第50話
1分遅刻、ごめんなさい!
しばらくの間泣いていたトロイは落ち着きを取り戻し、ジェリダとデリクと共に食事をして眠りに付いた。
その翌日。体内時計で目が覚め、時間を確認すると朝の六時だった。デリクもほぼ同じ時間に目が覚め、のろのろとテントから出て来た。顔を池の水で洗う。朝食は昨夜と同じ干し肉を出しにしたスープと少しのパンだ。
「今日中に三階層に戻らなければ、俺達は置いて行かれることになるだろう。ま、ジェリダがいるならば置いて行かれても問題なさそうだが、ずっと心配させるよりはいいだろ」
「三階層のボスがトロールなんでしょ。手早く本隊と合流するなら私一人で戦おうか? その方が早く終わるけど」
「………………」
デリクはジェリダの提案を眉に深い皺を寄せて思案する。仲間として一緒にいるのだから、協力して戦闘をするのがいいだろう。だが、今のデリクの実力ではジェリダの足手まといにしかならないという事が、オーガとの戦闘で証明されてしまった。早く合流はしたいが、ジェリダ一人に任せるというのも気が引ける。
「早く合流したいんでしょ? そんなに悩まないで、私に任せてくれればいいの」
ジェリダは黙ってしまったデリクに全て戦闘を任せるように言い切った。
(まぁ、私は単にレベルと経験が欲しいだけなんだけど)
本音はそこだった。もっと実力を経験をとジェリダは考えている。
デリクはジェリダの言葉を聞いても渋い顔で唸っていたが、一つ溜め息を吐いて。
「……任せた。本当にすまない」
「いいよ、謝る事なんかじゃない。早く皆に合流しなきゃいけないんだから、効率の良い方を選ぶのは当然でしょ」
「我ハドウスル?」
「トロイもデリクと一緒にいてくれる?」
「分カッタ」
これで方針が決まった。二人はさっさと食事を済ませると、テントを畳んでトロイの案内について行く。池をぐるりと半周して岩の元に向かう。
「そう言えば、この場所には魔物がいないの?」
「イル。ダガ、我ガイルカラ近寄ッテ来ナイ」
今は大人しいトロイだが、元三階層のボスだった魔物だ。格上の気配を感じてこの四階層の魔物は近寄って来なかったらしい。なるほどと、ジェリダは納得しているが、デリクは改めてジェリダの人外ぶりを感じていた。普通、ボス級の魔物を使役にできる冒険者はまずいない。世界中を探せば一人、二人はいるかもしれないがここまですんなりとボス級の魔物を使役に置いた者はいないだろう。
四階層をトロイのお陰で魔物に出会うことなく横断し、巨石の前まで辿り着いた。トロイの言う通り、岩の元には転移用の陣があった。
「これに入ればまたボス戦か。ジェリダ、本当に任せていいんだな」
「うん。一瞬で片付ける」
「……分かった。だが、無茶はするなよ。俺達は自分の身は自分で守る。だから、トロールに集中してくれ」
「分かった」
ジェリダと最後の確認をして、一斉に陣の中に入った。再び転移独特の感覚に襲われる。
そして、四階層の巨石の前から視界は入れ替わり、トロールのいるボスの部屋へと転移していた。煌々と松明が部屋を照らす。天井には四階層でみた光る鉱石もあった。その明るさの中、ボスであるトロールは部屋の中央に立っていた。
トロールを初めて見るジェリダやデリクはその大きさに圧倒される。トロイやオーガ亜種の体格も大きい部類に入るが、トロールのその体格は想像以上だった。
まず、その大きさは十メートルを超している。耳は人とは違って尖っており、鋭い爪も持っている。武器はないのか、素手だ。だが、素手で会っても腕力は馬鹿にはできない威力を持っているだろう。
トロールはある一説によると、巨人族から枝分かれして生まれた魔物だと言われている。巨人族はこのトロールよりも大きく、より人に近い成りをしているため、神の使いだとして崇める者もいるとか。
「グガガガガッ」
トロールは小さなジェリダ達の姿を認め、嘲るような声を出した。どうやら、このトロールは人の言葉を話す事が出来ないらしい。ジェリダはトロールのステータスを確認する。
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名前 ボギル
種族 トロール
称号 ダンジョンボス
LV 35
HP 1175
MP 675
《スキル》
剛腕 LV 3
《固有スキル》
なし
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(レベルはそこまで無いけどHPは私とそんなに変わらないぐらいあるのか)
今まで戦って来た魔物の中でも比較的弱い部類に入る。そうジェリダはトロールを評価した。
「ただデカいだけ、知能は低いみたい」
余裕を見せるトロールを無視してジェリダは杖に魔力を籠める。その魔力はいつもより多く籠められていた。
「さっさと片付けてあげる」
その言葉と同時に杖を地面に打ち付ける。と、並の視力では捉える事の出来ない速さで地面から杭が飛んだ。今までは地面から生えるようにして生成していた岩の杭。それをジェリダは初めて地面から切り離し、下の部分を風魔法で押し出す事により打ち抜く威力を高めた。ジェリダはこの時、熟練の魔法使いでも難しい魔法の二重行使を行っていた。
「グ、ガガ…アァ?」
両足、腹、胸、そして喉。その全てを杭ではなく大きな岩の弾丸として、容赦なくトロールを突き刺していた。トロールは自身に何が起きたのか分かっていない様で、目をぎょろぎょろと動かした後、白目を剥いて地響きと共に倒れた。
「は、はは……。本当に戦闘を一瞬で終わらせやがった…」
戦闘はあっという間だった。デリクも一緒にいたトロイでさえも、驚いた表情をしていた。ジェリダはまさに一瞬で戦闘を終わらせるという台詞を有言実行したのだ。
隠しダンジョンのオーガは形状を保っていたが、このトロールは倒れた後、さらさらと灰になった。そして、その灰の中から細長い物が出てきているのが見えた。
ジェリダは近寄って灰の中から埋まっていた物を引っこ抜く。灰の中に埋まっていたのは、黒い鞘に納まった細剣だった。ジェリダはゆっくりと鞘から刃を取り出してみる。薄っすらと水色がかったその刃は、冷たい雪を連想させた。
「綺麗……」
「それはドロップ品だろう。ボスを倒すと出てくるときがあるお宝だ。自分が装備してもいいし、あのルベルとか言う奴に装備させてもいいんじゃないか?」
「でも、そうなると細剣スキルが必要になるな……」
今のジェリダとルベルではこの剣を上手く使いこなす事が出来ない。装備する事は出来るが、細剣スキルを持っていないため、レベルがいくら高くても攻撃する際には大した威力にならない。
「とりあえず、この剣を持って帰ればいい。いつか使える時が来るかもしれないし」
ジェリダは鞄の中に細剣を仕舞う。そして、いつの間にか開いていたこの部屋を出るための扉にジェリダは歩き出す。
「さ、やっと三階層に戻れる」
「ああ、そうだな。まだ俺達を待ってるはずだ。急ごう」
ジェリダとデリクは駆け足になりながら会談に急ぐ。トロイは二人を追って走ったが、少し立ち止まってその部屋をぐるりと見渡した。懐かしい、その部屋を。
「トロイ、早く」
「今行ク」
トロイは返事をしてジェリダ達の元に走ったのだった。
次は6月26日21時です。




