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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第三章 ダンジョン編
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第56話


 冒険者の朝は早い。特に低ランク冒険者では、日々の生活の賃金を稼ぐために朝から晩までクエストをこなす者もいる。そして、北区の門の先には廃村となったリムル村がある。その周辺ではジェリダが使役としたポイズンラーヴァや新たに出現したゴブリンが集まっている。Cランク冒険者などはクエストでよくそこを訪れる。つまり、北区の入り口というのは早朝であっても冒険者が多く通る場所なのだ。


「さあさあ! 冒険者、市民の皆様方! 錬金術ギルドが作ったポーションを今日は何とタダで差し上げますよー!」


 冒険者や町の者が通るたびにピオが大きな声で客を呼び込む。だが、錬金術ギルドの名前が出れば近づいて来る者はいない。誰も彼も不審げな眼差しを向けて来るだけである。


「やっぱ、錬金術ギルドの名前が出ると客はこねーな」


「でも、その評判を上げるためにもやってるんだから、名前を出さないで売る方が余計に評判が落ちるんじゃないですか? ここは頑張ってお客さんを集めましょう」


 客が集まらない事にやはりなと、諦めそうになっているレントをレベルは励ます。その隣ではあのジェリダでさえ客を呼び込もうと声を出していた。


「今この場でポーションを試してみませんかー? 高価なポーションを試せるチャンスですよー!」


 間延びした声ではあるが、笑顔は忘れていない。完全に仮面ではあるが。


 すると、冒険者の一人が店の前までやって来た。


「なあ嬢ちゃん。あんたこの前最年少でAランク冒険者になったっていうジェリダじゃねーのか? こんな所で何してんだ? っていうか、このポーションは本当にタダなのか? 後で金を請求してくるような事はないよな?」


「ありませんよ。今日はポーションを売るにあたって、このポーションの実用性を皆さんに試して貰いたいんです」


 ジェリダに話しかけて来たのは職業が剣士の男だった。赤茶色の髪は少しぼさぼさで、眉のあたりに小さな傷がある。流石、ジェリダの噂は大体の冒険者が知っているようだ。面識は一切ないこの男だが、ジェリダの名前を知っていた。


男は面白半分でやって来たという体だが、これで波ができれば完璧だ。その辺りを心得ているピオはすかさずポーションを男の前に出す。


「お一人様お一つですがどうぞ。これは四級ポーションですので、これから行かれるクエストの手助けになると思いますよ」


「はあ!? 四級ポーションを本当にタダで配ってんのか!?」


 四級ポーションの効果では傷は深さによって残る事もあるが、戦闘で負ったある程度の傷などはすぐに治してしまう。この四級ポーションがあれば、冒険者にとってクエストがこなしやすくなる。


 男の発した大きな声で、ジェリダ達がタダで配るというポーションが四級ポーションだという事が広まって行き、その驚きは徐々に伝播していく。


「今のポーションは高いですよね? 一番安いポーションでも金持ち以外には手を出しづらい。そこで、私達はぐれの錬金術師とこの冒険者の方々でポーションを作ったんですよ。品質はそのままで、値段を下げて五日後に錬金術ギルド支店で販売します。これは差し上げますので、ぜひ使ってみてください」


(うんうん。このおっさん、いい感じの宣伝になってんじゃん)


 レントは男にポーションをいつどこで販売するのか、ちゃっかりと周りにも聞こえる声で宣伝し、内心ではこの男の登場を喜んでいた。


 四級ポーションをタダでくれるとなれば男はすぐにポーションを手に取り、鞄の中に入れる。


「今日のクエストで使う事があったら試してみるぜ。効果が良かったら評判でも広めておいてやるよ」


「ありがとうございます!」


 男は少し嬉しそうに北門へと向かって行った。男がポーションを本当にタダで貰っていく様子を見て、周りも少しそわそわとしだした。そして、今まで疑いの目を向けていた周囲の者たちは一斉に店の前に殺到した。


「そのポーションを俺にもくれ!」


「ちょっと! 私が先よ!」


「おい! 後ろから押すんじゃねぇよ!」


「皆さん、落ち着いて! 順番に並んでください!!」


 ルベルは我先にと雪崩れ込んで来た冒険者や町民を二列に並ばせる。錬金術ギルドの評判を上げるためにもレントとピオが直接、ポーションを手渡して配る。


 ポーションの元の在庫は五百個持って来ていた。それが一時間もしない内に全て無くなってしまった。これにはレントもピオも驚く。


「いや~、ポーションがこんなにはけるの初めて見たかも」


「俺だってそうだよ。ポーションを冒険者や町の人が買える、ましてや今日みたいにタダでもらえるなんて前代未聞だからな」


「二人ともお疲れ。流石、商売やってる家系の出身だね。笑顔が上手」


「お前は仮面付けてるみたいだけどな――っいって!」


 ジェリダはすました顔でレントのすねを蹴る。レントはぴょんぴょんと跳ねて痛みを紛らわしている。ジェリダはルベルと一緒に客を並ばせる手伝いをしていた。中には貰う事が出来なかった者もいたが、明日は東区でポーションを配ると触れ回っておいた。この調子ならば明日も心配ないだろう。


「はい、じゃあ片付けて撤収。あ、ちょっとピオはこっちに来て」


「はいはーい」


 ジェリダはルベルとレントに片づけを頼むと、ピオだけを呼び、人が少ない所で話しをする。


「邪魔してきそうな商人の顔はあった?」


「んー、やっぱり商人っていうのは情報を得るのが早いね。何人かいたよ。だけど、厄介そうな所の部下が物陰から見てたよ」


「厄介って言うのはどんな風に厄介なの?」


 ピオが見た厄介な商人の部下は他の露店で商品を見る振りをしながら、様子を窺っていたのだという。どうして分かったのかというと。


「僕は一度見た顔は忘れないんだよ。こっちを見てたあいつの顔は見た事がある。ブラウ商会って所の下っ端だよ。あそこはかなり大きな情報網と力を持ってる。それに、ポーションを扱ってるとこでもあるから、邪魔しに来る可能性は大きいだろうね」


 やはり、ポーションをタダで配るという行動は良くも悪くも目立っているようだ。特に、ポーションを扱う店からすれば都合が悪くなりそうならば早々に排除するべき対象となるだろう。


「その辺は私に任せておいて。もしも、邪魔をしようとするなら片付けてあげるから」


「あはは、意外と怖いねぇ君」


 ピオはそう言ってはいるが、本気という訳では無い。こんな話でびくびくしていたら商売人にはなれない。


「おーい! いつまで話してんだよ! こっち早く手伝え!」


「はいはい、分かったよ」


 レントに呼ばれて二人は、荷台に持ってきた荷物を積んで帰る支度を手伝うのだった。


次は7月23日21時に更新です。

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