」
ジェリダがその会話を聞いていると、不意にジェニオがジェリダの方を振り向いた。ニコリと微笑んだのが遠めでも分かった。すると今まで聞こえていた会話がピタリと聞こえなくなってしまった。
(……会話を聞こえないように遮断された。流石にバレるか。でも、あの隣のへっぴり腰。ジェニオが様なんて付けるくらい偉い人物なの?)
ジェリダは今にも泣きそうな顔になっているへっぴり腰の青年を見つめた。
次は7月30日21時に更新です。




