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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
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第6話

いつもより少し文が少ないです。


「クエストで採って来た薬草の買取をお願いします」


 ジェリダとルベルの二人はトールの森で死体が発見された後、しばらく森で採取を続けていた。そして、夕方に差し掛かったあたりで二人はギルドに戻ってきた。袋いっぱいまで集めた薬草を受付のリリィに渡す。


「畏まりました。あ、そう言えばジェリダさん、トールの森で冒険者の死体が出たんですが、大丈夫ですか? 何か不審者何かを見てないですか?」


「え、そうなんですか! ごめんなさい、私たちは何も見てないです……」


 ジェリダは死体のことを初めて聞いたとでも言うように驚いた振りをした。もちろん、声までは出さなかったが、ルベルも驚いた反応をして見せた。リリィは特に二人のことを疑ってはいなかったのか、ほっとした表情を見せた。


「それは良かった。では薬草の買取を……えぇ!?」


 リリィは薬草を鑑定して思わず驚きの声を上げた。


「こ、こんなにも良質な薬草が採れるなんてすごいですよ……。ごほん、え、えっと。ベトニー、ベルガモット、リアン、トロープ、ジョーラム、マローの数が合わせて二十五個。良質は百十一個。それぞれの買取価格がありますのでクエスト達成報酬も合わせると、銀貨九枚、銅貨二枚、石貨六枚となります」


 その報酬は普通のDランク冒険者が稼ぐ四倍ほどもあった。近くにいた冒険者がジェリダたちをまじまじと見る。こんな子供がそんな大金をたった一日で稼いだということに驚きを隠せないでいた。


「こんなに! やったねルベル! ルベルのお陰だね」


「ありがとうございます。明日も頑張って採取しますね」


 報酬を受け取ると、二人は町の北区に向かった。そこで装備を買うためだ。


 北区には大小様々な鍛冶ギルドが存在する。質はそれほど変わりはしないが、大きな鍛冶ギルドほど生産性がよく、贔屓の冒険者も多いということだ。北区に近づくほど武器や装備を打つ大槌の音が響いて来る。


 北区の入り口と思われる所に来ると、武器の新調や購入に来た冒険者が見受けられた。他にも包丁を研いで貰う主婦もいた。


 鍛冶ギルドが多く存在すると言っても、そこにある全ての職人が鍛冶ギルドに所属しているという訳ではない様で、個人でやっている店も多くあった。鍛冶ギルドは立派な建物を有しているが、個人の場合は露店のようにして武器を売ったり、小さな窯をその場に造って、そこで武器を鍛える店もあった。


 リリィが言っていた通り、鍛冶職人にはドワーフやホビットが多かった。人間の鍛冶師はちらほらといる程度だった。


「色んな所があって目移りしちゃうね」


「来たばかりでどこがいいのか分かりませんね。だからと言って、大手の鍛冶ギルドは色々と値が張るともいわれますし……」


 ブラブラと歩きながらどこの店にしようか話していると、珍しい鍛冶職人を見つけた。


「あの人、女の人が武器を造ってる」


 ジェリダが見つけたその鍛冶職人は、ほとんどの鍛冶職人が男性なのに対し、そこの鍛冶師は女性だった。女鍛冶師は個人で経営しているらしく、露店を出したその後ろに小さな工房をつくり、そこで武器を打っていた。店番には小さな男の子が立っている。


「お母さんなのかな、あの人。子供が武器売る店番してる」


「可愛らしいですね」


 ジェリダが店の方に興味を持って行ってみると、店番の男の子が知った足らずな声で出迎える。


「いらっしゃいませ! なにをおもとめですか?」


 男の子はしっかりと自分の役目を果たしているようだ。と、先ほどまで工房で武器を作っていた女鍛冶師が店の方にやって来た。


「いらっしゃい。武器をお求めかい? 冒険者さん」


「あれ、私たちが冒険者だって分かるんですか」


「あったりまえだろ。私がここで何年色んな冒険者を見てると思ってんだい。家は防具から武器まで一通り揃ってるよ」


 女鍛冶師はかなり若かった。ラフなタンクトップ姿で、大槌を振るう腕にはそこらの男性鍛冶師に劣らない筋肉がついている。赤毛の髪を高くまとめ上げ、首には自作のゴーグルを下げていた。ジェリダは明るくてよさそうな店だなと思った。


「私たち今日冒険者になったばかりで、装備を揃えに来たんです。資金はだいぶある方なので、いい武器はありますか? 職業は私が魔法使い、こっちは剣士なんですけど」


「大体の予算はどれくらいだい?」


「うーんそうですね、最大金貨一枚出してもいいですね」


「なっ!」


 それを聞いた彼女はその金額に驚く。だが、ジェリダがその金額を提示するだけの技量を彼女は持っているのを確認していた。


 この北の町に来てからジェリダは鑑定を常時発動しながら鍛冶師たちのパラメーターを見ていた。その中でも彼女は固有スキルを持っていた。


 『天性の鍛冶師』これはこの場所で彼女だけが持つスキルだった。鍛冶職人たちの中に固有スキルを持つ者はいたが、鍛冶職にあまり関係のないスキルばかりだった。それに、彼女は鍛冶職人としてのスキルレベルも申し分ない。それを見極めているからこその金貨一枚だった。


「……っふ、あははははは! そんな大金あったらうちの商品全部買ってもお釣りがくるよ! いいね、気に入った。何かいい素材が取れたらうちに持ってきな。いい武器を打ってやるからさ。あ、そうそう。私はノエズだ。この子は私の息子で」


「ロイです。よろしくおねがいします」


 ノエズが自己紹介をすると息子のロイも自分で挨拶をした。しっかりと頭も下げて礼儀正しい子供だ。


「私はジェリダ。こっちはルベルです」


「ルベルです」


「あら、あんたたちいい名前を持ってるんだね。ジェリダは神話に登場する戦で不屈の強さを誇るジェリダ神と同じで、ルベルは赤いあの花からだろ? あの花の花言葉は『誇り』。ね、いい名前を持ってるだろ?」


 ノエズは少年のような屈託ない笑顔でそう言った。二人は驚いて顔を見合わせる。そして、示し合わさずに小さくクスリと笑った。小さな幸せを分けてもらったような心の温まる言葉だったからだ。


「まあ、無駄話はここまでにして。あんたたちに丁度いい武器があるんだ」


 そう言って一度ノエズは工房の方に行くと装備一式とそれぞれの武器を持ってきた。


「まずはお嬢ちゃんの装備からだ。このローブは防火力に優れたファイアースパイダーの糸から編んだ防火スキルの付いたもんだ。他にも魔力増強のスキルと対魔法攻撃のスキルも付いてる。

 それとこれ、この杖。これは樹齢三百年のマジックツリーから削り出した蛇の杖だ。この木は名前の通り魔法の木と呼ばれるほど魔法の媒体とするのにかなり適したものだ。それと、この上の部分を少し捻って上に引っ張ると――」


「おお!」


 蛇の巻き付いたデザインのその杖をノエズが少し捻ってから上に引っ張ると、中から短刀ほどの刃が現れた。それを見てジェリダは目をキラキラとさせる。


「こんな風に、いざという時の武器にもなる。魔法使いだからと言ってあんたは後ろでじっとしてるようには見えなかったんでね、これをお勧めするよ」


「ノエズさん分かってる!」


「だろう?」


 愉快そうに笑う二人にルベルはジェリダが魔法以外の戦闘もするつもりだったということに衝撃を受けていた。


 ジェリダが杖を手に持つと杖の方がジェリダの背丈を三十センチ程越していた。


「あとこの腕輪。アメジストを小さく粉にして金属に混ぜたものだ。アメジストは毒に耐性を持つ宝石と言われる。だから毒耐性のスキルが付いてる。まだ駆け出しなんだろ? トールの森には毒をもつ魔物もいるらしい。いずれトールの森の魔物退治をするなら必ず必要になるはずだ」


「冒険者について本当に詳しいんですね」


「このくらい鍛冶師にとって当たり前の情報よ。私たちは冒険者のサポートをする物を造るんだ。だから、冒険者よりも冒険者に詳しくなるぐらいじゃなきゃいけないのさ。さて、次はそこの坊っちゃんだ」


「坊っちゃんはよしてください……」


「いいじゃないか、そのくらい。まぁ、その話は置いておいて。あんたは職業が剣士なんだろ? だがまだ筋肉がついてないから重たい剣は振りにくいだろう。それに、エルフは性質上あまり筋肉が男でも付かないんだ。

 だから弓を使った方が効率がいいらしいんだけど、そんなあんたでも振れるのがこの剣だ。ヒスイ鉄って言って鉄より軽いが、強度がそこそこあるからな中々に有能なんだ。一度持ってみな」


 そう言ってヒスイ鉄で打った剣をルベルに手渡す。持ってみると、今持っている短剣よりも軽く感じられた。鞘から抜くと刃は両刃でスラリとしている。刃に薄く緑色が掛かっている様に見えた。これは元のヒスイ鉄が深緑色のため、その色が出ているのだ。


「とても持ちやすいですし、本当に軽いですね」


「剣士にとって剣は重要だからね。持ちやすいっていうなら大丈夫だ。それと、剣士は前衛職だから防具が必要だろ」


 そう言ってノエズが取り出したのは駆け出し冒険者の基礎装備であるレザーアーマーとレザーブーツだった。


「レザーアーマーには何もスキル効果はないが、薄く鉄板を入れていある。大抵の攻撃一度分ぐらいは防げるはずだ。だが、このレザーブーツには俊敏強化のスキルが付いてる」


「これ、全部でいくらですか?」


「ファイアースパイダーのローブが銀貨三枚、蛇の杖が銀二枚と銅貨八枚。アメジストの腕輪が一番高くて銀貨五枚。レザーアーマーとレザーブーツが合わせて銅貨七枚になるから……」


「ぎんかが、じゅういちまいと、どうかがごまいだよ、おかあさん」


「お! 流石私の息子。頼りになるねぇ」


 ロイはノエズに褒められて頭を撫でられる。何処かで計算を習ったのか小さいのにとても賢い。


「ということだ。うちの息子の計算は合ってるだろ」


「うん、百点満点だよ」


「ありがとう、おねえちゃん!」


 ロイははにかむ。ジェリダは代金を袋から取り出してノエズに手渡した。


「また何かあったらここに来ます」


「贔屓にしてくれるのかい? それは鍛冶師冥利に尽きるねぇ」


 二人は装備を受け取って装備して、ノエズの店を去った。その頃には日は暮れて暗くなってきていた。町に明かりが灯され出す。その光に照らされた道をギルドまで迷わず帰る。


「今日はごめんね、私がクエストよりもこっちに先に装備をそろえていればルベルがあんな痛い思いをしなくて済んだのに」


「俺の事はいいんです。俺はジェリダ様に奴隷から解放して貰って、温かい食事も食べさせて貰って、更には宿にもベッドにも寝かせてくれる。それだけで、今日がどれだけ幸せか。一生分の幸せを貰ったようです」


「たった今日だけで一生分な訳ないでしょ。ずっと、幸せだって思える様にならなきゃもったいないよ」


「そうですね……」


 長い一日だった。濃厚な経験を今日だけで沢山してきた二人は少し成長したように感じられた。それを噛みしめながら二人はギルドへと帰って行った。




 翌日、食堂で食事を済ませながら今後の方針を考えていた。


「まずは、私たちのレベルを上げることを重点に置いていこう。でも、稼ぎがないのはまずいから、薬草を採取しながらゴブリンの討伐も少しずつしていこうと思う。戦闘で積極的にスキルを使ってスキルのレベルを上げよう」


「分かりました。俺も昨日ノエズさんに言われたみたいに筋肉が付いていないので、そこも強化していきたいと思います」


「よし、じゃあそれでしばらくは資金調達とレベルアップ、スキル強化に取り組もうか」


「はい」


 二人は食べ終わった食器を返し、ギルドの一階で薬草採取のクエストとゴブリン退治のクエストを受けた。


「ゴブリンは武器を持つ者もいますので油断をしないように。まれに亜種と言われる突然変異をした大きなゴブリンが見つかる事もあります。その際は見つからないように逃げてください。最低でも亜種のゴブリンのレベルは30以上と言われていますので」


「分かりました。じゃあ気を付けて行ってきますね」


「行ってらっしゃいませ。ゴブリンから素材の剥ぎ取りをお忘れなく」




 まだ朝の早い時間だがもう町の人々は動き出している。ピーク時よりは人通りの少ないものの、かなりの人や冒険者が歩いている。家々からは朝食の匂いや洗濯物の香りがしてくる。


 少し湿った草木や土の香りが風で運ばれる。天気も晴れていて、清々しい陽気だった。


「今日はいいことがある気がするなー」


 新しい装備を身に着けた二人は門を抜けてトールの森へ向かう。


 そこで本当にいいことがあるかどうかは、それぞれの感じ方次第となるだろう。



次の更新は3月22日の21時です。

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