第37話
短めの内容になり申し訳ないです。5月を過ぎれば長く書けるはず
「封印が!」
「アハハ、これで俺達の勝ちだ!」
少年が高らかに勝利の声を上げる。少年に割られた玉からは黒い黒煙にも似た瘴気が立ち昇る。そして、その瘴気の中から次第に形のある者が現れた。バキバキと建物を壊しながら姿を現した狼虎。瘴気を纏いながら、深々と息を吐く。
【あぁ、久しぶりの外は素晴らしい】
その身の丈はジェリダやアオイが見上げる程高く、二足で立つその大きさは三十メートルを超す。獣のような灰色の毛に覆われた体、顔は犬のように鼻が伸び、鋭い牙が覗いている。そして、その背には黒い蝙蝠のような翼が付いていた。
声は腹に響くような低さで、普通の者ならとうに気絶していただろう。武将五家の四人は目覚めさせてしまった狼虎を見上げている。その中でも、ホオズキが悔し気に表情を歪めていた。
「狼虎殿! 我らは明けの塔。この世界に魔王様を目覚めさせんという悲願、手伝いいただけるだろうか!!」
玉を叩き割った少年は、そびえるように立つ狼虎に声を張り上げた。足元の声が聞こえたのか、狼虎は下へと首を巡らす。
【小さいな、人間が我を封印から目覚めさせたのか。して、貴様の申したその悲願、誠であろうな】
「我らがアジトについて来られれば、その確固たる証拠をお見せしましょう」
【ほおぅ……】
「させるか!」
声と共に飛び出したのはホオズキだった。フィリップの足止めは任せろとタチバナに言われ、翼を持つホオズキがアオイ達の元へと駆け付けたのだ。
(まだ力を完全に取り戻していない今、封じなおすならば今しかない!)
ホオズキは懐から例の赤い札を取り出す。
【むっ……!】
すると狼虎は、ホオズキの手にする札の正体が分かったのか、眉を顰める。だが、この行動を見越していな程、明けの塔は愚かではない。
「狼虎様、少々失礼しますよ、っと!」
少年は山登りでもするように軽々と狼虎の体を駆け上り、その肩まで行くと何やら魔術を使い、黒い空間を呼び出す。そこに片腕を突っ込むと、ある者を引きずり出した。
「カスミ!?」
「そう。お前らのたーいせつなカスミちゃんだ。あんな屋敷に閉じ込めておこうが、こんなふうに空間を繋げば簡単に攫う事ができる。そこまで考えないとは、いよいよ馬鹿か? お前らは」
カスミは少年に横抱きにして抱えられる。だが、ぐったりとしている処を見るとまだ意識を失っているようだ。
「さあ、狼虎様。この女をお食べください。たかが小さな人間ですが、その身にある魔力はそこらの人間よりは遥かに上です。あなたが喰らえば多少は力になりましょう」
「貴様――!」
ホオズキは怒りが限界に達し、ホオズキが少年の元まで飛翔する。だが、狼虎はそれを阻むべくその大きな翼を動かした。
「きゃあ!」
「っう――!」
「これはっ……」
ホタルが悲鳴を上げる。アオイもジェリダも凄まじい風圧に吹き飛ばされないようにするのが精一杯だ。ジェリダは片目を開け、壊され穴の開いた床から地面に杖を刺す。そして、そこから風よけ用の土壁を造った。
「ジェリダ、すまない助かった。ホタル、無事か」
「ちょっと、木の破片が掠ったけど大丈夫よ」
ホタルの腕は着物が裂け、生白い腕が覗いている。そして、そこを伝う赤い血。量は少ないため、大したことはなさそうだ。
「後で治療するから――」
そう言ったジェリダの頬に温かな雫が落ちてきた。ジェリダは何気なしにその滴を拭い、目を瞠る。次いで、落ちて来たのは血、血、血、肉塊。
「いやああああぁぁぁぁああああ!!」
ホタルは甲高い悲鳴を上げた。その視線の先には遥か上にいる狼虎の口元に向けられていた。バキバキと音がする。血が雨のように降り注いだ。その血や肉片は誰なのか。そんなもの、ショートしかかった頭でも理解できる。カスミが、狼虎に食われているのだ。
「な、あ…………」
アオイも上を見上げながら茫然と口を開けている。
「っつ」
ジェリダはこれ以上この二人にあの凄惨な光景を見せるのは良くないと判断し、土の壁を円形状にして見えないようにする。ホタルは悪夢のような光景が見えなくなると、ぺたりとその場に膝を付いた。
「嘘よ、うそ……」
ぽろぽろと両の瞳から涙を零しながら、うわ言のように呟く。だが、その場に落ちてきている血を見れば真実かどうかは明らかだ。
【ふーむ、人間一匹でこれほどの魔力とは。少しが力が戻ったな】
ぺろりと血に汚れた口周りを舐めると狼虎は満足げに口角を上げる。立ち向かって行ったタチバナは翼の風圧に吹き飛ばされた際、少年が投げた暗器を避け切れず、羽根に暗器が刺さり、地面に縫い留められていた。
ほぼ真下でホオズキはカスミが狼虎に喰らわれる様を見せつけられた。その身は降り注いだ血肉で赤黒く汚れている。
「くっそがあああぁぁぁああああ!!」
ホオズキはじたばたと翼を動かし、両方に刺さった暗器を振り払う。バタバタと血が地面に吸われる。だが、そんな自身の怪我など気にも留めず、傷ついた翼で飛び上がる。
【小賢しい羽虫よ】
狼虎は飛び上がって来るホオズキを手で払い落そうとする。そこに上手くホオズキは札を張り付けた。だが、
「なっ…!」
狼虎にくっついた札は一瞬、青い火花を散らし、次いでボウと燃えてしまった。それは、封印しようとした相手の力に札が押し負けたという証だった。
【この我を封じた時はもう少し骨のある者が多かったが…。弱くなったなぁ、人間】
その言葉と共に、ホオズキは地面に叩きつけられた。地面は衝撃で窪み、ホオズキは気を失ってしまった。
「や~狼虎様、なかなかやりますねぇ。ま、こんなクソ雑魚共は置いといて、我らがアジトへとご案内します」
「行かせる訳ないじゃん」
【ぬ、ぐあぁ!!】
飛び立とうとしていた狼虎を止めたのはジェリダだった。
狼虎の片足に深々と突き刺さる土でできた楔。地面から直接足を貫かれ、狼虎は怒りの籠った目でジェリダを睨みつける。
【おのれ小娘えぇえええ! ただで済むと思うなよ!】
「それはこっちの台詞。ここまで手ひどくやられたらやり返すのが当たり前でしょ。片足ぐらい、もぎ取ってあげる」
ジェリダは心底楽しそうに、狼虎を睨み返した。
次は5月26日21時です。




