第57話
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「なあ、なあ、そろそろ動いても良いんじゃねーの? ワ国の一件も少しは落ち着いて来たし、狼虎もある程度力を取り戻してきてるんだしさ」
いつもの集会場として使っているある建物の地下。痺れを切らしたように言ったのはワ国にて狼虎を復活させた黒装束の少年だった。
「イアン、あなた馬鹿なの? 狼虎がある程度力を取り戻したと言っても、たった三分の一程度。私たちの計画にはまだまだ力不足よ。それに、あんな大事にしたせいで、他国が動き出してるわ」
「あぁ? どこの国が動こうが今更何も怖くないだろ――いや、待てよ。まさか三大国が動き出してるって言うのか?」
「そうよ。だから言ったでしょ。派手に動き過ぎなのよ、あなたは」
イアンと呼ばれた少年が口にした、三大国。それは数十年前に大戦を起こした三国の事を指している。今は互いに平和の証を結び、安穏とした日々を送っているように見えるが、今でも水面下で争っている。
三大国に含まれるのはフィルム大国、カラル国、そしてアルカ国だ。その三国は互いに隣り合っている。その中でも、フィルム大国は豊かな資源を有し、軍事力が優れていた。そのフィルム大国の首都でアルカ国の貴族が殺されるという事件が起きた。ただ殺されただけならば、それだけの事件で終わるはずだった。だが、その事件現場にはカラル国の近衛隊が持つ武器飾りが落ちていたのだという。カラル国は王家の紋章に白い鳥と剣を用いている。白い鳥は商売を司る神の御使いと軍の強さを表わしている。
最初はただの事件のはずだった。それが、いつの間にか両国の関係を悪化させるような証拠ばかりが見つかり出したのだ。もう、その流れが止められなくなった頃には、この事態が不自然だと思う者はいなかった。
両国の関係は最悪となり、フィルム大国が先生布告をする事で両国の戦争が始まった。最初はカラル国に押されていたフィルム大国だったが、アルカ国に協力を要請する事で一気に流れを押し戻した。アルカ国は武器などの技術に優れた国で、フィルム大国に武器を売り渡して勝利へと導いた。
「チッ! よりにもよってあの三大国かよ。って事はジェニオが動いてる可能性があるんじゃねーか? てめぇの天敵のよ」
「黙りなさい。殺すわよ」
イアンは盛大に舌打ちをすると、分かりやすく挑発した女はバレンティア。彼女はイアンの口にしたジェニオの名に反応して殺気を放つ。それと同時にバレンティアの口元から鋭い牙が覗いた。
「そこまでにしろ、二人とも。我らが今すべき事は狼虎に早く力を付けさせ、悲願を達成する事だ。まだ動くときではない。特に、三大国が動き出している今はな」
この場の長である男、ティモテオは薄く開いた眼で二人を睨む。まだ不満は残っているようだが、二人は引いた。
「今、フィリップが情報を集めてきている。時が満ちるまで待つのだ」
その言葉を残してティモテオはその場から霧のように姿を消した。
北区にてポーションの配布を行った翌日。予告していた通り、東区にて四人はポーションを配っていた。
「はいはーい、押さないでね~。順番は守るようにー!」
この日は昨日以上の人々が集まり、ポーションを手にしていっていた。昨日とは違い、数人はその場で効果を試すために口にしたり、怪我をした場所にポーションを使っていた。その効果もあって客はどんどんと集まり、昨日よりも早くポーションが無くなってしまった。
持ってきた在庫は昨日と同じく五百個。貰う事の出来ない者は多く出たが、次は南区で販売する事を宣伝する。
「なあ、ジェリダ。これだけの人が集まるのは嬉しいけどよ、こいつらが集まるのはタダで四級ポーションを貰えるからじゃないのか? いざ販売、ってなると買ってくれないんじゃ……」
「そう考える人も出て来るとは思うけど、大半は買いに来ると思うけど。だって、私とルベルが並んでるお客にいくらで売るのか宣伝しながら並ばせてるんだもん」
「は!? そんなことしてなのかよ」
ジェリダはポーションの配布が終われば、錬金術ギルドにて何級のポーションがいくらで販売されるのか宣伝し、客を集め、列に並ばせていた。
レントは五百人の客を捌くのに必死で、ジェリダとルベルの声が聞こえてなかったようだ。
「何、レントは聞こえてなかったの? というか、これぐらいするのが普通でしょ。名家の商人のお坊ちゃんならしっかりと、利益になる事考えてよ」
「うるさいな! 俺は売りさばく事で手一杯なんだよ!」
ピオはレントにちょっかいを掛けているが、かなりの客を捌いた後なのだ、額に沢山の汗をかいていた。接客の技術的にはピオの方が上のようだが、正確さや手際の良さはレントの方が上のように思える。
「そういえば今日は、何だか女性のお客さんが多かった気がしますね。まだ帰らずに固まっているお客様もいるみたいですし」
ルベルがそう言う視線の先には何やら頬を染めている若い少女たちがいた。ルベルが彼女たちの方を向くと、ぱっと口元を押さえて、友達同士で盛り上がっていた。何処かそわそわしているようにも見える。
意識して周りを見てみれば、レントやピオにも視線を投げる若い少女たちの姿が沢山あった。ジェリダはそれを見て何となく、少女たちがはしゃぐ理由を察した。
(ははーん、成程。この三人目当てのお客が一杯いたのね)
改めて三人の顔を見てみても、顔立ちはとても整っている。笑顔で接客をしていればさぞ、かっこいい姿で少女たちの目に映っているのだろう。
「ちょっと、三人ともこっち来て」
そう言ってジェリダは三人を呼ぶと、明日のポーションを配る時の作戦を話した。
次は7月25日21時に更新です。




