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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第三章 ダンジョン編
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第46話


 黙々と歩き続けてどれほど経っただろうか。少し足に疲れが出て来たが、歩けないという程ではない。ジェリダは常に索敵スキルを使い、周囲を警戒する。


「少し休憩しよう」


 最初に休憩を言い出したのはデリクだった。軽量とはいえ、鎧を着ているのだ。疲労はジェリダよりも溜まりやすいだろう。近場の石に腰かけて、ジェリダが手渡した荷物を探る。中には数日分の食料と水が入っている。ごくごくと水を飲むと一息吐いた。


「はぁ……。お前、意外と体力があるんだな」


 その言葉はどこかジェリダに対する態度が軟化しているように思えた。ジェリダも水を飲んでいたが、肩眉を僅かに上げて驚いていた。


(こんな状況だから弱気になってるのか、それとも私を少しずつ認めてきているのか、どっちだろ)


 そんな事を悠長に考えていると、索敵の範囲に引っかかった魔物の気配を感じ取った。ジェリダは一瞬で緊張した気配に切り替える。それを感じ取ったデリクも立ち上がって剣に手を伸ばす。


 ドスンドスンという重量感のある足音が次第に近づいてくる。そして、二人の目の前に現れたのは人の体に牛の頭を持つミノタウロスだった。


◇◆◇


「負傷者は一部に集めて治療しろ! 小隊のメンバーに欠けた者はいないか!」


「アイザック隊長! デリクと冒険者のジェリダが割れ目に落ちて……!」


「何だと」


 カルムの報告に、アイザックは急いでその割れ目に向かう。


「ここです。ここに割れ目があったんですが、二人が落ちた途端割れ目が塞がってしまって」


「これは……珍しいタイプの隠しダンジョンかもしれん」


(たった二人で隠しダンジョンに落ちたとなると生きて戻れるか……。入り口が塞がったという事は隠しダンジョン内で何かボスを倒さないと出れないという事か? そうだとしても……)


 アイザックは厳しい表情で割れ目を睨む。カルムはその表情からこの状況が良くないという事を悟った。すると、ルベルが駆けて来た。


「カルムさん! ジェリダ様はどこに!?」


「ルベル……。それが、ジェリダは――」


 カルムは落ちたデリクを助けようとしてジェリダが割れ目に飛び込み、その割れ目が閉じてしまったという事を説明した。ルベルはがくりとその場に膝を付く。


「おいっ! ルベル!」


「俺は……俺はいつも肝心な時にジェリダ様の側に居られない……」


 近くにいるつもりでも、すぐにジェリダはルベルの元を離れて行ってしまう。絶望するルベルに、堪えきれなくなったカルムはルベルの顔を上げさせる。そして、


「下を向くな! お前の主はそんなにも信用がないのか!? ジェリダはここにいる誰よりも実力のある奴だ! すぐにくたばるような奴じゃないだろ! それはお前が一番わかってるはずだ。だから、お前はどっしり構えて、ジェリダが帰って来るのを待ってろ! あいつは絶対に戻って来る!」


 カルムは真っ直ぐにルベルの瞳を見て、ルベルを励ました。絶対などこの世にはないだろう。必ず帰って来るかは分からない。だが、ジェリダは計り知れないほどの力と才能を持った少女だ。カルムには絶対に返ってくるという謎の信頼があった。


 絶望的な表情をしていたルベルだったが、カルムの言葉に叱咤され、瞳に活力が戻って来る。


「……すみません。無様な姿を見せてしまいました。俺、怪我をした人たちの所へ行ってきます」


「ああ」


 立ち上がったルベルは、自分にできる事を手伝いに行った。一連の出来事を見守っていたアイザックは、無言でカルムの頭をわしわしとかき混ぜた。


「た、隊長!?」


「……言うようになったな、カルム」


 それはカルムの努力を一番していいるアイザックだからこそ、言える言葉だった。カルムは少し照れくさそうに、ははと笑った。




「こんな相手、どうすれば……」


 流石のデリクがそういうのも無理はない。二メートル以上の背丈を持つ黒い色のミノタウロスは、獲物を値踏みする様に見下ろしている。手には大斧を持ち、目は爛々と赤く光っている。


(狼虎との戦闘経験を生かせばどうにか仕留められるか? でも、この狭さじゃ……)


 狼虎との戦いでは、炎系統の魔法で追い払ったようなものだが、この狭い空間で大きな炎魔法を使えば自分達に被害が及びかねない。それに、今回はジェリダ一人で戦う訳では無く、デリクも戦闘に参加してくるだろう。ルベル以外の人物と連携が取れるか、それが心配だった。


「我ヲ、恐レルか人間」


「「!」」


 ミノタウロスは不意に口を開き、片言ながらも人間の言葉を口にした。いっそう二人はミノタウロスに対する警戒心を強める。魔物が人の言葉を話すという事は、それだけの知性が身に付いているという事だ。つまりその魔物は長い年月を行き、賢くなったイレギュラー。そのような者達が次第に力と魔力を強め、上位の魔物に変化していくのだ。


「恐レルコトハ、ナイ。我ハ、敵意ヲ向ケナイ」


 ミノタウロスはそう言うと、その場に斧を置き、蹴って遠くに飛ばす。暗闇の中で斧がガンゴンと転がる音がした。そして、敵対心がない事を示すために両手を上げた。


「そんなの信用できるか」


「何故、敵対しないの」


「おいっ! 魔物と言葉を交わそうとするな! 油断させるための罠だ」


「罠デハナイ。我ハ人間タチニ協力ヲ、シテ欲シイノダ」


「何を?」


「いい加減にしろ!」


 ジェリダはミノタウロスに何を協力して欲しいのか問い掛けるが、一方のデリクは剣を鞘から抜き去り、駆け出した。だが、ジェリダが地面を軽く着くだけで、デリクを囲う檻を形成する。


「お前!!  ここから出せ! まさか魔物の仲間か!」


「黙って。あなたはこのミノタウロスから敵意が本当にないのが分からないの?」


「それも全て演技だったらどうするんだ!」


「それでも私は対処できる。それで、何を協力して欲しいの?」


「コノ奥ニイルオークヲ倒シテ欲シイ。我ハ、ソコカラ外ニ出タイ。我デハ、アノオークヲ倒セナイ」


「ミノタウロスを外に出してみろ! 冒険者がこぞって倒しに来るぞ! そいつの言う事に耳を貸すな!」


「外で何をしたいの?」


「お前!」


 ギャンギャンと吠えるデリクを完全にシャットアウトしてジェリダはミノタウロスに問いかける。ミノタウロスは少しの逡巡の後、意を決したように口を開いた。


「我ハ、外ニ出テ学ビタイ。イロイロナ事ヲ。ソノタメニ、外ニ出ル事ヲ手伝ッテ欲シイノダ」


 それは、魔物の抱く感情としてはかなりの異例だった。言葉を介する事ができる魔物が、人間を襲う以外の考えを持っているなど、誰が想像できよう。ジェリダも騒いでいたデリクも呆気に取られる。


「我ハココデ人間ノ落トシタ本ヲ読ミ、モット学ビタイト思ッタ。ドウカ、頼ム」


 ミノタウロスはどんな本を読んで学んだのか、ジェリダに向かって頭を下げた。


(これがもしデリクが言うように演技だったらそれはそれですごいけど、いざという時に首を落とせるか……。でも、ちょっと信じてみたい気もするな)


 思案するジェリダをミノタウロスはじっと、願うように見つめる。そして、ジェリダは一つ頷いてミノタウロスを真っ直ぐに見た。


「いいよ。あなたを外に出してあげる。その代わり、私の使役になる事。どう?」


「外ニ出テ学ベルナラ、ソレデモイイ」


「本気か!? そもそもこいつを外に出すにはこの奥にいるっていうボスを倒すって事だぞ! お前はダンジョンボスの仕組みを知っているのか!?」


「ダンジョンボスの仕組み?」


 それはジェリダの知らない言葉だった。デリクはジェリダの目を覚まさせるため、必死に説明する。


「ダンジョン内にいるボスは倒しても、数時間すればまた復活する。それに、そのミノタウロスが倒せないオークという事は、亜種である可能性が高い。たった二人で倒せる魔物じゃない筈だ! だから、そのミノタウロスの言う事は絶対に罠だ! 俺達をそこに誘い込むつもりだぞ!」


「でも、どのみちその亜種のオークを倒さないと外に出れないんじゃない?」


「それはそうだが……っ!」


「このミノタウロスが嘘を吐いているのなら、そのボス共々私が倒してあげる。どう?

これで」


 それは根拠のない自信ではなかった。ジェリダはそれだけの実力を兼ね備えている。それは狼虎を相手にして手に入れた自信だ。それは、デリクも今までの行軍の中でジェリダの動きを見て分かってはいた。自分よりジェリダの方が強いという事を認めたくないだけで。デリクは様々な葛藤を巡らせ、そして、諦めたように溜め息を深く吐いた。


「……分かった。お前ができると言うなら出来るんだろうさ。お前の言う通り、そのオークを倒さなければ外に出られないのは確かだしな」


 こうして、ジェリダはミノタウロスを使役とし、二人と一体の奇妙なパーティーが結成されたのだった。


次は6月17日21時に更新です。

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