第40話
新章スタートです。
「グルルル……」
「ガウガウガウガウ!」
「突然どうしたんだ……。あ! ジェリダ様!」
「ただいま」
ホオズキを経過ししたホワイトウルフ達の声で家の中から出て来たルベルは、ジェリダの姿を見て駆け寄った。
「突然行ってしまって心配したんですよ!」
「ごめんね。でもたった二日ぐらいだけだったでしょ」
「そうは言っても!」
「おい、俺はもう帰るぞ」
突然ワ国へと言ってしまったジェリダにルベルは半泣きで縋っている。ジェリダはホオズキの方を振り返る。
「ここまで送り届けてくれてありがとう」
「コウリョク様の命だからだ。……ま、ワ国を救ってくれたっていうのもあるが」
最後の方は何だか照れ臭そうに言うと、いつもの倍の速さで呪文を唱えるとさっさとワ国へと帰って行ってしまった。
「え、ワ国を救ったとはどういう事ですか? まさかワ国で起きた上位魔族の事件と内乱に加わっていたのですか!? そ、それにアオイさんは?」
「あーワ国の事は置いといて、アオイはワ国でやる事があるから帰ったの」
アオイは自身は当主に向いていないと言っていたが、今のワ国の混乱を収めるためには武将五家の協力が不可欠だと考えた。それならば、当主である自身が統率を取らねばならぬと考えを改めたのだ。狼虎に食らわれたカスミに変わり、その弟が仮の当主として選出されているが、事が収まれば正式に当主の座につく事だろう。
たった二日ほどしか経っていないが、すでにルベルの耳にワ国の情報が入っているという事は、近隣諸国にも情報は流れつつあるのだろう。これほど早く情報が回ったのはやはり、上級魔族が関わっているからと言える。
(情報が回ってるならこれを冒険者ギルドに持って行ってもいい感じかな)
ジェリダは狼虎の肉片を包んだ風呂敷袋を一度その場で広げる。
「ジェリダ様、この肉は? 何かの動物ですか?」
「んー、ちょっとしたいいものだよ」
「はあ」
ジェリダは肉の一部を切り取ると、別の小さな布にくるんで鞄の中に入れた。大きな肉の方はもう一度風呂敷で包みなおす。
「よし、ちょっと冒険者ギルドに行ってくる」
「え、あ、俺も行きます! ちょっと待っててください」
ルベルは慌てて家の中に戻ると自分の剣を持って戻ってきた。そして二人は冒険者ギルドへと向かった。
門をくぐり、冒険者ギルドを目指していると、ジェリダは数日ワ国に言っていただけで随分とホロルの町を懐かしく感じていた。
「やっぱりワ国とは町並みも服装も違うな~」
「そんなに違ったんですか?」
「うん。基本ワ国の人たちは和服? っていうアオイが来てたような服を着てて、家はこっちの家より低い感じだったかな。あと、庭がすごくきれいだった。こっちの庭とはまた趣が違うって感じかな」
「それはまた興味深いですね」
「庭の手入れをしてるから?」
「ははっ、それもありますね」
ジェリダが家を空けている間、ルベルは庭の手入れとポーション用の素材回収をしていたらしい。最初の内はゴブリンは素材を渡してくれていたが、ポイズンラーヴァは素材の回収をさせてくれなかったらしい。そこを何とか餌付けをすることで素材回収を可能にしたという。
「師匠にも素材を貰っていたお陰でかなりのポーションが出来てます。ま、レントさんとその友人の肩は死にそうな顔してましたけど」
立った二人で大量のポーションを造っているのだ。疲労もたまるだろう。
「後で何か持って行ってあげよっか。あー冒険者ギルドが懐かしく思える」
冒険者ギルドの前まで来たジェリダはその周囲を見てしみじみという。たった数日にも関わらず、おかしなものだ。ジェリダとルベルはそのドアを開けた。
「あ、ジェリダさん。しばらくこっちにお顔を出さないなんて珍しいですね」
「ちょっと色々あって。今日はこれを鑑定してもらってもいいですか?」
「はい、かしこまりました。…………あ、あの、ジェリダさん。これってま、まさか放つ魔力の感じからして中級魔族、いや上級魔族の肉片ですか」
「どうして分かったんですか?」
「ええええぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」
ギルド内にリリィの悲鳴が響き渡る。ジェリダはこれも何だか以前にあったようなと思いながら、少しひきつった表情になる。
「何事だ! む!」
リリィの悲鳴に驚いてギルド長が奥から飛び出してくる。そして、リリィの持つ物を見て状況を瞬時に判断する。リリィの声でギルド何にいた冒険者はまた何事だとざわつく。
「また君か……。ここでは目立つから奥に来なさい」
やれやれと思っているのか、ギルド長ラドックはジェリダとルベルを奥に通す。リリィが鑑定していた袋の中身も一緒に。二人はもう慣れたものですたすたとラドックの後ろをついて行く。
周りの冒険者たちはまたジェリダが何か発見したのでは、いいや新しいダンジョンでも見つけたのでは。などなど、好き勝手に噂をし始めた。
そんな騒がしい場所から離れ、ギルド長室に通された二人はラドックと向き合っていた。
「それで、これはいったいどこで取って来たんだ」
「ワ国で。ギルド長もご存知でしょう。ワ国の内乱とその地に封印されていた上級魔族の復活の話しを」
「それは知っている。だが、その上級魔族は片足を何者かに落とされて逃げたというが、まさか……」
「私です」
「なっ――!」
「そ、その証拠は!?」
ルベルは絶句していたが、ラドックはまだ信じられないという顔だった。ジェリダはその証拠となるか分からないが、コウリョクから預かった書状をラドックに手渡す。
「これはコウリョク様から直々に受け取った書状です。証拠になりますか?」
「拝見させてもらう」
書状を乱暴に扱わないように大事に中身を確認していく。そして、書状を読み終わるとジェリダと書状を二度見する。
「ほ、本当に上級魔族に手傷を負わせたというのか……」
「はい。信じて貰えましたか?」
「こんな正式な書状を見て信じない訳にもいかないだろう。まったく、君はとんでもない冒険者だよ」
「ジェリダ様、上級魔族と戦ったんですか…」
「そうだって何度も言ってるじゃない」
「またそんな無茶ばかりをして……。怪我はないんですよね!?」
「大丈夫。大丈夫。戦闘のあと魔力切れによる疲労で気を失ったけど、怪我はないよ」
「魔力切れだけで済んだだけ御の字だろう。上級魔族は歩く天災だ。その攻撃は計り知れない威力を持つという。これはまた君の武勇が増えたな。そうなると、やはり君の冒険者ランクも考えなくてはいけないな」
(ここまではいい流れ)
「だが、Aランク冒険者になるには他の冒険者達にも認められる功績がないといけない。そこでだ、私の出すクエストをこなしてみないか?」
「ギルド長自らが出すクエストですか」
「そうだ。もちろん、君も加わってくれて構わない。功績によってはランクアップも夢じゃない」
「内容はこの場で聞いても?」
「構わない。最近南門を過ぎて行った先に、フィルム渓谷があるのは知っているか?」
「はい」
「そこで、新たなダンジョンが見つかったそうだ」
フィルム渓谷とはフィルム大国一大きな谷だ。近年そこでは地質調査が行われていた。そこで偶然調査隊の一人がロープで降りて谷の下を調査していたところ、新ダンジョンを発見したとの事だ。それは本当につい最近で、ジェリダがワ国へ行っている間に発見されたという。
「調査隊としてフィルム大国の兵士達がダンジョンにに入る。数名の冒険者も同行する事になっている。そこに、君たちが加わってみないかという事だ」
「そのダンジョンの推定レベルは?」
「まだ分からない。ただ、場所からして土や岩系統の魔物が出ると予想される」
ジェリダの言う推定レベルとは、ダンジョンを攻略できる目安である。自分のレベルと10前後離れているといいと言われている。そのダンジョンの推定レベルを目安に自分が入っても攻略できるダンジョンかどうかを判断する。
無論、自分のレベルよりも遥かに高い所に行くのは構わないが、帰って来られる確率が小さくなる。その辺りは自己判断となる。
「どうだ、このクエスト受けてみるか?」
「もちろん」
「ジェリダ様! いいんですか!? ダンジョンにはまだ入った事がないですよね? そんな無茶をしなくても……」
「別に自分の力を驕ってるわけじゃないよ。ただ、レベルアップや自分の経験を高める事が出来るならいいじゃない」
「君はどうする? やめておくか?」
「いいえ、ジェリダ様が行くなら俺も行きます」
「では決まりだな。出発は二日後。初めてのダンジョンだ。最低限必要な物はこのメモに記してあるから、参考にするといい」
そう言ってラドックはジェリダとルベルに小さなメモを手渡した。
次は6月4日21時です。




