第49話
更新が遅くなり、すみません。
気が付いたらトロイ中心の内容になってました。どうぞ。
トロイを先頭に歩き、森の真ん中あたりに出て来た。そこには大きな丸い池があった。水はとても透明度が高く、透き通っている。
「コノ水ハ、地上カラシミ出シタ水ガ沢山ノ時間ヲカケテ溜マッタモノダ」
「という事は、飲める水なんだね」
「ソウダ」
地上で降った雨などが、長い時間をかけてこの場所にしみ出し、大きな池にまで成長したのだろう。つまり、このダンジョンは遥か昔から存在していたという事になる。
「水は貴重だ。ここで調達しておこう」
デリクは鞄をジェリダから受け取り、動物の皮を鞣した物に水を補給する。ジェリダも少なくなっていた水を池から補充した。
トロイもがぶがぶと池に口をつけて喉を潤す。
「トロイ、ここからあとどのくらいで階段に着くの?」
「コノ池ヲ越エテ行クト、大岩ガアル。ソコニ階段ガアル」
トロイは池の向こう側を指さす。その先を見ると森の中に木々の高さを突き抜けて見える大岩があった。今まで背後の壁と同化して見えていたが、この近さなら巨大な岩石だと分かる。
「あんなところに階段があるのか?」
「ココハ、アノオーガカ、三階ニイルトロールヲ、倒サナイト来レナイ場所ダ。ダカラ転移用ノ陣ガアル」
「は? ちょっと待て、俺達はいま通常と違って逆走している形で進んでいる。という事は、俺達があの岩の場所にあるという転移用の陣に入れば、速攻でトロールと戦闘になるってことか!?」
「ソウナル」
「貴様! やっぱり俺達を罠に嵌めて――」
「それより、ここは四階層で次は三階層でしょ? 三階層には岩からくり出されたような住居区域があった。それ以外にボスがいるフィールドがあるの?」
デリクの言葉を遮ってジェリダは落ち着いてトロイに問いかける。ジェリダ達が辿り着いた三階層は、石で造られた家がある広い空間だった。まだ調査ができていなかったため、あの三階層がどの様な構造をしているか分からない。だが、トロイの言う通りならばあの場所の何処かにトロールのいるボスの部屋があるのだろう。
「石ノ家ガアル場所カラ、奥ノトロールの部屋ニ行ケル場所ガアル」
「なんでそれを言わなかったの」
「知ッテイルト思ッタ。スマナイ……」
トロイには本当に悪気がなかったようだ。それを見てはデリクもそれ以上強く言うつもりはなくなってしまう。
話しが途切れた時、ジェリだは眠気を感じてあくびをする。今の時間を確認していなかったと思い、時計を見るとて夜の十時だと言うのが分かった。この場所は明るいために気が付かなかったが、ジェリダの体内時計は正確に時を刻んでいるようだ。デリクもジェリダの時計を覗き込んで今の時間に驚いた。
「もう夜になっていたなんて気が付かなかったな。ここが明るいせいで変な感じだが、一度寝た方がいい」
デリクの言うとおり、かなりの距離を歩いたり戦闘をしたりと、疲労が溜まっている。明るいからといって無理に動くのは後々に響くだろう。二人は野営の準備をし始める。
「今日ハココデ寝ルノカ?」
「うん。もう遅い時間だし。トロイは寝ないの?」
「我ハ、アマリ睡眠ノ必要ガナイ」
魔力の少ない魔物であれば魔力を温存するために睡眠は必要になるが、トロイのような大型の魔物は必然的に多くの魔力を有している。そのため、あまり睡眠は必要なくなってくるのだ。
「それじゃ、トロイは火をおこしてくれる?」
「分カッタ」
トロイは焚き火用の枝を取りに森の中に入って行った。その間に手早く二人分の小さなテントを張る。しばらくしてトロイはその大きな腕一杯に拾った枝を抱えて戻ってきた。ドサドサッとその場に枝を大量に置く。
「コレデ、足リルカ?」
「十分過ぎるぐらいだよ。ありがとう」
「なあ、ここまでこのトロイがジェリダに従順なのは、ジェリダの使役になっているからなのか?」
「ここまで大型の魔物を使役したのが初めてだから詳しくは言えないけど、ある程度相手が私を認めるか、完全に私の使役スキルが相手に作用するかによって変わる」
デリクはトロイがここまで従順なのが不思議だった。利害が一致していると言っても、魔物は人間に従うのを嫌うものだ。それは大型になればなるほど嫌う傾向にある。だが、トロイはとても大人しく、敵意などを感じない。それどころか、先のオーガとの戦闘では吹き飛ばされたデリクを庇ってくれた。
二人がそんな会話をしていると、トロイは左右に目を泳がせ、そしてシュンとして項垂れてしまった。さっき謝った時よりも落ち込んでいる。大きな体が小さく見える程だ。
「我ハ出来損ナイダ」
トロイはぽつりと呟く。二人は急に元気をなくしたトロイに戸惑う。
「? それは誰かに言われたの?」
「言ワレタ。モウ、何十年モ昔ニ。ココニ来タ人間ニ。我ハ、魔物ノ中デモ人間ニ興味ヲ持ツ出来損ナイダト……」
それは偶々、このダンジョンに入った人間がトロイと遭遇し、恐怖と不気味さから放った言葉だった。それをトロイは未だに引きずっているようだった。だが、そこで二人はある疑問を持った。
「待て、お前はいつからこのダンジョンを彷徨っているんだ」
「……百年以上ハ経ッテイルト思ウ」
「百年!?」
デリクが驚いたのには訳がある。冒険者という存在が現れ出したのはここ数百年の間だと言われている。そして、ダンジョンが初めて見つかり出したのは約百年前。もしかすると、このダンジョンはダンジョンんがどの様にしてできるのか、解き明かす鍵になるかもしれない。しかも、トロイという人と言葉を交わす事ができる温厚な魔物がいるのだ。これほど手掛かりになるものはない。
「カツテハ三階層ノボスヲ我ハシテイタ。ダガ、誰モ来ナイ。ダカラ、アル日外ニデタ」
トロイは生まれた時、既に三階層のボスの部屋にいたという。だが、誰もやって来ない退屈さに外に出たのだという。そしてダンジョン内を探索し、その過程で何度か人間に遭遇したそうだ。そして、ある男が落としていった本で言葉を学んだという。学ばなくてもある程度は人の言葉を話せたが、あのオーガのようにかなりの片言だったらしい。
「じゃあ、今三階層にいるっていうトロールはどうやってボスになったの?」
「ダンジョンガ生ミ出シタ。我ノ代ワリニ」
ボスの役目から離れたイレギュラーなトロイの代わりに、新たなボスをダンジョンは生み出したのだという。これではまるで、ダンジョンが生きているように思える。ダンジョンの謎を解き明かそうとしている研究者からすれば、トロイのこの情報は黄金の山と変わらない程価値があるだろう。
「我ハ自由ニナッタ。ダガ、三階層ニアル、アノ割レ目ニ落チテシマッタ。出ヨウニモ、アノオーガハ、我ヨリモ強カッタ。ダカラ、ズット出ラレナカッタ。二人ノオ陰デ出ラレタ」
つまり、トロイは始めは三階層のボスだったが、好奇心旺盛で外に出ると、ボスの役目から外されて自由になった。人間の本などを見て言葉を学んでいたが、うっかり割れ目に落ちてしまった。そこから出ようにも確信ダンジョンのボスであるオーガはトロイよりも強くて数十年間、あの場所をうろついていたのだという。
「トロイは出来損ないなんかじゃないよ」
ジェリダは落ち込むトロイをポンポンと優しく叩く。トロイはゆっくりとジェリダと視線を交わらせる。
「トロイは人間に興味を持つ事ができる珍しい心を持ってるんだよ。それは、出来損ないじゃなくて、特別って言うの。だから、トロイは凄いんだよ」
「我ハ、特別……。特別ハ凄イノカ?」
「もちろん」
ジェリダの言葉に、トロイの瞳に光が灯る。キラキラと輝いて、次第にそれは並だとなって瞳に溢れる。
「え! トロイ!?」
「魔物も泣く事ができるのか!?」
流石に泣くとは思っていなかったジェリダとデリクは慌てふためく。と、ジェリダのその頭に大きな一粒の涙が落ち、髪をしっとりと濡らした。
「ウモォォォォォォオオオオ]
トロイは大きな声で泣き出してしまった。バタバタと落ちて来るトロイの涙からジェリダは逃げる。だが、その涙は嬉しさの涙だと分かっている二人は、トロイが落ち着くまで慰めてやった。
次は6月24日21時に更新です。




