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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
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第5話


 ジェリダは燃え盛る炎の蛇を纏いながら冷静に残りの二人を見ていた。恐怖に引き攣った二人の顔は見ていて気味が良かった。ジェリダの中には業火の如く燃え盛る殺意に満ちていた。だが、その割に思考は冷え切っていた。その冷静さが、グレッグとヘナロを余計に恐怖へ突き落していた。


 ジェリダが纏う蛇の内、一匹が燃える口にアルフの頭を咥えていた。ジェリダが術者の男を焼いた時と同じ匂いがしていた。


 おもむろに、ジェリダは丁度焼き上がったアルフの頬肉にかぶりついた。ジェリダの指が炎に触れるが、術者であるジェリダの手には火傷一つ付かない。無言で肉を食べる。その光景は異様なものだった。


「あ……兄貴の頭を食ってやがる……」


「ば、ばけもの……」


 完全にグレッグとヘナロは戦意を失っていた。こんな化け物に自分たちは手を出そうとしていたのかと今更ながら後悔をする。


「っひいいいいぃぃぃぃぃぃいい!」


 人肉を貪るジェリダの姿にとうとう恐怖が臨界点を超えたグレッグは(まろ)ぶようにして駆けだした。そんな彼をジェリダが逃がすはずもない。スッとジェリダが腕を指すと頭を咥えていないもう一匹の蛇がグレッグの足へと絡みついた。


「ああああぁぁぁああ! あ、熱い! 熱い! 許してくれ、許してくれ頼む! ヒッ! うわあああぁぁぁああああああ!!」


 絡みついた炎の蛇は足を食いちぎり、最後に悲鳴を上げる男の頭を飲み込んだ。叫んでいた男は苦しみ(もが)き、やがて力尽きてその場に倒れた。そして、蛇はグレッグの頭をジェリダの元へ運ぶ。


 ジェリダは運ばれて焼かれたグレッグの肉を食べ始める。一部始終を見ても恐怖に足を絡め取られ、動けなくなったヘナロはペタリとその場に座り込んで失禁までしてしまう。


「あ……あぁ……っう…………」


 碌な言葉が紡げないのか、口をパクパクとさせる。二人分の肉を食べたジェリダは静かにヘナロの方を見た。


「ひいいぃぃ!」


 二匹の蛇が加えていた残りの頭は蛇が大きな口で平らげる。ジェリダはゆっくりとヘナロに近づき、その情けない姿を見下ろす。


「ねぇ、さっきアルフって男の拳をいい拳だって褒めてたよね? だったら、その拳をお前にたっぷりと味合わせてあげる」


 そう言ってジェリダは拳を振り上げる。


「な、何を――ぶへっぇ!」


 振り上げた拳は男の鼻の真上に振り下ろされた。倒れた男の胸に馬乗りになると一発だけでは終わらせず、続けざまに男の顔面をジェリダは殴りつける。


「がはっ! グギャ! や、やめ、グヒぃ! もう…ゴハッ!」


 何度も何度も何度も何度も、ジェリダは顔面を殴りつけた。


「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」


 何発も殴られた男の顔は腫れ上がり、虫の息だった。ジェリダの拳にはヘナロの血が付着し、顔も飛び散った血で汚れていた。そして、もう一度拳を振り上げるとバキリ、と骨の折れる音がして、男の顔面が陥没した。もう男の息は聞こえなかった。


 静かにジェリダは血に濡れた自身の拳を見つめる。殴りすぎたせいで皮膚が破けて骨が見えそうになっていた。そんな自身の手をぬたり、と舐めた。そのまま男の首に齧りつき、その肉を生のまま嚥下した。口全体に吸い込む息に、血の味匂いが突き刺さる。気持ちが悪いのもほんの少しの間だった。すぐにその味に慣れたジェリダは肉を食らう。


 そして、ある程度腹が満たされた。その頃になってようやくジェリダは獣から人間へと帰ってきた。纏っていた蛇は跡形もなく消えていた。


「っは! ルベル!」


 今まで男たちを殺して貪っている間、ルベルのことを放置したままだった。急いでジェリダはルベルの元へ駆け寄る。ルベルはまだ意識を失ったままだった。血などを吐いた痕跡もない。ジェリダはごめん、と言いながらルベルの服をめくった。そこには殴られた所を中心に赤黒く変色していた。内出血を起こしているのだ。骨も何本かいっているはずだ。


「今の私なら治せる……!」


 蛇を操っていた時にジェリダの体の中に一本の線が入った感覚があった。それまで分散していた魔力がその線に集中する感触がある。今自分の体に何が起きているのか分からないが、ルベルを助けるためにはさっきの蛇のように回復魔法を使うしかルベルを救う方法は無かった。


「お願いっ! 回復魔法を使わせて!」


 ジェリダはルベルの腹部に手を翳し、手に魔力が集まるように意識する。すると、ジェリダの願いにこたえるように回復魔法は発動した。


 ジェリダの手がぼんやりと白く光ったかと思うと、その光はだんだんと大きくなりルベルの体を包み込んだ。そして、みるみるうちに赤黒かった腹部の内出血が引いて行く。何の跡形もなく痕が消え去ると、ルベルの体がピクリと微かに動いた。


「……うっ…………」


 小さな呻きを上げるとルベルはゆっくりと目を開いた。


「ルベル! よかった、本当によかった…!」


 目を覚ましたルベルにジェリダは抱き着いた。本当に生きた心地がしなかった。こんなにも側にいる者が消えてしまうのではないかと心配したのはジェリダにとって初めてのことだった。


 ルベルは何が起きたのか戸惑っていたが、上体を何とか起こしてそして固まった。


 ジェリダの肩越しに見た光景に目を奪われた。さっきまでジェリダとルベルを囲んでいた男たちが赤い血に塗れて死んでいる。自分が気を失っている間に何が起きたのか、全く理解ができなかった。


「ジェリダ様、これはいったい……」


 抱き着いたジェリダをやんわりと引き剥がして更にルベルは驚いた。ジェリダの口元は肉を食らった獣のように血に汚れていた。ルベルの視線でようやく気が付いたジェリダはハッと口元を隠す。


「ジェリダ様、その血は……」


「私があいつらを殺したの。そんで、あいつらの肉を食べた。私のスキルのことは話したでしょ。食べた()の能力や身体的特徴を得られるスキルだって」


 ジェリダは何でもないことだと、その顔に笑顔を浮かべてそう言った。その目には男たちが死んだのは因果応報だ。これくらい何でもないことだろうと語っていた。それを見てルベルは茫然とし、やがて傷付いた表情をした。今度は逆にルベルがジェリダを抱きしめる。


「申し訳ありません。俺が、俺が弱いせいであなたの手を汚れさせてしまった……。本当に申し訳ありませんっ!」


 抱きしめられたジェリダはキョトンとしていた。ルベルが何に対して謝っているのか見当がついていなかった。ジェリダの今まで育ってきた環境は、弱ければ死ぬ弱肉強食の世界。そんな中で生きて来たジェリダは、普通の感覚が麻痺していた。


「何を謝ってるの? いいから薬草集めを続けよう? 死体は放って置いても問題ないかな?」


 この世界において殺人は罪に問われる。だが、冒険者間ではルーキー狩りや冒険者狩りが行われることがある。それに、宝を見つけて揉めた末、殺人を犯す者も多くいる。それを全て罪に問い、捌いていては治安(・・)に関わってくる。


 それは何故か。答えは単純だ。冒険者が減れば魔物の数が増えるからだ。ほとんどの冒険者は魔物を狩り、剝ぎ取った素材で生計を立てている者が多い。そして、そういった冒険者程、狩場で揉めて殺人を犯しやすいのだ。


 魔物の繁殖力は凄まじい。先の戦争で冒険者も戦に駆り出され、多くが死んでいった。その為今は冒険者の数がどこの国や町でも少なくなっている。ゆえに冒険者が殺人を犯しても自業自得ならば処理されない。


 だが、冒険者は絶対に罪に問えないのかというとそうではない。現行犯や証言と証拠が揃えば罪に問える。だが、冒険者に限ってそんなヘマをする者はそういない。


 今のジェリダとルベルの状況は誰も見た者がいない。仮に、今誰かに見られたとしても子供を庇って死んだ男たちがいる様にしか見えないだろう。そして、そんな発見者は現れていない。なら放置して知らない振りをするのが一番だろう。


「あ、でもこの血は拭かないとね。服の血はどうしよう、せっかく新しく買ったばかりなのに……」


 ジェリダの中に殺人に対する罪悪感は一切なかった。付着した返り血も飲み物を零した子供のような口調だ。それがルベルの目には恐ろしくも映り、また無邪気にも映った。ルベルは悔しそうに拳を固めるとジェリダの瞳を見つめて言った。


「ジェリダ様、俺は必ずあなたを守れるように強くなります。だから、そんな簡単に人を殺さないでください。お願いします」


 ルベルの懇願にジェリダは首を傾げたが、うんと頷いた。


「分かった。簡単には人を殺さないようにする。またこんなことがあったらそうだな……二度と私達に手を出せないぐらいの恐怖を与えるぐらいにしとくよ」


「……はい、そうしてください……」


 どこまでジェリダが理解したのかは分からない。だが、今ルベルにできることはこれぐらいしかなかった。とにかく自分が強くならなければ。その思いが一層強くなった。


 ルベルはとにかくこの場所を立ち去ろうと思い立ち上がる。そして、違和感に気が付いた。


「足が、右足が動く……」


 ルベルの怪我をしていた右足に違和感を感じなくなっていた。試しにルベルはその場で跳ねてみる。すると、何の不自由なく飛び上がることが出来た。前の足ならば飛び上がるにも痛みが走り、着地にも上手く力が入らずに失敗していた。だが、そんな傷は元からなかったかのようにルベルの足は動いた。


「あ、回復魔法を使ったから一緒に足も治ったのか。これでルベルが不自由なことはなくなったね」


 ジェリダは嬉しそうに笑った。屈託なく。血に汚れたその顔で。




 ルベルの提案であの場にずっと居ては誰かに見つかった際に言い訳が必要だ。それはボロも出やすくなる。


 二人はすぐに場所を移動した。上半身を血で汚してしまったジェリダの服をそのままにしておく訳にもいかない。近くに川を見つけ、そこで服を洗い乾かす事にした。


 まだ日は高い。十分に乾く。ついでに顔や髪に着いた血も洗い流しておく。


 上の服と下着が乾くまでジェリダは鞄の中に入れていた雨具を着ることにした。ジェリダはそのままでいいと言ったのだが、ルベルが断固反対したので仕方なく着ている。服をルベルが洗い、手頃な枝に掛けて服を乾かす。


 服が乾くまでの間ルベルは本来の目的である薬草を探しに行ってくると言った。ジェリダも自分も行くと言ったのだが。


「駄目です。そんな恰好で動き回っては。俺はジェリダ様が目に入る範囲で薬草を探しますので」


 そう言って本当にジェリダの視界の範囲だけで薬草採取を始めた。雨具に丸まり、木にもたれ掛かるジェリダは、ただ見ているだけではつまらないと、自身のパラメーターを確認する事にした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 ジェリダ

職業 魔法使い

種族 人間

年齢 13歳

称号 なし

LV 13

HP 293

MP 399

《スキル》

鑑定 LV 9

魔法基礎 LV 9

回復魔法 LV 9

死霊魔法 LV 8

付与魔法 LV 8

格闘術 LV 1 new

拳術 LV 2 new

護身術 LV 1 new

威圧 LV 2 new

体術 LV 1 new

剛腕 LV 2 new

柔術 LV 1 new

手加減 LV 1 new

足音遮断 LV 1 new

索敵 LV 1 new

夜目 LV 1 new

回避 LV 1 new

投擲 LV 1 new

暗殺術 LV 1 new

短剣術 LV 1 new

聴覚強化 LV 1 new

回復詠唱 LV 1 new

神聖魔法 LV 1 new

白魔法 LV 1 new

無詠唱 LV 1 new

自己回復 LV 1 new

《固有スキル》

悪食 LV 10 up

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(しっかりとあの男たちからスキルゲットしてる。人を殺してもレベルは上がるんだね。……あれ、スキルに無詠唱と自己回復っていうのがある)


 ジェリダのパラメーターには男たちを食べたことで得たスキルが追加されていた。だが、その中に男たちですら持っていなかったはずのスキルが二つ追加されていた。


(無詠唱は多分あの体の中に芯が通った感覚があったあれのことだと思うけど、自己回復って……あ)


 そこでジェリダは気が付いた。考える時の癖でつい口元に手を持っていったのだが、その手に何の傷も付いていないことにまじまじと自身の手を見て考える。


 その手にはヘナロという男を何度も殴っている内に拳の皮膚が破けて、骨が見えそうなほどの痛々しい傷があったはずだった。それが今は綺麗な肌で傷一つない。


 ジェリダは自身に回復魔法を掛けてはいない。そうにもかかわらず、傷が跡形もなく消えているのは新しく追加された自己回復スキルのお陰だろう。


(ますます私、強くなってる……ははは、本当にこれは、神様から私に与えられたチャンスなんだ!)


 自身の手を見ながらジェリダは笑顔を浮かべる。レベルはまだまだ低いが、レベルの割にスキルも多いうえ、スキルによってHPとMPが底上げされている。


「自分の手を見て何を笑っているんですか」


 ジェリダがにやにやと笑っている所に、ある程度薬草を摘んだルベルが帰って来た。


「このあたりでも結構生えてました。ほら、これ」


 以前に術者の男が衣服を包んでいた大きな布を取って置いて正解だった。籠の代わりにその布をルベルは上手く鞄のように結び、その中に沢山の薬草を摘んで来ていた。


「なんかキラキラしてない?」


「そうですか? 俺には普通に見えますけど」


 ルベルの取って来た薬草のほとんどがキラキラとしてジェリダの目に映った。ジェリダは初めて人以外の物に鑑定を使った。すると。


『ベトニー 良質』

『マロ― 良質』

『リアン 良質』

『トロープ 良質』


 などなど。良質な物がほとんどだった。どうやら鑑定スキルを持つ者には輝いて見えるらしい。これはかなりいい値段になりそうだった。良質の者の中には普通の物よりも三倍以上の値がつく物もあった。


「すごい! 良質な物ばかりじゃん! やっぱりこれってルベルの持ってる緑の恩恵のお陰かな」


「俺は普通に摘んだだけなんですけど、質が良い物ばかりならよかったです。でも、この辺りは大体取りましたし。別の所も探したいですね」


「全部採っちゃったの?」


「まさか。そんなことをしたら薬草が生えなくなりますよ。少しずつ取って、またしばらくしたら薬草は生えてくるんです」


「へーそうなんだ。それ言ってくれなかったら全部引っこ抜く所だったよ」


「あはは、早めにお伝え出来てよかったです」


 ルベルは苦笑いを浮かべる。先ほどまで悲しそうな表情をしていたが、大分気持ちの方が和らいできたみたいだった。そんなルベルのステータスをジェリダは確認する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 ルベル

職業 剣士

種族 エルフ

年齢 15歳

称号 異端児

LV 2

HP 170

MP 102

《スキル》

弓術 LV 2

剣術 LV 1

槍術 LV 1

短剣術 LV 1

投擲 LV 1

《固有スキル》

緑の恩恵 LV 1

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さっき回復魔法を使ったからHPとMPが回復してる」


「え、本当ですか……あ、本当だ。冒険者カードが更新されてる」


 冒険者カードは鑑定スキルを持っていない冒険者が自身のパラメーターを確認することが出来る。だが、その大事な情報であるパラメターは持ち主しか見ることが出来ない魔法が掛かっている。他人に見せることが出来るのは氏名、職業、年齢、種族まで。そこまでであれば、十分に身分を証明することが出来るからだ。


 この魔法はもしも冒険者カードを落としたり盗られた場合にパラメーターを見られないようにするための工夫である。この魔法は鑑定や、解析スキルを使っても見ることができない。そういう複雑な魔法を掛けられているのが冒険者カードなのだ。


 とはいっても、やはり紛失する者や盗られる者もいる。そういった場合は冒険者ギルドで再発行となるが、新たに発行されると古い冒険者カードはただの紙切れに戻る仕組みになっている。これで一人の冒険者が同名で複数持つことは不可能となっている。そして、偽名の場合でも同じだ。作る際に必ず血判が必要なため、偽名も不可能なのだ。


「もう服もだいぶ乾いたでしょ。移動しようか」


 ジェリダは立ち上がると気にかけていたシャツを手に取る。部分的に少し湿っている所もあるが、気にしないのがジェリダだ。


「うん、早めにルベルが血を落としてくれたから痕が見えないや。ありがとう」


 ジェリダはお礼を言ってすぐにその場で雨具を脱ぎ落す。雨具の下に何も付けていないジェリダの素肌をルベルの目はしっかりと捉えてしまう。一瞬で顔を赤くしたルベルは慌ててジェリダに背を向ける。


「き、着替えるならそう言ってください……!」


「へ?」


 赤い顔を覆い隠すようにルベルは両手で顔を押さえて言う。そんなルベルにジェリダは何かまずかったのかな、と思いながら下着とシャツを身に着ける。服を着る音がしなくなってから、ルベルはそろそろと振り返った。


「ただの裸じゃん。気にしなくていいのに」


「そうはいかないんです……!」


 色々と事情があるのだと、心の中でルベルは叫んだ。と、その時。近くで驚く声が聞こえた。ルベルにはその声だけが聞こえたが、ジェリダは聴覚強化のスキルによってルベルよりも多くの情報が音として入って来ていた。


 声は男の物で、腰を抜かしてこけた音がした。足音は四人分。大きな声以外聞き取れないが、動揺しているのが感じ取れた。おそらくあの死体を見つけたのだろう。


「あらら、死体が見つかっちゃたか。意外と早かったな。よし、面倒ごとに巻き込まれる前にここから遠ざかろうか」


「はい……」


 ルベルはもう迷いや後ろめたさはなかった。ここでその感情を捨てていなければ動揺を見せてしまうと思ったからだ。その動揺は下手をすればジェリダが犯人だと言っているも同じだ。それはジェリダを主と定めたルベルにとって愚策となるだろう。迷いは、なかった。


 二人は場所を移動した。だが、そのまま町に帰ることはしなかった。死体が発見された今、すぐにギルドへと帰るのは余計に怪しまれそうだと思ったからだ。二人は薬草が生えている別のポイントに移動して、しばらく薬草を採取して帰ることにした。




◆◆◆


 トールの森には死体を発見した四人組のパーティーの内、一人がホロルに戻り、間もなくして数名の警備兵を連れて戻ってきた。


「これはひどいな……」


 現場に着いた警備兵の隊長は思わずそう漏らした。死体は三つ。そのどれもが隊長であるザルバにとって、今までで見て来た死体の中で上位に入る酷さだっただった。


「魔物に食い千切られた死体はいくつも見てきたが、これはそれよりも酷いぞ。冒険者同士のいざこざか?」


 一つ目の死体は頭がなく、もう一つは足が焼き千切られ、こちらも頭がない。そして、三つ目の死体は顔が陥没し、喉の辺りを食い破られていた。警備兵の一番若い男が顔色を悪くしている。


「断面が焼けてるな。この辺に炎系の魔物はいない。となると冒険者か。魔法使い、魔導士、魔術師……一応神官も。魔法関係が使える冒険者がこの辺りでクエストを受けてないかギルドに確認して来い。ま、どうせ犯人は捕まらんだろうがな」


「何故ですか、ザルバ隊長」


 警備兵になりたての新人がザルバに問い掛ける。その問いに、ザルバは新人をちらりとみて苦い顔をした。


「俺は冒険者からこの職に就いたから言えるがな、冒険者の間でも暗黙の了解ってもんがあるんだ。それは、負けたのならそれは負けた奴が悪い、ってな。どっちが喧嘩を吹っ掛けたにしろ、負けた奴が弱かった。そんなんじゃ冒険者やっててもいずれ魔物に殺されてた。っていうのが冒険者の中ではあるんだよ。な、そうだろ。そこの冒険者さんたち」


 ザルバは死体を発見した冒険者たち四人に話を振る。いずれもその言葉に無言で頷いた。


「ほらな、だから冒険者たちはこいつらが死のうが躍起になったりしねえんだ。だから、中々殺した奴は見つからねえんだよ」


「……そうなんですか」


 弱い物が悪い。それが冒険者の暗黙の了解だ。魔物ではなく人間に殺されただけましだろうと言う者も中にはいるぐらいだ。


 ザルバの予想通り、犯人は見つからなかった。魔法が使える者は数名、トールの森でクエストをしていたらしいが、その誰もが人を殺せるほどの魔法が使えるとは思えなかった。その中でも特に、その日冒険者になったばかりの少女は一番あり得ない(・・・・・・・)と判断された。


「俺にもあのくらいの娘がいるが、あんな小さいのに冒険者になる子がいるとわなぁ。ま、あの死体の奴らは何かのトラブルで恨みを買って殺されたんだろ」


「そうっすね~。案外因果応報だったりして。あ! そうだ先輩、今夜飲みにいきましょうよ!」


「はあ? お前、この前も言ったばっかだろうが。大体な――――」


 ギルドで調査を終えて戻る警備兵たちは知らない。一番あり得ないと決め付けたその少女こそが犯人であるということを。





次は3月21日21時に更新です。

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